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メンズコスメ市場の先駆者がファンデではなく"脇役"のコンシーラーに目を付けた納得の理由

  • 2022.4.8
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メンズコスメ市場はコロナ禍でもプラス成長を続けている。好調の要因は何か。マーケティングライターの牛窪恵さんが、市場を開拓した「先駆け」といわれるレスプリの開発者に話を聞いた――。

なぜ男性コスメが伸びているのか

コロナ禍で、2021年も落ち込みが指摘されたコスメ市場。マスクで崩れたり隠れたりする「メイクアップ化粧品(ファンデーションや口紅など)」は、20年が前年比-25%、21年も同-7%と、2年連続の減少となりました(出典:インテージ「知るギャラリー」21年11月25日 公開記事)。

レスプリ 取締役兼商品事業本部長 長島幹孟さん
レスプリ 取締役兼商品事業本部長 長島幹孟さん(写真提供=レスプリ)

一方でこの時期、むしろ伸長傾向だった市場もあります。それが基礎化粧品全般と、「メンズコスメ」市場。同じくインテージの調査では、コロナ禍でとくに男性が購入した化粧品市場が、20、21年といずれも顕著にプラス成長(前年比)にあったことが判明。21年には調査開始以来、初めて400億円を突破(406億円)しました。

こうしたメンズコスメの伸びを、「コロナ禍でリモートワークが増え、(PC画面で)男性も自分の顔を見る機会が増えたから」とする報道も多いのですが、若者に人気のメンズコスメブランドを展開するレスプリの取締役兼商品事業本部長・長島幹孟さんは「それだけではないはず」といいます。

30代半ば以上とZ世代では関心の方向性が違う

レスプリは、19年4月に「LIPPS BOY(以下、リップスボーイ)」を発売。21年12月~22年2月の同ブランド出荷数量は、目標比113%と好調に推移しています。

「一般に、30代半ば~40代以上の男性は、『悩みを隠す』目的で、美容に関心を示す傾向が強い。でもいまの10代後半~20代の若者たち(おもにZ世代)の多くは、違います」

リップスボーイの商品。
リップスボーイの商品。

いわく、30代半ばより上の男性は、「濃いヒゲの剃り跡を、ファンデーションで隠したい」など「マイナスをゼロに」の傾向が強い。彼らは確かに、リモートワークが引き金となり、「どうにかしなければ」とコスメに手を伸ばしたかもしれません。

ところが、Z世代の若者は「コロナ前から『もっとキレイに、カッコよくなりたい』とのモチベーションが高かった」と長島さん。確かに、メンズコスメ市場の伸びはコロナ前から顕著で、2015年以降は毎年、右肩上がりの状況が続いています(インテージ調べ)。

そんな彼らの「キレイ&カッコイイ」への欲求を高めたのはSNSやユーチューブなどの動画だろうと、長島さんはいいます。

「とくに数年前から、メンズコスメに関心が高い男性たちが『レディース(女性用)コスメ、使ってみた』などの動画を次々と投稿するようになった。それを見た若い男性たちが、自分もやってみようかなと、主体的にコスメを選ぶようになりました」

女性用のコスメを買う男性は多い

実は、コスメを買う男性の中には、「女性用」を買う人も少なくありません。

リクルートの研究機関の調査によれば、基礎化粧品では約3割、メイクアイテムではなんと約5割の男性が、「女性用」のコスメを利用していました(21年「ホットペッパービューティーアカデミー」調べ)。

もともとZ世代の若者は「男女」に捉われない、ジェンダーレスな志向が強い。

06年、私が「草食系男子(当時20代半ば前後)」の取材を始めたころから、「肌を日に焼きたくないから、女性用の日焼け止めを使う」や「僕は腕が細いから、メンズ用でなくレディース用の腕時計を買ってます」といった意見はありましたが、今に比べるとまだ少なかった。

「女性向けの売り場に行くのが、恥ずかしい」との声も、多く聞こえてきました。

ところが近年は、男女の垣根を越えて買い物できる、ネットショッピングが当たり前に。リップスボーイも、サロン以外に「アマゾン」での販売が絶好調だといいます。

インスタでの情報発信も力を入れている
インスタでの情報発信も力を入れている(写真提供=レスプリ)

また、ジェンダーレスなSNSやメイク動画も浸透し、「リップスボーイもインスタグラムアカウント(22年3月末現在、フォロワー約1万人)での提案に力を入れ始めた」と長島さん。

一方で近年、メンズコスメの品数が増えてきたとはいえ、女性用の豊富なラインナップには敵わない。ゆえに情報感度が高い男性は、レディースコスメにも手を伸ばしやすいのでしょう。

約20年前に可能性を見いだしていた

男性に「女性用」が売れるとなれば、メンズコスメ自体にもまだまだ市場開拓の余地があるはず。

レスプリは、若者のメンズコスメ市場を開拓した「先駆け」とも言われます。「リップスボーイ」の開発に着手したのは17年ですが、メンズコスメの時代が来ると確信したのは「さらに前の、2000年代半ばごろからです」(長島さん)。

同社は1999年、現代表の的場タカミツさんが東京・原宿に美容室(サロン)を開業したことから始まり、2008年に商品の企画開発・販売会社として設立されました。

商品を試せる“場”が必要

当時は、男性だけでなく女性もターゲットにしていましたが、「オシャレな男性が注目され始め、メンズファッション誌の切り抜きを手に『こんな感じで』とやって来る男性が増えたようです」と長島さん。

