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もともとは大盛りだった?フランス料理の「量」が少ないワケ 現地で修業した料理家に聞く

  • 2022.5.7
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フランス料理の量は、なぜ少ない?
フランス料理の量は、なぜ少ない?

テレビ番組などで、よくフランス料理が紹介されますが、不思議なのは実際に皿に出てくる料理の量が少ないことです。例えば、肉や魚のメイン料理でも、皿の中心にきれいに盛り付けられ、「本当にそれだけで足りるの?」と言いたくなる分量の料理が多いように思います。なぜ、フランス料理は、一つ一つの料理の量が少ないのでしょうか。パリでフランス料理の修業経験がある料理家で、チェリストの大前知誇(おおまえ・ちか)さんに聞きました。

日本の「懐石料理」の影響も

Q. なぜ、フランス料理は、一つ一つの料理の量が少ないのでしょうか。

大前さん「そもそも、フランス料理自体は、量の少ない料理ではありません。宮廷料理として発展してきましたが、当時は大皿にたくさんの料理をのせて、一度に料理を並べるスタイルでした。

量が少なくなった経緯としては、まず19世紀に、料理が冷めないように提供するため、一品ずつテーブルに運ぶ形式へと変化しました。その結果、前菜やメインディッシュ、最後にデザートが出てくるコースメニューが誕生したのですが、決して量が少ないわけではありませんでした。むしろ、一皿ごとの量は多かったのです。

しかし、1970年代に入り、新しいフランス料理のスタイル『ヌーヴェル・キュイジーヌ』という流れが生まれ、一世を風靡(ふうび)します。そのテーマは『軽さ』で、日本の懐石料理にヒントを得て、シンプルで軽妙な新感覚の料理が生まれます。

その頃から、単純に『食べる』料理というよりも、全体的な『見た目』や『アート』としての料理という側面が強くなっていきます。皿を絵画のように見立てたり、見た目を重視して、一皿には少量の料理を盛りつけたりすることが主流となり、それとともに皿数も増えていく、そうした流れが現在も続いていることが、『量が少ない』と認識されている原因だと思います」

Q.日本人が頭に浮かべるフランス料理が、高級レストランの「コース料理」であることも、量が少ないと思ってしまう原因でしょうか。

大前さん「先述したように、現代のフランスのコース料理は、日本の懐石料理から影響を受けている側面もあり、一皿の量が少なく感じる人もいるでしょう。

ほとんどの日本人は、一般家庭で出てくる日常的な料理と、料亭などで提供される懐石料理とは、隔たりがあると理解していますが、フランス料理も同じ感覚だと思えば想像しやすいのではないでしょうか。

つまり、『フランス料理=コース料理』という認識が強いことも、フランス料理は量が少ないと認識される原因なのかもしれません。フランス人がランチなど日常的によく行く『カフェ』や『ブラッスリー』の食事は、一皿に十分過ぎる量の料理が出てきます」

Q.確かに、日本人が「フランス料理」と聞くと、量が少なくきれいに盛り付けたコース料理を思い浮かべ、日常的な料理を思い浮かべる人は少ないように思います。なぜ、このような偏りが生じたのでしょうか。

大前さん「日本にフランス料理が入って来た歴史も大きく関わっています。日本におけるフランス料理は、明治維新の最中に入ってきたとされています。しかし、その頃の日本人は、フランス料理というものになじみがなく、一般市民まで広がることがありませんでした。

その後、外国人が宿泊するホテルで働く料理人が、フランス料理を一般市民にも広めたことで、日本国内の飲食店でも提供される料理となりました。おもてなしを大切にするホテルで提供するフランス料理は、コース料理が主流であったため、日本で『フランス料理=コース料理』というイメージが定着していったのは、当然の流れだと思います。

しかし、それは量が少ないということとは関係なく、コース料理にも流行があり、時代の流れに伴って現在は、『一皿の量が少なく多皿の料理』が主流のレストランが多くなったというだけなのです」

Q.フランスの日常的な料理の中で、日本でもなじみ深い料理とは何でしょうか。

大前さん「フランスの家庭料理というと、どの家庭でも登場するのはキッシュ、タルトフレット(グラタンのようなもの)、オムレツ、野菜のポタージュなどではないでしょうか。キッシュは日本でもおなじみになってきましたが、日本では料理という感覚ではないかもしれません。

オムレツや野菜のポタージュは、家庭によって入れる具材が違い、各家庭のこだわりやその家独自のレシピがあります。また、主菜の皿に付け合わせを添える習慣は家庭料理でもあり、定番はニンジンやカブなどの野菜をマッシュポテトのようにピューレ状にしたものを添えることが多いです。

フランスは地方により料理の特色が豊かなので、それぞれの家庭の味も出身地によって違うことがあります。例えば、日本でクレープといえば甘いものを想像しますが、フランスではガレットと呼ばれるそば粉のクレープが定番で、その発祥の地ブルターニュ出身者にしてみたら、それが料理としての家庭の味なのです」

Q.フランスの日常的な料理は、どのような食事スタイルなのですか。コース料理のように、料理ごとに順番に出てくるのですか。

大前さん「現代のフランス人は、日本人と同じで健康に気を使っている人も多く、週末には家庭でも、ゆっくり前菜、メインディッシュ、デザートと、コース料理のように楽しむ人もいますが、共働き家庭も多い今の世の中、日常では大皿料理に盛り付けてみんなで取り分けるというスタイルがほとんどです。

レストランでも、家庭でも、日本と最も異なるのは、どんな時でも必ずと言ってよいほど、最後にデザートを食べることです。いわゆる、『おふくろの味』が甘いお菓子という家庭もあるくらい、印象的なものが多く、デザートも大事な一皿なのです」

オトナンサー編集部

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