ルネ・マグリット『物の力』【FUDGENA：カトートシのアート×ショートストーリー vol.7】

洋服を着替えるように、インテリアを変えるように、
気軽に自由に、アートを飾るのはどうだろう。

アート一枚で部屋の雰囲気はガラリと変わるし、
さらにその絵に〈物語〉があれば、いつもの空間がもっと素敵になる。

あなたの部屋に飾るとっておきの一枚を、
その絵からインスピレーションを受けて生まれたショートストーリーを添えて。

トレーの上にこぼれ落ちたフランスパンのかすを指の腹で集める。

ホットコーヒーの黒に漂う虹色の油分。

ご自由にどうぞ、の水。

紙ナプキンで口を拭う。

あの日の君の言葉、どういう意味だったんだろう。

今週は急に冷え込んで、月曜の朝、クローゼットの奥からコートをひっぱりだした。

一昨年の秋、パルコで買った紺色のコート。

もう昔のようには背が伸びないわたしは、このコートをきっとこの先もずっと着れる、着れてしまう。

会議が長引いた、火曜日。

指のささくれと次年度の予算案。

プロジェクターの直線的な光の中にちらちらと舞う埃の、なんと美しいことよ。

ゴミの出し忘れから生まれつきの性格まで、すべてを一緒くたにした水曜日。

木曜のドラマ、最近レコーダーの調子が悪いの知ってたけど、賭ける気持ちでセットした。やっぱり録れてなかった。

終電の１本前に乗り合わせた金曜の酔っ払いたち。この車両で、わたしだけがわたし。

そうして迎えた、１５２６回目の土曜日の朝。

フランスパンの中身だけをほじって食べるわたしの癖を、行儀わるいよってだれかしかって。

ぼろぼろとテーブルにこぼれ落ちた、元フランスパンたち。

トレーを返却して店を出れば、また動き出す一日。

１５２５回目の土曜日や、１５２７回目の土曜日と、

一体何が違うというのだろう。

だるいほど眩しい朝。

あの日の君の言葉、わかんないけど、なんかわかる。

カトートシ

1991年生まれ

大学時代は文学批評を専攻。

書店員や美術館スタッフ、カナダでのライター経験を経た後、

2018年よりカトートシとして活動を開始。

現在は大学で働く傍ら、カルチャー関連のエッセイ等を執筆。

カトートシという名前は、俳人である祖父に由来するもの。