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【松下奈緒】対話から逃げない。キャリアの転機に学んだ「自分の意見」を伝えるプロの姿勢

  • 2022.5.2
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一流の仕事人には、譲れないこだわりがある!

プロフェッショナルのTheory

この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります


どんな仕事でも職種でもいい。自分をプロだと思えるようになったのは、いつ頃だろうか。

最初からプロとしての自覚を持っていた人もいれば、あるきっかけでプロの姿勢を考えるようになった人もいるだろう。そして、その気づきにこそ、その人の仕事哲学がある。

大学在学中の2004年に俳優デビューを果たした松下奈緒さん。

そのキャリアは18年。プロとしての意識を再確認した作品は、松下さんの名を全国に知らしめた連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』(NHK)だったという。

松下さん:それ以前からプロとして仕事をしようという気持ちは持っていたのですが、あの作品と出会ったことで、自分の中のプロ意識が格段に変わりましたね。

そう松下さんは語り始めた。

意見を伝える、聞くことを恐れない。それが「プロの仕事」だと気づいた

松下さん:この頃から、仕事の現場で自分が感じていることや考えていることを、周囲の人にはっきり伝えなきゃって思うようになったんです。

というのも、朝ドラって撮影期間がとても長くて。約10カ月、みんなで同じゴールを目指して作品をつくっていかなくちゃいけないんです。

そういう場で、思っていることがあるのに黙っていると、どんどん周りとの距離が出来てしまうんです。

松下さん:みんなでいい作品をつくるためには、ちゃんと話し合える環境が必要。

受け身で待っているだけじゃなく、自分からしっかりコミュニケーションをとること

それがプロとしてやるべきことだし、そこから逃げていたら、出来上がるものも“本物”にはならないんだと学びました。

いい仕事に、対話は不可欠。頭では分かっていても、なかなか自分の考えを伝えるのは難しい。衝突を恐れたり、自分の意見を否定されたりすることが怖くて、つい言葉を引っ込めてしまうことも多いだろう。

松下さん:『ゲゲゲの女房』に出演する前、年齢でいうと25歳くらいまでは、私も自分の考えをはっきり言えませんでした。

でも、自分の思いを言わずに後悔するんだったら、言って後悔した方がいいなと思えるようになりました。

松下さん:もちろん怖いです。でも、うそをついて誤魔化している方がもっとつらい。

仮に自分の考えを伝えたことで相手に違うなと思われたり、何かを失ったりすることがあったとしても、ちゃんと思ったことを言えたという経験が自信になる

そしてその自信が次につながる。

そう考えられるようになってからは、一緒に働く皆さんとのコミュニケーションが楽しくなりました。

プロだからこそ、人と意見をぶつけることから逃げない。作品をより良くするために、いい仕事を生み出すために、ちゃんと自分の考えを発信する。日本中から愛された『ゲゲゲの女房』の裏側には、そんな松下さんの心掛けがあった。

松下さん:自分の意見を伝えるときに意識しているのは、「私はこう思います」で終わらないこと。

「私はこう思いますが、どうでしょうか」と相手の意見も求める言い方をするようにしています。

そうすることで印象が柔らかくなりますし、相手も話しやすくなって、会話も広がる。

自分の意見を言うことと同じくらい、相手の意見を聞く姿勢も大事にしています。

「こう演じてみたい」こだわり抜いた声の表現

キャリアの転機となった朝ドラから12年。凜とした美しさはそのままに、ますます精力的に仕事に取り組む松下さん。

2022年5月4日に公開となる映画『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』では前作に続き、クリスティーンの日本語吹替を担当した。

ここでも、松下さんは自分の意見を周囲に伝えることを欠かさなかった。

松下さん:やっぱり声だけの表現というのはすごく難しくて。自分が100%やったつもりでも、声だけだとまったく感情が伝わらないこともあります。

なので、録った声を確認して気になることがあったら、もう一度いいですか? とお願いするようにしていました。

クリスティーンを演じるのはニ度目だったので、前回よりも「こう演じてみたい」というイメージがはっきりしていました。

医師として仕事に情熱をそそぎ、優しさと芯の強さを持ったクリスティーン。その魅力を松下さんはこう解説する。

松下さん:生き方に一本筋が通っていて、頭の回転が速いけど、ちゃんとユーモアもある。かわいらしい部分と洗練された部分のバランスがすごくいいキャラなんです。

こういう人が実際にいたら、男性からも女性からも好かれてズルいな~なんて思っちゃうかもしれません(笑)

