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「ずっと元気でキレイなママでいるから」2児の母がライザップCMに感じた気まずさの正体

  • 2022.5.13
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10歳と5歳の子どもを持つ漫画家の田房永子さんは、最近テレビで見たパーソナルトレーニングジム「ライザップ」のCMについて「これまでのものは“非日常感”があり距離を置いて見ることができたが、今回のものは刺さりすぎて気まずかった」といいます。その理由は、「産後半年で骨盤を戻さないと一生デブ」という呪いに振り回された、初産以降の10年間にありました――。

「ずっと元気でキレイなママでいるから…」

テレビを見ていたら、小さな子どもを抱いた一般女性のスナップ写真とともに「走れない……。ついていけない……」と深刻なトーンのナレーションが入るCMが流れてきました。

つづいて同じ女性が生活感あふれる自宅で自分の体を自撮りした写真に変わり「公園で一緒に遊ぶのが大きな夢でした」とナレーション。

保険のCMかと思った瞬間、「91.2kgから44.5Kg」の数字が現れ、ゴージャスな水着姿の女性、谷さん(46)が登場。

RIZAP(ライザップ)のCMでした!

4歳くらいの子どもたち2人と抱き合う谷さん。

「約束するね ずっと元気でキレイなママでいるから」と女性の気迫のこもったナレーションが入って終わりました。

ライザップのCMは今まで、どちらかというとコミカルな仕上がりだったと思います。あからさまに暗~い顔した人が珍妙なサウンドに合わせて回りながら、ムキムキのボディを見せつけ割れんばかりの笑顔で別人のようになるという非日常感があって、「尋常じゃないスピードで結果にコミットしたい人たちの世界」って感じで距離を置いて見れました。

だけど今回のシリアス・ライザップCMは、私も10歳と5歳の子どもがいる母親として刺さり過ぎました。

ライザップのCMが流れた時
公園で走ると「足が埋まる」

たしかに走れない。公園とかで走ったら「あれ? 埋まってる? ここ沼?」って感じで自分の足が地面に埋まっていく感じがする。もともと走るの苦手だったけど、ちょっと前までは「なんか私の走り方ドスンドスンいってないか?」くらいで一応、地表の感覚はありました。だけど最近は「足が溶けてる」感じがする。子どもを追いかけてハツラツと走り回るスポーティーなママがまぶしい。

1人目を産んでからこの10年、産後にすごく言われる「出産でひろがった骨盤をこの半年で締めないと体型は戻せません!」から始まり、「育児で忙しいママは『ながら運動』でOK(赤ちゃんをダンベル代わりに!)」とか、人間ドックで「運動してください」って何度言われたか、って感じだけど、まったく「運動」を日常に取り入れられませんでした。

出産前は日常的に楽しんでいた唯一の運動(ヨガ)も、断続的にしかできなくてぜんぜんやらない時期が増えて、運動しない生活のほうに軸が合っていってました。

それでもいつも、常に「運動しなきゃ」に追い詰められていて、スポーツジムに入会しては2人目を妊娠して挫折、プールに通おうとして挫折、卓球クラブも挫折、ZUMBAもコロナになってやらなくなって、自分ってダメすぎる……と自己嫌悪しながらもまだ「運動しなきゃ(泣)」と思ってました。

産後10年で初めてわかった!

そんな私だけど、急に今年から水泳にハマりました。マラソンとかと同じで中毒性があるらしく、私も完全にそれになっちゃったと思います。すごく楽しくてなんにも苦じゃないんです。いつも泳ぎたくてたまらなくて、だから自然と日常に運動が組み込まれた生活になりました。

そうなって初めて知ったけど、日常に運動を取り入れてる人って多かれ少なかれ、それをやらないではいられない中毒状態になってるんじゃないでしょうか? ですよね? 「筋トレしないと気持ちが落ち着かないんだ」とか言いますもんね。

それを、産後10年経ってやっと知った私は、泳ぎながら、この10年を振り返って、悔しくて泣きたいような気持ちになることがあります。

おっくうになって当たり前

私は3年前にも一度、プールに通おうと思ってスポーツジムに入会したことがありました。でも、自宅以外の場所でパンツまで脱いで着替えるという大がかりな行為がおっくうになってすぐやめてしまったんですよね。

いま泳ぎながら思うんです。「そりゃあー! おっくうになって当たり前だよ!」と。

その時、小2と2歳の子がいてまだ2人きりで留守番もさせられなかった。留守番させられない状態で他にも仕事家事雑務、やることたくさんあるのに、塩素臭のする場所でビチョビチョの水着を脱いだりする時間を「もったいない」と感じるのは至極当然だと思います。親の負担にとって「子どもだけで留守番させることができる」は紀元前/紀元後くらいの差があるし。

