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満開の桜咲く展示室で、アートなお花見を。 「ダミアン・ハースト 桜」@国立新美術館

  • 2022.3.24
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「ダミアン・ハースト 桜」展示風景 2022年 筆者撮影

お花見ほど、老若男女問わずみんなが好きなものってあるだろうか。桜が満開のシーズンは、名所はどこも人でいっぱい。視界が薄いピンクに染まるひとときを、誰もが春の風景として愛している。その桜をモチーフにした巨大な絵画を描いたのは、イギリスを代表する現代美術作家、ダミアン・ハーストだ。

「ダミアン・ハースト 桜」展示風景 2022 年 国立新美術館
Photographed by Masaya Yoshimura © Damien Hirst and Science Ltd. All rights reserved, DACS 2022

真っ二つにしたホルマリン漬けのサメ、本物のダイヤモンドで全面を覆った骸骨など、センセーショナルな作品で常に注目を集めてきたハースト。90年代に頭角を現したヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBAs)の代表格として、アレキサンダー・マックイーンやブラーなどと共にクール・ブリタニアをけん引したカルチャーアイコンでもある。

「ダミアン・ハースト 桜」展示風景 2022年 筆者撮影

「ダミアン・ハースト 桜」展示風景 2022年 筆者撮影

会場は、新美術館特有の巨大な空間に、木々が並ぶように巨大な桜の絵、24点が並んでいる。来場者も様々で、公園にお花見に来たかも?と思ってしまうほど。そう思ったのは、いる人たちのせいだけではない。絵のサイズ、花を表すドットや背後に描かれる幹や枝も実物の桜の木によく似ているのだ。会場は大きく3つのスペースに区切られているが、隣の部屋の桜もチラチラ見えるところなども、なんだかお花見っぽい。桜がそこら中にある、あの感覚が蘇ってくる。

「ダミアン・ハースト 桜」展示風景 2022 年 国立新美術館
Photographed by Masaya Yoshimura © Damien Hirst and Science Ltd. All rights reserved, DACS 2022

展覧会のウェブサイトで見られるインタビュー動画で、ハーストは観客を絵に没入させたかったと語っている。大きさは試行錯誤の結果、実際の木々と同じくらいのサイズになったようだ。


《早咲きの桜》(部分)2018年、個人蔵 筆者撮影

ディテールにも注目してほしい。花々はドットのような丸や、絵具をドリッピングしたような筆跡など、いくつかの方法で描かれている。ハーストは、90年代以降「スポット・ペインティング」と呼ばれるカラフルなドットを規則正しく並べて描く絵画を制作しているが、それは具象とはかけ離れたミニマルな表現だ。でも、今回の〈桜〉にもその面影はうかがえる。ぎゅっと押し付けたり、絵具の塊を投げつけて表面を盛り上げたり、筆跡が辿れる形ではあるが、「花」は「スポット」の延長線上にあるのだ。


「ダミアン・ハースト 桜」展示風景 2022 年 国立新美術館
Photographed by Masaya Yoshimura © Damien Hirst and Science Ltd. All rights reserved, DACS 2022

彼自身の過去作の継承だけではない。本シリーズは、19世紀のポスト印象派や20世紀のアクション・ペインティングといった西洋絵画史の成果を独自に解釈した結果が現れている。ピエール・ボナール、マーク・ロスコ、ジャクソン・ポロック、フランシス・ベーコン、ウィレム・デ・クーニング……。どんな作家からインスピレーションを得ていたかは、ぜひインタビュー動画を見て知ってほしい。


「ダミアン・ハースト 桜」展示風景 2022 年 国立新美術館
Photographed by Masaya Yoshimura © Damien Hirst and Science Ltd. All rights reserved, DACS 2022

最大の作品は《この桜より大きな愛はない》で、縦5メートル、横7メートルを超える。桜の木を見上げた時の感覚がリアルに蘇る大作だ。絵に囲まれたときの解放感は、自然の中にいるときの心地よさに似ていた。

ハーストは、30年以上にわたるキャリアの中で、絵画、彫刻、インスタレーションと様々な手法を用い、芸術、宗教、科学、そして生や死といったテーマを深く考察してきた。強いコンセプトや社会への問題提起など、何かを考えさせる作品を多く生み出してきた作家だけに、絵画鑑賞の純粋な喜びを与えてくれる今回のシリーズは意外な感じもした。だからこそ、これからの新たな展開を予感させる。

桜が散った後もまだしばらくは続くこの展覧会。いつもとは違うお花見を、ぜひ楽しんでみてほしい。


「ダミアン・ハースト 桜」展示風景 2022年 筆者撮影

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