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「世界38カ国40万人の調査で判明」田舎育ちの人のほうが都会育ちより優れている"ある能力"

  • 2022.4.18
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子どもを田舎で育てることにはどんなメリットがあるのか。東北大学准教授の細田千尋さんは「最新の大規模な研究で田舎育ちの人のほうが、空間認識能力が高く、育った環境の地形が複雑であればあるほど、その能力は高いことがわかりました」という――。

山の中の川で遊ぶ少女
※写真はイメージです
緑に囲まれた環境の方が、認知機能の発達が良い

子どもを育てるなら、教育リソースが豊富な都会かいいか、あるいは自然に囲まれてのびのび育つことができる田舎がいいか。子育て世代のあいだで、この議論は長いこと行われてきました。実際、置かれた環境の文化的・地理的特性は、その人の認知的特性に大きく影響することがいくつもの研究から明らかにされています。

例えば、児童期の子どもが、緑の多い地域に住むことと、認知機能の発達や精神機能の健全さに関連があることが示されていますし、都会での生活は、精神疾患のリスクが高くなるという報告もあります。さらに、ストレスなどによる負の情動の脳内処理に違いが見られ、情動を処理する脳領域である「扁桃体」は、都会に住んでいる人で、より強く活性化されていました。つまり、ストレスがかかった時、都会に住んでいる人の脳が、よりネガティブな反応をしていたと言えます。

ところがこれらの研究では、都会に暮らす子どもと田舎に暮らす子どもで能力や精神機能が異なるかについて比較していることが多く、子どもの頃に育った環境が、その後の人生にどのような影響を与えるのかについてはフォーカスされてきませんでした。つまり、田舎で育ったか都会で育ったかで、大人になってから能力に差が生まれるかどうかは分かっていませんでした。

田舎で育つ方が、生涯にわたって空間認識能力が優れている

ところがつい最近になって、世界38カ国、39万7162の人に対して行った調査で、田舎で育った人の方が、ナビゲーション能力が優れており、それは生涯にわたって影響があるということが、『ネイチャー』に発表されました。

さらに、育った環境の地形が不規則的で複雑であるほど、その能力は高かったというのです。

整備されていない山や森といった複雑な地形の中で子どもたちが遊ぶには、俯瞰的視点を持ち、頭の中で、地形などの複雑な立体構造や自分の位置や状況などの身体性情報を処理していく必要があります。一方で、整備され直線的でシンプルな地形を持つ都市で育つと、それほど高度な処理が必要ありません。

そのため、規則的な地形が特徴の都市部で育った場合でもある程度の空間把握の能力が身につくものの、不規則的で複雑な地形を持つ田舎では、幼少期の日常的な遊びの中で、よりこれらの能力が身につくのでしょう。

そして、脳は可塑性という、大人になっても変化していく特性を持っていることが近年多くの研究から明らかになっているにもかかわらず、この空間認識に関わる能力については、子どもの頃の育った環境の影響が、生涯にわたる違いの基盤として、出来上がっている可能性があるのです。

空間認識能力の必要性

ナビゲーション能力を含む空間認識能力が人にとって重要な能力である、ということは、進化学の視点からも示唆されています。進化の中で、道具を編み出したことが人の特徴の一つです。このとき、必要な立体的形状を頭の中で思い描き、それを作成する行為には空間的能力が不可欠です。空間認識能力は、人が進化し、環境に適応するために最も必要とされた能力の一つなのです。

感嘆符が描かれた木製ブロック
※写真はイメージです
空間認識能力の高さと将来の職業

認知能力を数量的に測定する計量心理学による天才児研究で有名なジョンズ・ホプキンズ大学のスタンリー教授やその弟子たちは、科学、技術、工学、数学(science, technology, engineering, mathematics:STEM)やその他の分野の際立った才能を持つ子どもを見つけ出し、その才能を伸ばす方法についての研究をずっと行っていました。

