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村上春樹の『続・古くて素敵なクラシック・レコードたち』:ベルリオーズ 「イタリアのハロルド」作品16

  • 2022.5.7
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ラディスラフ・チェルニーが演奏した、ベルリオーズ「イタリアのハロルド」レコードジャケット

ベルリオーズ「イタリアのハロルド」作品16

パガニーニは新しく手に入れたヴィオラの名器を派手に弾きまくるために、協奏曲の作曲をベルリオーズに依頼したのだが、ベルリオーズはそういう名人芸的な曲を書くことができず、その結果「ヴィオラとオーケストラのための交響曲」という形式に落ち着いた。

メニューインのヴィオラには、ヴァイオリンのときとはひと味違う、一歩身を退いた深みがある。コリン・デイヴィスはベルリオーズを得意とする指揮者で、何度かこの曲を録音している。

ユーディ・メニューインが演奏した、ベルリオーズ「イタリアのハロルド」レコードジャケット
ユーディ・メニューイン(ヴィオラ) コリン・デイヴィス指揮 フィルハーモニア管 Angel 36123(1963年)

だから音楽はてきぱき前に進んでいく。ただ音作りが全体的に劇的に過ぎて、メニューインの音楽の進め方との間に微妙にずれが生じているように感じられる。そしていささか音がうるさい。今井信子と組んだ同曲の録音は、やはりダイナミックではあるけれど、とくにうるさいとは感じないのだが。

今井信子が演奏した、ベルリオーズ「イタリアのハロルド」レコードジャケット
今井信子(ヴィオラ) コリン・デイヴィス指揮 ロンドン響 日Philips 18PC-71(1975年)

ラディスラフ・チェルニーはチェコの優れたヴィオラ奏者、プラハ弦楽四重奏団のメンバーとして長年にわたり活躍した。オーケストラも独奏楽器も、いかにも中欧=ボヘミア地方っぽい柔らかく温かな音を出している。

デュナーミク(強弱の変化)がちと古風かなと感じるところもあるけれど、それはそれでひとつの味わいになっている。目の前でひとつのお話が進行していくような面白い演奏だ。これ、なかなか良いです。

ラディスラフ・チェルニーが演奏した、ベルリオーズ「イタリアのハロルド」レコードジャケット
ラディスラフ・チェルニー(ヴィオラ) ヴァーツラフ・イラーチェク指揮 チェコ・フィル Supraphon LPV221(不明)

プレートルの演奏はデイヴィスよりずっと穏健だ。トランプラーのヴィオラも派手さはないが、オーケストラに融け込んでいる。ヴィオラの奏でる第2楽章の「巡礼たちの行列」はとても美しい。最終楽章の「山賊の饗宴」はいかにもベルリオーズ的にワイルドにダイナミックに展開されるが、それでも決してやかましくはならない。プレートルらしい洗練されたスマートな演奏だ。

ワルター・トランプラーが演奏した、ベルリオーズ「イタリアのハロルド」レコードジャケット
ワルター・トランプラー(ヴィオラ) ジョルジュ・プレートル指揮 ロンドン響 RCA Victor LSC-3075(1969年)

意外に面白いのが歌手フィッシャー=ディースカウがチェコ・フィルを指揮し(再びチェコ・フィル登場)、ヨーゼフ・スークのヴィオラ独奏を得て演奏する盤だ。意表を突かれる顔合わせだが、これがなかなか聴かせる。とりわけスークの奏でるヴィオラの音が美しい。

そしてフィッシャー=ディースカウの指揮も実に滑らかで、表情豊かだ。ベルリオーズの音楽が本来持つ華麗なドラマ性は希薄で、シューマンの音楽みたいに聞こえたりもするが、それはそれでひとつの解釈であり、けっこう楽しく聴ける。そしてこのレコード、なにより録音が素晴らしい。

ヨゼフ・スークが演奏した、ベルリオーズ「イタリアのハロルド」レコードジャケット
ヨゼフ・スーク(ヴィオラ) フィッシャー=ディースカウ指揮 チェコ・フィル 日コロムビア OX7050S(1976年)

ビーチャムは僕の贔屓の指揮者の一人だが、この演奏に関してはスタイル(歌い回し)がいささか古くさく、オーケストラの奏でる音も粗い。プリムローズのヴィオラも印象が薄く、全体的に美点があまり見いだせない。

ウィリアム・プリムローズが演奏した、ベルリオーズ「イタリアのハロルド」レコードジャケット
ウィリアム・プリムローズ(ヴィオラ) トマス・ビーチャム指揮 ロイヤル・フィル 英Columbia 33CX1019(1952年)
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