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「課長になれば給与も上がり、権力が持てるぞ」女性は管理職になりたがらないと嘆く上司のとんだ勘違い

  • 2022.4.26
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4月1日、改正女性活躍推進法が施行された。しかし、日本の女性管理職比率はたった8.9%だ。人事ジャーナリストの溝上憲文氏は「数年前に比べて女性活躍に対する経営層の関心が薄れつつあり、取り組みが停滞している印象を受ける」という――。

街を歩くビジネスウーマン
※写真はイメージです
中小企業も対象になった

女性の活躍を後押しする改正女性活躍推進法(女活法)が4月1日から全面施行され、従業員101人以上300人以下の中小企業も行動計画の策定と情報公表が義務化された。

すでに301人以上の企業は2016年4月に施行され、女性活躍推進やダイバーシティ推進に取り組む企業も徐々に増えている。公表が義務づけられている厚生労働省の「女性の活躍企業推進データベース」は就活生など求職者の企業選びの指標の1つになっている。

行動計画策定にあたっては、まず①採用した労働者に占める女性労働者の割合 ②男女の平均継続勤務年数の差異 ③労働者の各月ごとの平均残業時間数等の労働時間の状況 ④管理職に占める女性労働者の割合――の4つについて自社の状況を把握。

そのうえで①(女性労働者の割合など)女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供と、②(男女別の育児休業取得率など)職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備――の2つの項目から数値目標を選択し、計画期間、取り組み内容などの行動計画を策定することになっている。

自慢したい項目だけ公表する企業もある

301人以上の企業は①と②の項目ごとに必ず1つ以上の数値目標を選択する必要があるが、300人以下の企業はいずれかの項目の1つ以上を選べばよい。策定した行動計画は労働者に周知するとともに、ホームページなどで外部に公表し、策定した旨を都道府県労働局に届け出る必要がある。法の施行日が今年4月1日なのですでに届出が完了していることになる。

情報公表義務の中身は先の①と②をさらに限定した項目から選択する。301人以上の企業は①と②のそれぞれ1項目以上(2020年6月以降)、300人以下は両方から1項目以上選択し、自社のホームページや厚労省の「女性の活躍企業推進データベース」に入力して外部に公表しなければならない。

求職者などが簡単に閲覧できるようにするためだが、公表内容は企業によってさまざまだ。厚生労働省の担当者は「多く公表している企業もあれば、自慢したい項目だけを公表している企業もある。求職者はこのデータを見て会社を評価する面があるので、一つしかないと良いところしか見せていないと思うだろうし、逆に数字が良い項目や悪い項目を載せていれば正直で、がんばっていると思うかもしれない」と語る。

1項目しか公開しない企業、11項目公開する企業

実際にデータベースを検索すると有給休暇の取得率だけを載せている企業もある。一方、2023年卒の大学生の就職企業人気ランキング(マイナビ・日経調査)の文系総合10位、理系総合2位の味の素は11項目について公表している。項目には女性活躍以外にも、男女別の育児休業取得率、労働者の1カ月当たりの平均残業時間も含まれる。就活生が気にする定番は残業時間だが、有給取得率だけを公表している企業は残業時間が長いのではと推測しても不思議ではないかもしれない。

また活躍が進んでいる優良企業は「えるぼし」(3ランク)、最高位の「プラチナえるぼし」に認定され、企業のPRに活用できる。採用、労働時間、管理職比率など5つの基準の達成レベルに応じて認定されるが、えるぼし認定企業は1601社、プラチナえるぼし認定企業が23社となっている(2021年12月末)。

女性管理職比率たった8.9%

4月の法律施行により働く人の大多数を占める中小企業にも適用されることでさらなる底上げが期待されるが、現状では女性の活躍が進んでいるとはいえない。政府は2020年に課長相当職以上に占める女性管理職比率を30%にする目標の「202030」を掲げたが、未達に終わっている。現状は8.9%(2021年、帝国データバンク)という調査もある。また厚生労働省雇用環境・均等局作成の課長相当職の比率は11.5%、部長相当職8.5%(2020年)。

オフィスで働く3人のビジネスウーマン
※写真はイメージです

国際比較では先進国に遠く及ばず、フィリピン、シンガポール、マレーシアの東南アジア諸国より低い。さらに経済・政治・教育・健康の指標に基づくジェンダーギャップ指数(世界経済フォーラム、2021年)は120位と、中国、韓国よりも低く、世界に大きく遅れを取っている。

経営者層の関心が薄れつつある

では日本では何が女性の活躍を阻んでいるのか。エン・ジャパンが人事担当者に実施した「企業の女性活躍推進実態調査」(2021年3月、400社)によると、女性社員の活躍推進における課題では「社内に女性のロールモデルがいない(少ない)」(43%)、「女性社員の意識」(43%)、「(育児中の場合)勤務時間」(32%)、「仕事内容」(31%)、「経営層の意識」(31%)、「管理職の意識」(30%)が上位に挙がっている。2018年調査との比較では「ロールモデルがいない」、「経営層の意識」がともに24ポイント増と高くなっている。3年前に比べて女性活躍に対する経営層の関心が薄れつつあり、取り組みが停滞しているようなイメージを受ける。