2000年代に入ると、的場代表がたびたびメンズ美容関連の取材を受けるようになり、「潜在的なニーズは確実にある」と確信したといいます。

もっとも、「僕も含めて、一般に男性は見栄っ張り」だと長島さん。

たとえば、街角でティッシュを配っていて「あ、欲しいな」と思っても、向こうから手渡してくれなければ、なかなか自分から取りに行こうとは思わない。ニーズはあれど、実際に手を伸ばしてもらうためには、商品を試せたり使い方を教えてもらえたりする“場”がないと難しいと考えていたそうです。

なぜファンデではなくコンシーラーか

そんななか、お勧めできる場としてのメンズビューティーサロン「LIPPS(リップス)」は、着実に店舗数を伸張。22年3月末現在、全国で23店舗を展開し、年間来店客数は約40万人に上ります。

レスプリのヘアワックス
レスプリのヘアワックス

「そのうち8~9割が、10代後半~20代のおもにZ世代の男性です」(長島さん)

リップスのサロンには、美容感度が高い「スタイリスト(美容師)」が存在します。17年以降、ヘアワックスなどにとどまらず、さまざまなメンズコスメの開発に着手したリップスは、まず彼らに女性用のファンデーションやBBクリーム、リップクリームなどを試してもらったとのこと。

とくに、唇に塗るとほんのり色づくリップバーム(保湿力に優れたリップクリーム)は、「つけるだけで気分がアガる!」と男性スタイリストに好評で、化粧品のOEM企業の協力を得て、試作品を何度も作ったそうです。

一方で、ファンデーションは「いきなり肌全体に塗るのは、初心者の男性にとってハードルが高い」と考え、コンシーラーを2色出してみたとのこと。

一般に、女性市場におけるコンシーラーは、ファンデーションでカバーしきれない目の下のクマやシミなど、スポットをカバーするためのもの。二重、三重にファンデーションを塗ると、いわゆる「厚塗り」になってしまうからです。

そんなコンシーラーを、リップスは「お試し」感覚で使えるものにしよう、と考えた。気になる箇所に試しに塗ってもらい、メンズコスメ初心者の男性に「肌に何かを塗ると、キレイになれるんだ」と、実感してもらおうというのです。

キーワードは「保湿」「清潔感」「透明感」

この考えが功を奏し、ファンデーションに抵抗がない男性が増えていったとのこと。

右がリップあり
右がリップあり(写真提供=レスプリ)

最近、Z世代に人気のキーワードは「保湿」や「清潔感」「透明感」で、「とくにコロナ禍の除菌ブームなども影響してか、清潔感への関心が高まっている」と長島さん。

リップバームも、唇がカサカサしていると感じたときに塗るだけで、清潔感や色っぽさを感じさせられるはずだといいます。

「これまで女性の多くが、メイクによって見た目や気分をアゲられた半面、男性は大半が『素(素顔)』で勝負してきた。彼らにも一度経験してもらうことで、『メイクで、こんなに変われるんだ』と気づいてもらえるはずです」

顧客にモノやコトの重要性を認識してもらう方法

長島さんが言う「経験価値」の重要性は99年、アメリカの経営学者バーンド・H・シュミットが、著書(※1)において定義しています。

すなわち、顧客にモノやコトの重要性を認識してもらうには、戦略的にその対象物との「価値ある(心地よい)経験」をさせることが重要である、ということ。

【図表1】シュミットの戦略的経験価値モジュール 5つの領域

「メンズメイクで気分がアガる」や「こんなに変われるんだ」といった体験価値は、シュミットが5つに分類した経験価値モジュールのうち、「SENSE(感覚的価値)」、あるいは「FEEL(情緒的価値)」に当たるでしょう。

社会全体では、まだメンズコスメが「当たり前」ではない。だからこそ、まずは「気軽に手に取れる」「試しに塗れる」といった体験の場や機会を提供することが重要です。

(※1)Schmitt, Bernd H.1999『Experiential Marketing: How to Get Customers to Sense, Feel, Think, Act, Relate』(Free Press)

5年後、10年後は男性のメイクは当たり前に

東京・伊勢丹新宿店メンズ館は、19年3月のグランドオープンを機に、1階に水道設備を完備。買い物途中でも試せる、メンズコスメの「トライアルスペース」を新設しました。また21年8月、東京・新宿マルイも、1階にメンズコスメブランド「バルクオム」初のフラッグシップショップを開業。最新テクノロジーを駆使し、自身を映すと肌の色に合うメイク用品を提案してくれる「デジタルミラー」を設置しました。

Z世代の男性の父親(おもに40、50代)は、「メイクするのが当たり前」の世代ではありませんが、「女性が母親の背中を見て育ち、『大人になったらメイクするものだ』と考えるように、あと5年後、10年後には、若い男性も『メイク=当たり前』と感じてくれる時代が来るはず」と長島さん。

そのときまでに貴重な「経験価値」を提供できる企業こそが今後、メンズメイク市場での勝者となりそうです。

牛窪 恵(うしくぼ・めぐみ)
マーケティングライター
マーケティング会社インフィニティ代表取締役。修士(経営管理学/MBA)。2020年4月より、立教大学大学院・客員教授。同志社大学・ビッグデータ解析研究会メンバー。財務省・財政制度等審議会専門委員、内閣府・経済財政諮問会議 政策コメンテーター。著書に『男が知らない「おひとりさま」マーケット』『独身王子に聞け!』(ともに日本経済新聞出版社)、『草食系男子「お嬢マン」が日本を変える』(講談社)、『恋愛しない若者たち』(ディスカヴァー21)ほか、著書を機に流行語を広める。テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。

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