そんなクリスティーンの聡明さを声だけで表現できるよう、とある工夫を試みた。

松下さん:声のトーンはあげないようにしました。

今回、マルチバースと呼ばれる別世界にいるクリスティーンは、普段の世界にいるときよりもずっと戦士的なカッコよさがありました。

なので、例えば「キャッ」と叫ぶようなシーンでもなるべく重みのある声を意識して。

私自身、地声はそんなに高くないこともあって、あまりふわっとした声質にならないように気をつけていました。

ファン待望の『ドクター・ストレンジ』の続編。松下さんも本作の世界観に心つかまれた一人だ。

松下さん:一番楽しみにしていたのは、ストレンジとクリスティーンの関係性がどう発展するのか。意外な展開で面白かったし、時にウルウルしながら声を入れました。

マーベル作品らしいアクションシーンも見どころですが、人の心に寄り添った人間ドラマになっているのが、『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』の魅力。

舞台が別世界となり、ますます世界観もスケールアップしました。この興奮は、ぜひ映画館で堪能していただきたいです。

一流の人ほど基本を大事にする。「当たり前をちゃんとやる」が長く働く秘訣

俳優と音楽家。二つのキャリアをしっかり自分の足で切り開いていく松下さん。

きっとこれからさらに大きなビジョンを描いているのではと思い、今後のことを聞いてみると、意外にも堅実な答えが返ってきた。

松下さん:特別に大きな夢はないんです。今、私が一番望んでいるのは、これからもこのお仕事を長く続けていくこと。

何事も継続することが一番難しい

それにはずっと続けていけるだけの力と、日々の勉強が欠かせませんからね。それを怠らずにやっていくことが大切なんじゃないかと思っています。

持続することが一番難しい。それは、ビジネスでも同じかもしれない。

新しい企画やアイデアを生み出すことは意外とたやすい。でもそれを実現し、何年、何十年と継続していくには、時代の変化に対応し、幾多の困難を乗り越えていかなければいけない。

20年以上、芸能界で活躍してきた松下さん。移り変わりが激しい世界で、長く仕事を続けるために大切なことは何だろうか。

松下さん:単純なことなんですけど、まずはあいさつだと思います。本当に基本のキで申し訳ないんですけどね(笑)

デビューしてからずっと、どんなにその日の調子が悪くても、ちゃんとあいさつをする。それだけはやらなくちゃいけないと心掛けていました。

すべてのコミュニケーションはあいさつに始まり、あいさつに終わる。あいさつがきちんとできない人が、相手を気遣ったり思いをくんだりすることなんてできっこないのだ。

松下さん:朝、黙って入ってくると、周りの人も「どうしたの? 何かあったのかな?」って不安になるじゃないですか。

みんなで気持ち良く仕事をするためにも、気持ち良いあいさつから始めた方が絶対にいい

おはようございますはもちろんですが、何かあったときにすぐ「ごめんなさい」や「ありがとう」が言えないことってあると思うんです。

人は当たり前に思っていることほど実はできていなかったりする。当たり前のことを当たり前にやることが、長く続ける上で必要だと思います。

一流の人ほど基本を大事にする。一足飛びで特別な場所を目指すのではなく、地に足をつけて歩み続けることで到達できる場所があるのだ。

当たり前のことを、当たり前に。凡事徹底こそが、プロの品格をつくり上げる。

松下奈緒(まつした・なお)さん
1985年2月8日生まれ。東京音楽大学音楽部音楽家ピアノ専攻卒業。04年、俳優デビュー。以降、数々のドラマや映画で主演を務める。10年、NHK朝の連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』でヒロインを務め、同年の『第61回NHK紅白歌合戦』では紅組司会に抜擢される。近年の主な出演作に『アライブ がん専門医のカルテ』『裕さんの女房』『風よ あらしよ』など

取材・文/横川良明 撮影/赤松洋太 企画・編集/栗原千明(編集部)

作品情報

『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』5月4日(水・祝)公開
監督:サム・ライミ (「スパイダーマン」シリーズ)
製作:ケヴィン・ファイギ
出演:ベネディクト・カンバーバッチ/エリザベス・オルセン/ベネディクト・ウォン/レイチェル・マクアダムス/キウェテル・イジョフォー/ソーチー・ゴメス
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©Marvel Studios 2022

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