「管理職を望まない女性」が多いのは上司・会社側に原因がある

ロールモデルが少ないと回答した企業の中には「管理職以上の昇格を望んでキャリアを築く女性が少ない」(メーカー)という声。女性社員の意識では「家庭に重きを置き、仕事で活躍することを希望していない女性が多い」(金融関連)と関連する声もある。

管理職を望まない女性、仕事で活躍するのを希望しない女性が多いことを人事担当者は憂えているが、それは女性だけの問題なのか。リクルートマネジメントソリューションズの武藤久美子エグゼクティブコンサルタントは、むしろ上司・会社側に2つの問題があると指摘する。1つは上司のコミュニケーションが原因だ。

「女性に対してはなぜだか『課長になりたいか』『課長の仕事を全うできそうか』と、覚悟を問います。男性に対しては器が人をつくるという世界観の中で爽やかに任せようとするのとは対照的です。もう1つは『課長になれば給与も上がり、権力が持てるぞ』と、役職を説得材料にすることです。しかし、役職自体に魅力を感じない女性も多くいます」

あなたが一番ふさわしい、あるいは周りの人があなたにやってもらえたら部下としてうれしいと思っているといった言い方もできるのに、画一的な価値観を前面に出すことで昇格意欲を失わせる結果になってしまう。

管理職はコスパが悪い

もう1つは管理職の働き方、働かせ方にも原因があると言う。

「働き方改革の中で長時間労働を抑制しようとする企業の中には、非管理職の一般社員を定時に帰し、管理職が残りの仕事を引き受けて遅くまで残業する風景も珍しくありませんでした。自分の専門性を発揮しながらプレイヤーとして自分の居場所を得ている女性からすれば、管理職になれば自分よりも部下の働き方に配慮しなければならないという上司像をずっと見てきています。しかも給与もそれほど上がらないし、管理職になるのはコスパが悪いと思ってしまうのは致し方ないことです。長く勤めようと思う女性ほど管理職手前のポジションにいたほうがよいという計算が働くのはある意味賢い選択です」

また、人事関係者の中には昇格時に「男性と並べたときに昇格に足る女性の質と量が足りていない」という悩みを口にする人も少なくない。

しかし武藤氏はこうした悩みは、企業の人事施策自体に大きな原因があると指摘する。

「課長に昇格するには10~20年程度の経験やキャリアの積み重ねが必要になりますが、実はその間に難しい顧客を担当させなかったり、会社の代表として仕事を担う責任を与えなかったりするなど、少しずつ女性に配慮してきたことに原因があります。採用時点では優秀だったのに何か小さくなって見劣りがすると発言する人もいますが、それは当然の帰結です。10年間かけて経験させないといけないことがわかっているのに、それをやってこなかったことで悩んでいる企業が多いのです」

配慮という名の排除

たとえ女性に対する善意の配慮であったとしても管理職に不可欠なスキルや経験を伸ばすことを逆に阻んでいるという。ライフ・ポートフォリオの前原はづき代表取締役はこれを「配慮という名の排除」と呼ぶ。

「子育て中の女性にママなんだから無理しなくてもいいよという態度が配慮だと思っていますが、実は本人のキャリア形成を阻害するだけではなく、長期的には組織を停滞させることにつながります。保守的風土が残る大企業の中には上司サイドが専業主婦世帯の場合が少なくないので、女性は世間の荒波に揉まれないように男が守ってあげなければという意識で生きてきた人もいます。そうした上司の意識と配慮してほしいと思う部下の女性との関係は良好になりますが、長期的には組織を停滞させる原因にもなります。一方、キャリア志向の強い女性はマミートラックに陥り、評価されないために不満や反発が生まれ、離職を引き起こす原因になりやすいのです」

女性の能力を最大限活用し、戦力化する発想が乏しいと本人のエンゲージメントの低下を招くだけではなく、企業の持続的成長の阻害要因になりかねない。

リモートワークで女性管理職の残業が増えている

また女性の活躍に関しては、リモートワークの普及で新しい問題も浮かび上がっている。コロナ禍以前はリモートワークが浸透すればマネジメントも容易になり、女性管理職を多く輩出するだろうという意見が多かった。

しかし、前出の武藤氏は「現実にはそうなっていません。なぜなら経験や知識などマネジメントの基礎を身につけないといけないときに、リモートによるマネジメントという他の人が経験したことのないことを一足飛びにやらないといけません。特にマネジメントのベースの経験がない新任の女性管理職の皆さんは部下と直接やり取りできないために、仕事の進捗の確認などコミュニケーションを丁寧にやろうとしていますが、その結果、自分の生活が後回しになってしまい、育児に割く時間が減るなど苦労しています。リモート下のマネジメントのあり方を含めて踊り場に立たされている女性も少なくない」と指摘する。

パーソルホールディングスの「男女の働き方とキャリア意向に関する実態調査」(2022年3月4日)によると、新型コロナウイルス感染拡大以降の残業時間は男性管理職が「増えた」は12.6%、「減った」が31.2%。一方、女性管理職は「増えた」が33.3%、「減った」が18.8%と、「増えた」の方が14.5ポイントも上回っている。リモートワークも含めてコロナ禍で女性管理職にしわ寄せが及んでいる。

女性活躍が進まない原因は企業の働き方、働かせ方など組織や人事施策を含む構造的問題に根ざしている。改正女活法の対象となる中小企業にとっても大きな課題となるのは間違いないだろう。

溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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