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左岸/パヴィヨン・フォーブル・サンジェルマンの誘惑。

  • 2022.5.16
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1800年代前半のパリを舞台にしたバルザックの小説『ゴリオ爺さん』。製麺業者のゴリオ氏はふたりの娘をそれぞれ金持ちと結婚させた。作品中、新興ブルジョワの銀行家と結婚した次女は右岸のショセ・ダンタン地区に住み、貴族と結婚した長女は左岸フォーブル・サンジェルマンに住む……というこの地区分けは当時のパリをよく表している。後者はプルーストの『失われた時を求めて』でも上流階級の人々が暮らす場所として描かれているように、20世紀前半でも土地の性格は変わっていない。そして21世紀のいまでもパリで地価が最も高いのも、かつての個人邸宅が数多く残るこの7区のフォーブル・サンジェルマン。貴族たちの控えめなエレガンスがいまも感じられる界隈である。

そのユニヴェルシテ通りとプレ・オ・クレール通りの角に、5ツ星ホテル「Pavillon Faubourg Saint-Germain(パヴィヨン・フォーブル・サンジェルマン)」が4月にオープンした。19世紀の3つの建物をひとつに繋げたという石の外観がシンプルでシックで、同じChevalier Parisグループのホテルに属するマレのヴォージュ広場にある「Pavillon de la Reine(パヴィヨン・ドゥ・ラ・レーヌ)」のように格調の高さが感じられる。その昔、ホテルのあるこの地でジェイムズ・ジョイスやT.S.エリオットといった作家たちがパリ滞在したという、左岸らしい過去の歴史からホテルの内装は文学を意識。ホテルの1階、書棚にGallimard出版社の本の表紙を並べた文学サロンが設けられているのも、それゆえなのだ。

左: プレ・オ・クレール5番地にあるオテル・パヴィヨン・フォーブル・サンジェルマンの入り口。建物の構造に関わる面を担当した建築家はVincent Bastie(ヴァンサン・バスティ)。右: 客室は350ユーロ〜。写真のカテゴリーはドゥ・リュクス。

左: 左岸らしい落ち着きのあるシックなインテリア。内装を任されたのは室内建築家のDidier Benderli(ディディエ・ベンデルリ)だ。右: テラゾの床のシンプルで清潔なバスルーム。アメニティはコダージュ。

スイートを含め全47室のホテル。その中に、当初は発禁書物扱いされたがいまや20世紀前半の重要な文学作品のひとつに数えられる『ユリシーズ』の一部をジェイムズ・ジョイスが書いた部屋が含まれている。パヴィジョン・フォーブル・サンジェルマンではそんな彼にオマージュを捧げ、最上階の70㎡の部屋を「スイート・ジェイムズ・ジョイス」と命名した。窓の向こうに灰色の屋根が並ぶ光景がいかにもパリ!と外国人を喜ばせる屋根裏部屋で、木の梁がむき出しでボヘミアンな雰囲気にまとめられている。バスルームがふたつ設けられているので、家族や友だちとの複数での滞在にふさわしい。

スイートだけでなく、クラシック、スーペリア、ドゥ・リュクス、ジュニア・スイートも梁に床張り、天井の装飾……といった伝統的な内装の要素に、コンテンポラリーな家具やディテールが室内に共存している。快適な滞在のための最新テクノロジーが導入されているのは、もちろんだ。全体にソフトな色にまとめられ、引き戸の裏に隠されたバスルームはモダンで機能的だ。

70㎡のスイート・ジェイムズ・ジョイス。最上階の斜めの屋根がいかにもパリ!

ホテル、バー、レストランそれぞれに入り口があり、滞在客以外の人も利用しやすい。プレオクレール5番地の木の重厚な大扉からは、ホテルのフロントのあるスペースへと導かれる。その奥には、ガラス屋根から差し込む光が美しいサロンが広がっている。庭でリラックスするような錯覚が得られるのは、モネの『睡蓮』を思わせる壁のグリーンのトワルゆえだろう。

フロントの入り口左からプレ・オ・クレール通りに沿って、文学サロン、バーと続く。アイルランド人のジェイムズ・ジョイスにインスパイアされたというバーには英国のクラブのような温もりもあり、またフォーブル・サンジェルマンの高級アパルトマンのような異国情緒も取り入れてシックな雰囲気だ。ここでカクテル、タパス、生ビール……。左岸の50年代を席巻したジャズブームにならい、時にジャズコンサートもいずれ行われるらしい。

左: フロントデスクのあるスペースから奥のサロンを眺める。右: 工事の際に、覆いの下から隠されていたガラス屋根が姿を現したそうだ。

ユニヴェルシテ通りに面しているのはレストラン「Les Parisiens」の入り口。この店名の由来にもジェイムズ・ジョイスが関わっている。彼の代表作のひとつ『ダブリン市民』がヒントとなり、シェフのティボー・ソンバルティエが提案するパリ的な料理にもふさわしいということからパリ市民を意味する「レ・パリジャン」と決まったそうだ。床のモザイク、丸いランプシェードなどパリのブラッスリーのコードが生かされたレストランで味わえるのはハーフ・ロブスターのグラタンのフライドポテト添え、タルタル・ステーキ、エスカルゴのラヴィオリ、舌平目のムニエル……。人通りの少ないプレ・オ・クレール側にはテラス席も設けられるそうで、初夏のサンジェルマン・デ・プレの暮れなずむ宵を満喫するには最適な場所となるに違いない。

ホテルの地下は、かつてパリの伝説的キャバレーとして名高いクオッドリベットが存在した丸型天井の石の空間だ。「ミラボー橋」でヒットを飛ばしたレオ・フェレをはじめ50年代の歌手たちがここでデビューしたという歴史がある。ヨガルーム、フィットネスルーム、そしてCodage(コダージュ)による「Spa des Près(スパ・デ・プレ)」があり、ハマムに加え、スパは大理石が美しいジャクジーを併設。とても良い時間が過ごせそう。

かつてオテル・ルノックス・サン・ジェルマンがあった場所を占める、レストランのレ・パリジャン。営業は12時~14時15分、19時~22時15分。休みは日、月。

左: 文学サロン。背板がブルーにペイントされた書棚にガリマール社の文芸雑誌NRFのカバー1500冊が並ぶ。右: バーから、文学サロンを眺める。photos:Mariko Omura

オリジナルカクテルも揃えたバーで大人の時間を。photos:Mariko Omura

Hotel Pavillon Faubourg Saint-Germain & Spa5, rue du Pré-aux-Clercs75007 Parishttps://ja.pavillon-faubourg-saint-germain.com@pavillon_fbg_saint_germain

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