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ユニークなスピリッツを次々リリース。蒸留の面白さに夢とロマンを懸ける、鹿児島〈佐多宗二商店〉

  • 2022.5.6
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イタリアのグラッパ蒸留器

蒸留の面白さに夢とロマンを懸けてユニークなスピリッツを次々リリース

サツマイモの産地として知られる鹿児島県頴娃町。豊かな自然に囲まれた鄙に、まるでヨーロッパのような赤屋根の建物が並ぶ。〈佐多宗二商店〉のAKAYANEクラフトスピリッツを醸す蔵群だ。

中に入って驚いた。ほかの焼酎蔵にはない、ユニークな形のぴっかぴかの蒸留器がドドーンと鎮座している。圧倒的な存在感だ。

アーノルド・ホルスタイン社性の蒸留器
ジャン=ポール・メッテ社と同じドイツのアーノルド・ホルスタイン社製。すべて蔵人の要望に合わせてオーダーメイドするという。蒸留酒なら何でも対応可能の心強い味方。

「蒸留によって酒質が変わる」。3代目の佐多宗公さんがそれを知ったのは、フランスで営業活動をしている時だった。それまで蒸留なんて気に留めることはなかった。

「焼酎はどうせ蒸留するんだから、途中どんなに凝っても結局同じものにしかならない」と、先人たちから教わってきたからだ。ところがフランスでは行く先々で、蒸留の大事さをこんこんと語られる。

そこで、蒸留によって酒質の可能性が広がるのだと確信した佐多さん、早速実験。

同じ日に仕込んだもろみを、異なる蒸留器で蒸留したところ、「違いが鮮明にわかった。料理も鍋とか火加減によって味が変わるでしょ。あれと同じ」。そうして得た原酒をブレンドすることで、ぐっと深みが増す。「それが蒸留の面白さなんです」

鹿児島〈佐多宗二商店〉のAKAYANEクラフトスピリッツを醸す蔵
木が茂り、ツタに覆われた赤屋根の建物。開聞岳を望む、イモの産地のカントリーサイドにあるとは思えない異国感が漂う。ちょっとした観光気分になる。佐多さんのヨーロッパへの憧憬の表現だろうか。
〈佐多宗二商店〉フランス・アラリー社の樽
木になるボタニカルは樽で貯蔵。樽はフランス・アラリー社のもの。新樽が古樽になるまでの間、古樽を使うといいと送られてきたのはレミーマルタンの樽だった。さぞかし、いい香りに違いない。
火山の噴火によって流出した火砕流
火山の噴火によって流出した火砕流が、冷えて固まったシラス。白い砂礫の土地なので、作物が育たない。だがイモの栽培には適していた。頴娃町も、コガネセンガンなど芋焼酎の原料のイモの産地だ。
〈佐多宗二商店〉もろみに直接蒸気を当てる直接加熱蒸留器
本館の焼酎の蒸留器は5基。もろみに直接蒸気を当てる直接加熱蒸留器。粘性の高いイモのもろみをいかにスムーズに蒸留するかを研究、日本人の知恵で生み出したマシン。3〜4・5時間かけて蒸留。

始まりは、フランス・アルザスで“オー・ド・ヴィーの法王”と称されるジャン=ポール・メッテ社を訪ねたことだった。「日本人でここに来たのはお前が初めてだ」と、面白がる当主・フィリップ・トラベさんに蔵を案内してもらい、蒸留器を見てのけぞった。

「すっげー。かっこいい」。初めて見たマシンは佐多さんのココロを激しく揺さぶった。これで酒を造るのかと思うとワクワクが止まらなくなった。すぐさま、ドイツまで車を駆ってマシンを見に行き、注文したという。このトラベさんとの出会いがAKAYANEの原点である。

アルザスには、裏庭の倉庫でちょこっと造るような、小さな蒸留所がたくさんあった。

「言ってみれば、日本の漬物感覚なんです。庭のハーブで仕込む。これがスピリッツの原点だと思いました」。

日本の素材で、日本ならではのスピリッツが造れる!蒸留から、ブレンド、貯蔵方法まで、事細かに手ほどきをしてくれたのはトラベさんだった。

〈佐多宗二商店〉AKAYANEジンハート
AKAYANEジンハート。日本ならではの季節のボタニカルの香りが素晴らしい。スペインの国際酒類コンクール2021で、「春」がGrand Gold、「夏」がGold獲得。
〈佐多宗二商店〉佐多宗公代表、中原章仁本部長
ツタが這うAKAYANEの建物の前で。右が佐多宗公代表、左が製造本部の中原章仁本部長。共にヨーロッパの蒸留所や醸造所を100ヵ所以上巡った。メッテ社との親交は今も厚い。

現在、蒸留器は9基。自家製の芋焼酎をさらに蒸留してベースを造り、ショウガ、山椒、カボスなどのボタニカルや七味唐辛子などを入れて、約20種のクラフトスピリッツを手がける。カボスのように木になるものは樽に入れて寝かせ、ショウガなど土の中で生長するものは甕に入れて、シラスの中で寝かせている。

「これもトラベさんに教わったことですが、温度調整はせず、この地の自然に任せています。そうすることで、テロワールを表現した、うちだけのスピリッツができるわけです」

しかし、今寝かせているものが花開くのはまだまだ先のこと。「そこに壮大なロマンがある。同時に、自分は飲めないかもという残念さも(笑)」。佐多さんの熱い思いと野望がこもったスピリッツは、未来への贈り物となる。

イタリアのグラッパ蒸留器
イタリアのグラッパ蒸留器。ブドウの搾りかすからグラッパを造るように、「角玉梅酒」を取り出したあとの梅でブランデーを造れないかと完成したのが、AKAYANE PLUM。

Information

佐多宗二商店

さたそうじしょうてん
1908年創業。「晴耕雨讀」や「不二才」などの蔵元だが、2018年から芋焼酎のベースにさまざまなボタニカルを加えた、AKAYANEクラフトスピリッツを続々リリース。

公式サイト:www.satasouji-shouten.co.jp/

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