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『劇場版スタァライト』古川知宏監督が語る、『ハケンアニメ!』の見どころ「“表現”が詰まった、スピード感ある作品」

  • 2022.5.14
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辻村深月の同名小説を原作とする映画『ハケンアニメ!』(5月20日公開)のMOVIE WALKER PRESS試写会が、5月13日に渋谷TOEI2にて開催され、上映終了後にはトークイベントが開催。映画を観たばかりの興奮冷めやらぬ観客を前に、スペシャルゲストとして『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(21)がロングランヒット中のアニメーション映画監督の古川知宏と、アニメ評論家の藤津亮太が登壇。本記事では、古川監督の創作者としての深部にも迫ったトークを、余すことなくロングバージョンでレポートする。

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『ハケンアニメ!』MOVIE WALKER PRESS独占試写会のトークショーに登壇
『ハケンアニメ!』MOVIE WALKER PRESS独占試写会のトークショーに登壇

本作は、新人監督VSカリスマ監督の、アニメ業界の頂点“覇権”をかけた、クリエイターの熱い想いを描く物語。吉岡里帆が新人監督の斎藤瞳役を、天才監督の王子千晴役を中村倫也が演じている。さらに柄本佑、尾野真千子ら実力派が共演し、中村の主演作『水曜日が消えた』(20)の吉野耕平が監督を務めている。アニメーション監督、アニメ評論家と、業界に詳しい2人ならではの視点で、本作の見どころをたっぷりと語った。

「ディテールを描かない“選択”。監督と脚本の勇気はすばらしい!」(古川)

アニメーション作りは集団作業! [c]2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会
アニメーション作りは集団作業! [c]2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

藤津「アニメーション監督として、本作にどのような感想を持ちましたか?」

古川「スピード感にこだわった見やすさを感じました。監督、スタッフ、俳優全員が、映画を観るお客様のなかに、キャラクターがどう入っていくのか、意識して作り、走り切った作品という印象です」

藤津「アニメ業界で働く監督から見て、“ここがおもしろい!”と思ったのはどこでしょう」

古川「ディテールの描き方です。アニメ業界の本当の姿、正しさを“あえて”選んでいないということです。例えば、劇場版『SHIROBAKO』以降といったらいいのか…アニメ制作過程を知っている人から観ると、事実とは“違うよね”という部分もあるんです。そこをあえて選んで描いている理由は、どうやってスピード感を出すか、観客にどのように届けるのかに作り手が向かっているから。僕自身も普段やっているからわかるんですが、本当は丁寧に描きたいけれど、そこにこだわることでキャラクターのおもしろさ、スピード感が削がれてしまうこともある。ディテールにこだわることをしない、その“選択”は監督がやらなければいけないことなんです。その選択をした演出や脚本におもしろさを感じました。

新人監督VS天才監督。どちらが覇権を取るのか… [c]2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会
新人監督VS天才監督。どちらが覇権を取るのか… [c]2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

アニメを見慣れていない人、例えば、吉岡さんや中村さんといった俳優のファンの方たちも想像できる範疇に(業界の描き方を)はめ込んでいます。調べれば業界の本当の姿はいくらでも出てくるけれど、あえてそのディテールを描かない選択をしたのは、すばらしいと思います」

「気分転換したことで、“ほらね”と言われるのは怖いです」(古川)

柄本佑は敏腕プロデューサー行城を演じた [c]2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会
柄本佑は敏腕プロデューサー行城を演じた [c]2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

藤津「吉岡さん演じる瞳、中村さん演じる王子という2人の監督、柄本さん演じる行城と尾野さん演じる有科ら敏腕プロデューサーの2人。気になったキャラクターはいますか?実際にアニメ業界に行城や有科のようなプロデューサーはいるのでしょうか」

古川「柄本さんという役者込みで好きなのは行城プロデューサーです。“僕のそばにもいてほしい”と思いました。有科さんのようなプロデューサーも実際にいます。僕の経験でも、守ってもらったと感じる瞬間は何度もありましたし、とてもありがたかったです。

作品は結局、観てもらわないと広がっていきません。出来上がってもスクリーンの段階で止まってしまうことはよくあります。クチコミを含めて誰にどうやって観てもらうかを行城プロデューサーはしっかりと意識しています。僕の場合で言うと『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』はブシロードさんがその立場にいます。どうにかしてたくさんの方に観てもらおうと最初からがんばってくれたのは、すごくうれしかったです。そういう部分で、“似たような経験をしている”と感じました」