「産後ダイエット」の呪い

私が初めて出産したばかりの10年前は、何を見てもどこ行っても「産後半年で骨盤を戻さないと一生デブですよ!」って情報に追いかけられてる感じでした。

「今後の体型維持はこの半年にかかっている」って育児雑誌に必ず書いてあったし、とにかく「この半年で痩せやすい体になれるチャンス」とも書いてあったり、ママタレントや整体師や専門家による産後ダイエットに関する本も無数に出ています。

いまもYouTubeを検索するとわんさか出てくるので、最近も同じなのかも。

けどさ、そんな産後すぐ、できるわけねぇんだわ。その前にボロボロなんだわ、体も心も。育児も初めてで、どんなに優しくて気が回る夫やパートナーがいても、意思疎通がうまくいかなかったりする非常事態なんだわ。

雑誌やネットには「ママはとにかく時間がない。だから『ながらダイエット』でOK!」って書いてあって、料理してる時に屈伸したり、歯磨きする時は赤ちゃんをダンベル代わりに抱っこしてとか言ってますけど、1日にやらなきゃいけないこと同士がすでに「ながら」で行われてるので、「ながら」の中にさらに「ながら」を組み込むって本当に苦行すぎる!

笑っていいとも!を見ながら

人間ドックでも50代くらいの女性の医師に「女の人は子どもが小さい時は元気だけど、子どもが巣立ったらガターンとくる(倒れる、死、後遺症)からね(半笑い)」と言われたこともありました。言い方が強い~! 医師は注意することが仕事なのは分かるけど、運動挫折するたびにその言葉がグルグル頭を回ってトラウマになっちゃいましたよ!

酒か、「たけのこの里」か

上の子が3歳の時、保育園の保護者の集まりで1人のママが「お迎え行って、帰ってきて夕飯作ろうって時、酒飲むよね?」と聞いてきました。私が「飲まないよ(下戸)」というと「ええ? じゃあどうやって夕飯作りのエンジンかけてるの?!」ってビックリするので「たけのこの里」と答えました。

冷蔵庫に入れて冷やしておいた「たけのこの里」を1箱いかないと無理でした。それでやっとやる気になった。当時の私は、「ストロングゼロ」とかと同じ効果を「たけのこの里」で補っていたと思います。

そうやって「たけのこの里」のおかげでようやっと、体重が標準を超えてでも保護者と社会人としてのメンツを保っている状態でした。

1人目の産後、2人目の産後で体重どんどんいっちゃってるけど、もうそういうのも気にできなかった。むしろ私の家事育児仕事を回す原動力が「食べる」にセッティングされちゃってるので、それをほかのことで代用するなんて難し過ぎでした。

子どもが10歳になり、つまり産後10年でやっと運動を楽しむことができて、それはある程度の時間の余裕ができたからで、「どうして今まで運動をサボってきたんだろう、もっと早くこの生活ができなかったんだろう」なんて全く思わないのです。

それよりむしろ、産後のボロボロの時に「産後半年で骨盤を戻さないと一生デブ」とか「産後ダイエットすることで10年後が違う」とか、さんざん言われたのなんだったんだろう、できるわけないじゃん、ひどいこと言ってくれるなよ、としか思わないんです。

10年後運動できるようになるから大丈夫

水泳のいいところは、高齢の女性たちがたくさんいることです。別にじーっと見るわけじゃないけど、視界に入る彼女たちの体に私はとても励まされます。

背中や腰が丸まっていたり、足をひきずっている人もいるし、30代や40代とは違う体つき。どの人も、それぞれの人生を送ってきたんだな、って感じがして。「骨盤締めないと、運動して痩せないと、体型は崩れていく、戻らない」って言われ続けてると、「老いる」がすごく怖くて避けなければいけないことって感じがしてくるけど、別にこわいことじゃないじゃん、自然なことじゃんって思えて気持ちがラクになるような。

運動しなきゃと思いつつできない、と自己嫌悪し追い詰められていた自分に「いまは仕方ないから、無理ならサボっていいから! 10年後運動できるようになるから! 巣立ちに間に合うからー‼」って言ってあげたい。

ライザップCMに登場する谷さん(46)は、5歳くらいの2人の子どもと抱き合っています。谷さんの本当の子どもなのかわかんないけど、40歳を超えて2人産んだのかもしれない、と思ったら産後5年くらいで体重を半分にする減量に成功したなんてすごすぎます。

CM画面の小さーい字で書いてある情報を読んだら「2年7カ月」で約50kgの減量に成功。ライザップの統計でもめったにないレベルだそう。

谷さんは本当にすごい! それは間違いないけど、産後のママたちに「追い詰められなくて大丈夫だからねー!」とも言いたい。それも間違いないのです。

田房 永子(たぶさ・えいこ)
漫画家
1978年東京都生まれ。2001年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞(青林工藝舎)。母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)を2012年に刊行、ベストセラーとなる。ほかの主な著書に『キレる私をやめたい』(竹書房)、『お母さんみたいな母親にはなりたくないのに』(河出書房新社)、『しんどい母から逃げる!!』(小学館)などがある。

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