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カンヌ国際映画祭の新たな取り組みと受賞傾向を振り返る TikTokとのコラボの意図は?

  • 2022.5.16
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2022年、第75回カンヌ国際映画祭が5月17日から28日にかけて開催される。コロナパンデミックにより中止を余儀なくされた2020年、例年より2カ月遅れの7月開催となった昨年を経て、今年は2年ぶりに本来の5月開催。久々に世界3大映画祭で最も注目度の高い映画祭にふさわしい、華やかさと賑わいを取り戻すことだろう。コンペティション部門やアウト・オブ・コンペティションで上映される作品にも注目が集まっている。

さらに、今年から映画祭のオフィシャルパートナーにショートムービープラットフォームTikTok(ティックトック)を迎えたことでも話題になっている。「#TikTokShortFilm コンペティション」を開催し、広く世界中から新たな才能を発掘しようというわけだ。

ここでは近年のパルム・ドール受賞作の傾向を分析しながら、今年の選出作品や「#TikTokShortFilm コンペティション」の狙いなど、カンヌが目指している先を考えてみたい。

・カンヌ国際映画祭の特徴

ベルリン、ヴェネチアと並ぶ世界3大映画祭の1つであるカンヌ国際映画祭は、なかでもひときわ華やかな祭典だ。その理由は、映画祭に併設されるマルシェ・デュ・フィルム、映画の見本市の存在にある。これは、イタリア・ミラノのMIFED、アメリカのAmerican Film Marketと並ぶ世界3大マーケットの1つに数えられる巨大な市場。世界中からバイヤーが集まり、企画段階のものから売買の対象となる。世界3大映画祭のなかで世界3大マーケットが同時に開催されるのはカンヌだけだ。それに合わせて、上映される作品の監督や出演者もプロモーションのために来場し、マスコミの注目も集まる。

またコンペティション部門に出品される作品や受賞する作品にも、カンヌならではの特徴がある。ざっくり言うと、ベルリン国際映画祭は社会派映画、ヴェネチアは芸術性の高い映画が好まれる傾向がある。これに対して、カンヌでは作家性の強い作品が各賞を獲得する場合が多い。たとえば現在日本で公開中の昨年のパルムドール受賞作『TITANE/チタン』(2021年)も、ジュリア・デュクルノー監督の前作『RAW ~少女のめざめ~』(2016年)と同様のボディホラーで、その一貫性が見て取れる。これは、審査員が各国の著名な映画監督や俳優であることが理由にあげられるだろう。彼らの審美眼にかなった作品は最高の栄誉を獲得し、世界中から注目を浴びることになる。

・近年のパルムドール受賞作はエンタメ性が高い?

先ほど触れたとおり、昨年のパルムドール受賞作『TITANE/チタン』は、かなり過激な描写のあるホラー映画だ。作家性の強い作品が好まれる傾向があるとはいえ、本作の受賞はなかなかに衝撃的だったのではないだろうか。しかし本作は一見グロテスクなホラーでありながら、人が他者とのつながりを求める切羽詰まった姿を描き出した意欲作だ。

近年のパルムドール受賞作をさかのぼってみると、2019年は韓国のポン・ジュノ監督による『パラサイト 半地下の家族』、2018年は是枝裕和監督の『万引き家族』と、日本でも注目を集めた作品が並ぶ。さらにさかのぼって2017年の『ザ・スクエア 思いやりの聖域』、2016年の『わたしは、ダニエル・ブレイク』を挙げてみると、ここには共通のテーマが浮かび上がってくる。2016年から2019年にかけて、パルムドールを受賞した作品は「貧困」や「貧富の差」を題材にしたものばかりだ。そこに『TITANE/チタン』を加えると、どの作品でもそんな社会のなかでいかに他者と繋がるかがユーモアを持って、ときにクレイジーに描かれていることがわかる。作家性の強い作品を好むと言われるカンヌで、5回に渡ってパルムドール受賞作にテーマの共通性が見られるのは面白い。これは多くの映像作家、そして審査員たちが共通の問題意識を持っていることを示しているのではないだろうか。

さらにここで注目したいのは、これらの作品の多くがジャンルとしてはコメディやホラー、サスペンスなどに分類されるような、エンタメ性の高いものだということだ。2015年以前の受賞作を見ると、移民や宗教の問題を扱ったフランスのジャック・オディアール監督による『ディーパンの闘い』(2015年)、女性同士の恋愛を題材としたアブデラティフ・ケシシュ監督の『アデル、ブルーは熱い色』(2013年)、オーストリアの巨匠ミヒャエル・ハネケ監督が老老介護を描いた『愛、アムール』(2012年)など、シリアスなものが多い。それまでのパルムドール受賞作は、いわゆる“通好み”の作品が多かったが、近年その好みも、エンタメ性を重視するようになってきたと言えるだろう。

・今年の注目作品とその傾向

エンタメ性が高いと言えば今年のオープニング作品だ。『アーティスト』(2011年)でアカデミー賞作品賞をはじめとする5部門を制したミシェル・アザナヴィシウス監督の『キャメラを止めるな!』。邦題からお察しのとおり、これは世界各国で高い評価を獲得した2017年の上田慎一郎監督による『カメラを止めるな!』のリメイクだ。すでに日本でも7月15日の公開が決定している。予告編を観る限り「日本でヒットしたゾンビ映画をリメイクする」というメタ的な内容になっているようで、公開時にも注目を集めるだろう。カンヌでの評判も気になるところだ。