彼らは、子どもの頃から非凡な才能を示していた人々が、そうでない人々に比べて社会にはるかに大きな影響を及ぼしていると主張しています。たとえば、スタンリーが設立したジョンズ・ホプキンス大学主催の英才児センターでは、幼い頃から神童として有名だった数学者のテレンス・タオやレンハルト・ング、フェイスブックのCEOであるマーク・ザッカーバーグ、グーグルの共同設立者セルゲイ・ブリン、ミュージシャンのステファニー・ジャーマノッタ(レディー・ガガ)が過ごしたことがあることで有名です。

彼らの一連の研究の中で、13歳の児童563人の空間認識能力のテストを行いました。空間認識能力は、物体同士の空間的な関係を理解しているかなどを測定するために、同じ物体を異なる角度から見た図を対応させる、物体を特定の切り方をしたときの断面図を選ばせる、さまざまな形をした傾いた容器に水を入れたときの水位を見積もらせるなどの方法でテストをしています。

スタンリーらの研究では、この空間認識能力で、将来の教育や職業における業績を正しく予測できることを示しています。さらには、空間認識能力が創造性や技術革新において主要な役割を果たすことなども示唆されています。彼らの説明によると、数学や言語能力では特に高い成績をとっているわけではなくても、空間認識能力が高い学生は、非常に優れたエンジニア、建築家、外科医になるとしています。

日本ではどうか

『ネイチャー』に発表された先述の研究の38カ国での調査に、日本は含まれていませんでした。日本においては、国際的な論文ではないものの、都市部で子どもを育てることと、田舎で子どもを育てることに関するいくつかの調査があります。ベネッセの調査によると、都市部で育った子どもの方が、学業テストのスコアが、数ポイント高くなることが示されています。これらの差の背景には、父親と母親の、収入や学歴の差も大きく影響していることが示されています(この調査では、父親が高学歴高収入で、母親が高学歴な専業主婦であることが、子どものテストスコアの高さに関連していることを示唆しています)。

一方で、独立行政法人国立少年教育振興機構の調査によると、自然の中で遊ぶことは、社会の中で生き抜く力(諦めない力やコミュニケーション力)を育むことを示しています。

子育てをするのに、田舎が良いのか、都会が良いのか、それぞれが持つメリットデメリットを考えると、必ずしもどちらが良い、という結論に行き着くものではないでしょう。たとえば、田舎で山を駆け回り空間認識能力を鍛える子ども時代を過ごしていても、その後教育の機会に恵まれなければ、その才能を発揮する機会を得られない可能性がありますし、逆に、豊富なリソースの中で子どもを育てたとしても、画一的な教育や環境の中で、創造性などの基盤になる空間認識力を鍛えることはできていない可能性もあります。今回新たに示された知見を加味しながらも、自分たち親子にとってはどちらがより向いているのか、将来どのような子どもになってほしいのかを考える必要がありそうです。

<参考文献>
・Coutrot, A., Manley, E., Goodroe, S. et al. Entropy of city street networks linked to future spatial navigation ability. Nature 604, 104-110 (2022).
・Clynes, T. How to raise a genius: lessons from a 45-year study of super-smart children. Nature 537, 152-155 (2016).
・Lubinski, D., Benbow, C. P. & Kell, H. J. Life Paths and Accomplishments of Mathematically Precocious Males and Females Four Decades Later. Psychol. Sci. 25,2217–2232 (2014).
・Kell, H. J., Lubinski, D., Benbow, C. P. & Steiger, J. H. Creativity and technical innovation: Spatial ability’s unique role.Psychol. Sci. 24, 1831–1836 (2013).
・Benesse「教育格差の発生・解消に関する調査研究報告書 第1章 学力の地域格差」(2007~2008)
・独立行政法人国立少年教育振興機構「子供の頃の体験がはぐくむ力とその成果に関する調査研究」(2017)

細田 千尋(ほそだ・ちひろ)
東北大学大学院情報科学研究科准教授。博士(医学)
内閣府Moonshot研究目標9プロジェクトマネージャー(わたしたちの子育て―child care commons―を実現するための情報基盤技術構築)。内閣府・文部科学省が決定した“破壊的イノベーション”創出につながる若手研究者育成支援事業T創発的研究支援)研究代表者。脳情報を利用した、子どもの非認知能力の育成法や親子のwell-being、大人の個別最適な学習法や行動変容法などについて研究を実施。

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