映画に登場するキャラクターのような人物は実際にいるのか、ストレートに質問を投げていた
映画に登場するキャラクターのような人物は実際にいるのか、ストレートに質問を投げていた

藤津「実際に似たような方がいるとのことですが、プロデューサーにリアリティはありましたか?」

古川「宣伝畑から来ました、という描写がありましたが、アニメ業界ってそんなに大企業じゃない、とは思いました(笑)。ただ、クリエイティブという面においては、こういった人たちの気持ちとすれ違う瞬間が何度もあったことは事実です」

藤津「ある種、(プロデューサーの)典型みたいなものをギュッと凝縮した感じなのでしょうか?」

古川「そうですね。僕ものたうち回っていますが、プロデューサーも会社と予算と自分の作りたいものにギューっと挟まれてのたうち回っていると思います。それを濃縮した感じだと思いました」

藤津「斎藤監督、王子監督は同業者としてどう思いましいたか?」

古川「斎藤監督のファーストショットで、効果音を口にしながら絵コンテを描いているシーンがあります。あれ、みんなやっています(笑)」

藤津「あるあるなのですね」

古川「あるあるです。家で一人で作業していたら確実にやります。僕は、会社でみんながいるフロアでやっている人と遭遇したことがあります。遠くから念仏のような声が聞こえてくるなと思ったら、セリフの秒数を確認していたという(笑)。誰かがいると小声でやるものだけど、やっぱり実際に声に出してみないと、本当に頭のなかのイメージ通りの表現ができるのか分からないですから。あのシーンから、本当に(作品として)形にしたいという(斎藤監督の)情熱が伝わってきます」

藤津「王子監督のように、追い詰められて姿を消しちゃう、逃げちゃう人っているのでしょうか…」

アニメーション監督だから分かる!ファーストカットで気になった点を明かした古川監督
アニメーション監督だから分かる!ファーストカットで気になった点を明かした古川監督

古川「実際に消えちゃう人…はほぼいないけれど、本当に消えちゃった人は知っています。王子監督のモデルと言われている方、僕が師事した方とも言われていますが(笑)、あの人は消えない人です。つかまらなくなったというのは、何人か聞いたことはありますね。ない話ではないです。

王子監督は実際に逃げていなくて、逃げたフリをしているわけですが、あのときに“どこかで気分転換なんてできるわけない。机に向かっていることでしか(作品作りは)やれないんだ”といったことを言います。あれはすごく共感できるセリフでした。僕も気分転換できたらいいのですが、上手にできないので」

藤津「机でうなって絞り出すしかない?」

古川「あくまで僕の感想ですが、もし、あのとき、本当に王子監督が本当に逃亡していたら…。あとで振り返ったときに、気分転換に出てしまった自分を許せなくなると思うんです。僕が気分転換をせず、逃亡もせず、机に向かっているのは、怖いから。作品が完成しなかったことを想像したら、怖いから気分転換なんてできません。しがみつくことで、アニメーション業界でなにかものを作るという場所、その一端に指をかけていられると感じられます。ギリギリにいられる感じがして、僕は机に向かいます。本当は、上手に気分転換できるのが一番だけど、気分転換したことで、“ほらね”と言われるのは怖いです」

アニメーターの机からは、作業の大変さが伝わってくる [c]2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会
アニメーターの机からは、作業の大変さが伝わってくる [c]2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

藤津「頑張ってなにもできなかった時と、気分転換してなにもできあがらなかった時では、自分へのダメージが違いますよね」

古川「まったく違います。でも、気分転換できるのが一番いいとは思っています(笑)」

「アニメーション監督には現場のリーダー的役割と、ゼロからイチを作るという2つの側面があると感じました」(藤津)

吉岡演じる斎藤監督の変化も見どころ [c]2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会
吉岡演じる斎藤監督の変化も見どころ [c]2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

藤津「監督が最初のアイデアを出し、その後みんなで肉付け作業をしていくという作業工程が描かれます。アニメーション監督の立場の描かれ方から、現場のリーダー的役割と、ゼロからイチを作るという2つの側面があると感じました」

古川「漫画家に近いですね。『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』をやったことで、ゼロからイチを作れる監督として、やっと企画を渡してもらえるような立場になったと思っています。斎藤監督の最後の選択は、今後彼女が王子監督のようなゼロイチ、オリジナルアニメーションが作れる監督になれるかどうかの試金石だったと思いました」