公式ラインナップ発表前には、デヴィッド・リンチの新作がコンペティション部門に出品されるのではとの報道や、アウト・オブ・コンペティションでピクサーの『バズ・ライトイヤー』が上映されるとの噂もあったが、いずれも事実ではなかった。しかしアウト・オブ・コンペティションについては、トム・クルーズ主演の大ヒット映画の続編『トップガン マーヴェリック』や、バズ・ラーマン監督によるエルヴィス・プレスリーの伝記映画『エルヴィス』といったハリウッド大作の上映が予定されている。また『マッドマックス』シリーズのジョージ・ミラー監督の新作『Three Thousand Years of Longing(原題)』にも注目だ。

さて肝心のコンペティション部門はというと、パルムドール受賞経験者、常連組、若手と幅広いラインナップになっている。まず日本から是枝裕和監督の『ベイビー・ブローカー』。本作は韓国で制作された作品で、出演者は『パラサイト』のソン・ガンホ、『新感染半島 ファイナルステージ』のカン・ドンウォン、『空気人形』のペ・ドゥナと豪華なキャストでも注目されている。そのほかパルムドール受賞経験者では、2019年に『その手に触れるまで』のベルギーのジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟監督による『Tori and Lokita(英題)』、2017年の『ザ・スクエア』のリューベン・オストルンド監督の『Triangle of Sadness(英題)』、2007年に『4ヶ月、3週と2日』でパルムドールを獲得したルーマニアのクリスティアン・ムンジウの『R.M.N.(原題)』がある。

常連組で特に注目なのは、デヴィッド・クローネンバーグ監督の『Crimes of The Future(原題)』だ。すでに公開された予告編から不気味で不穏な雰囲気が漂っている本作。米Deadlineのインタビューによれば、クローネンバーグ自身も「5分で退席する人が出るだろう」と予言するほどの内容になっているようだ。1996年に『クラッシュ』で審査員特別賞を受賞した彼の新作は、またしても賛否両論を巻き起こす作品になっているのだろうか。また2004年に『オールド・ボーイ』でグランプリを獲得したパク・チャヌク監督の『Decision to Leave(英題)』にも、パルム・ドール受賞の期待が寄せられる。

さらに若手では、2018年に『ボーダー 二つの世界』である視点部門グランプリを獲得したデンマークのアリ・アッバシ監督による『Holy Spider(英題)』、同年に『Girl/ガール』でカメラドール(新人監督賞)を受賞したベルギーのルーカス・ドン監督作『Close(英題)』にも注目だ。

また「ある視点」部門では、早川千絵監督による『PLAN 75』も選出されている。同作は是枝裕和監督がエグゼクティブ・プロデューサーを務めたオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』の1本として制作された短編を基に作られた長編。倍賞千恵子を主演に迎え、75歳以上の人が自らの意志で合法的に尊厳死を選べる世界を描く。日本では6月17日から公開されるので、カンヌの結果によってはさらに人々の関心を集めることになるだろう。

・「#TikTokShortFilm コンペティション」開催の狙いとは

今年のカンヌ国際映画祭で注目すべき点は、やはりTikTokとのパートナーシップ、そして「#TikTokShortFilm コンペティション」の開催だ。これは、これまで映像製作をしたことがなかった人にとっても広く開かれたコンペティションとなるだろう。動画要件には「30秒以上3分以内であること」、「スクリーンフォーマットは9:16であること」などがあり、スマートフォンで作品を製作し、鑑賞することを前提としているのがわかる。同時に「脚本があり、MV、スタンダップビデオ、個人のVlog、リアリティビデオではないこと」などもあり、単なる動画ではなく、まさに新しい映画のかたちを模索する試みだ。スマートフォンや動画投稿・共有サービスの普及により、誰もが日常的に動画を撮影し、視聴するようになった。TikTokでも多くのクリエイターが活躍し、彼らの作品は若い世代を中心に新たな流行を生み出してもいる。世界最高峰の映画祭たるカンヌは、自らの権威を持って新たなクリエイターを励まし、ここから映画の作り手の裾野を広げようとしているのではないだろうか。

カンヌとTikTokは「本企画を通じて、若手も経験豊富な映画クリエイターも、TikTokの幅広いクリエイティブツールやエフェクトを通じて映画制作技術を披露し、新たな方法で世界中の人々とストーリーを共有することを期待しています。」とし、コンペティションへの出品作品にTikTokの特徴でもあるエフェクトを用いることも推奨している。最新の技術とまだ見ぬ才能の融合が、映画文化をより発展させると考えているのだろう。同映画祭は、これまでも学生部門であるシネフォンダシオンや、「ある視点」部門などで若い才能の発掘・支援に力を入れてきた。今回の「#TikTokShortFilm コンペティション」も、その延長線上にある。

世界的に最も注目度の高い映画祭であるカンヌは、近年最高賞のパルムドールにエンタメ性の高い作品が選ばれるようになったり、最新の流行を生み出すツールであるTikTokをオフィシャルパートナーに迎えたりと、驚くような変化を見せている。それは、世の中とともに映画文化も変化・発展していくと考えているからなのではないだろうか。こうして自ら変化していくことは、権威のあるカンヌがやるからこそ意味がある。新しい血を取り入れながら、カンヌ国際映画祭は今後も時代に合わせて発展しつづけていくだろう。(滝川かおり)

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