藤津「人に頼むことが苦手な斎藤監督が最後に“お願いします”となる変化も描かれました」

古川「監督の思いを形にするためにここにいる、そういったスタッフさんの姿に、“僕もそう言ってほしい!”と心から思いました。あの人、どこにいるんですか?すごく欲しい(人材)です!」

古川監督の共感ポイントにも注目! [c]2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会
古川監督の共感ポイントにも注目! [c]2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

藤津「実際に監督もあんな風に細かい作業をするのですか?」

古川「スタジオの規模、予算、メンバーでやることは変わってくると思います。作品のためにフリーランスのスタッフが集められることもよくありますし。そういった人たちに声をかけられる現場かどうか。いろいろなことが渦巻いていますが、そこがアニメーション作りのおもしろさであるとも思っています。実際にアニメーション作りに関わっている人たちのほとんどは誠実です。コミュニケーションが不足するから凸凹になる。そこがあるかないかで、同じスタッフでも作品のクオリティが全然違ってきます」

藤津「そこが集団作業のおもしろいところでもありますね」

古川「コミュニケーション部分を選択して描いていたら、この映画はまた違う話になっていたと思います。僕の感想ですが、この作品はお仕事ものというよりも2人の監督と2人プロデューサーの物語に重点を置いたこと、監督と脚本がそこを選択したことがすばらしかったという話にいきつきます」

劇中アニメ「運命戦線リデルライト」の心震わすラストにも、注目してほしい [c]2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会
劇中アニメ「運命戦線リデルライト」の心震わすラストにも、注目してほしい [c]2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

藤津「劇中アニメのクオリティの高さも話題です」

古川「両作品ともうらやましいほどの予算があったんだろうな、と思いました(笑)。両方ともすばらしい作品で、ちょっと引け目を感じてしまうほどでした」

「Uni(のえんぴつ)は、お尻が丸いから立たないぞ!」(古川)

藤津「監督になろうと決めたのはどのタイミングでしたか?」

古川「業界に入る前です。自分のアニメを作りたいという思いがありました。僕は斎藤監督のように元公務員ではないですが、実際に元公務員も元自衛隊、漁船に乗っていたと言う方もいます」

藤津「年齢制限のある業界じゃないから、いろいろな方がいますよね」

キャラクターが出来上がっていく工程もしっかり描かれている [c]2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会
キャラクターが出来上がっていく工程もしっかり描かれている [c]2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

古川「アニメ業界は集団作業なのに会社があるというのがおもしろいですよね。なにか作りたいと思ったら、足を踏み入れやすいと感じています」

藤津「簡単な世界じゃないけれど、ちょっと侵入しやすい業界、みたいな感じですね」

古川「フリーランスの集合体のような感じなので、一定以上の力量があれば、自ら手をあげて作品を選ぶことも難しくありません。そこの流動性が高くておもしろい仕事だと思っています」

藤津「では最後にあらためて、『ハケンアニメ!』の見どころをお願いいたします」

古川「表現がちゃんと詰まっているところは見どころです。最近、視聴率はあまり注目されない部分ですが、誰が見ても勝ち負けが分かるようにビジュアル化し、CGのロボットが電車の横を走る表現にしたのは、すごくいいと思いました。

机に向かってアイデアを絞り出す様子 [c]2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会
机に向かってアイデアを絞り出す様子 [c]2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

ファーストカットで、風がふきこみ、絵コンテの紙が舞うなかで、デスクにUni(ユニ)の鉛筆が立っている描写があったのですが、その瞬間僕が思ったのは“Uni(のえんぴつ)は、お尻が丸いから立たないぞ!”ということ。だけど、映画を観た後に、その意味を僕なりに解釈しました。あれは、ゼロからイチを生み出し、ありもしないものを紙に描き、この世のどこかにあるかもしれないキャラクターを描いて、誰かに届けることができる。これからそういう“ありえないこと”が、“奇跡”が起こるんだよ、という表現だったんだと。いろいろな表現が詰まったスピード感のある映画だと改めて感じました」

藤津「ありがとうございました。最後に告知などあれば、ぜひ!」

古川「昨年6月に公開した『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』の上映が続いています。6月にもイベント上映されるので、機会があれば楽しんでください」

『ハケンアニメ!』は5月20日(金)公開 [c]2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会
『ハケンアニメ!』は5月20日(金)公開 [c]2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

取材・文/タナカシノブ

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