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変態的DNAは遺伝する?息子ブランドンに見る、父デヴィッド・クローネンバーグの影響

  • 2022.3.20
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最新作『ポゼッサー』が公開中のブランドン・クローネンバーグ監督。その名前からもわかる通り、彼はカナダの鬼才デヴィッド・クローネンバーグを父に持ち、デビュー作『アンチヴァイラル』(12)のころから注目を集めていた存在だ。

【写真を見る】デヴィッド・クローネンバーグ監督といえば、この人体破壊描写!(『スキャナーズ』)

父の影響を感じる、息子ブランドンの最新作『ポゼッサー』 [c]2019,RHOMBUS POSSESSOR INC,/ROOK FILMS POSSESSOR LTD. All Rights Reserved.
父の影響を感じる、息子ブランドンの最新作『ポゼッサー』 [c]2019,RHOMBUS POSSESSOR INC,/ROOK FILMS POSSESSOR LTD. All Rights Reserved.

父デヴィッドと言えば、グロテスクな人体表現、そして鮮烈な暴力描写といった変態的とも言える作風で知られている。ブランドンもそのDNAを継承しており、『ポゼッサー』では父親顔負けの作家性が随所で顔を出している。

【写真を見る】デヴィッド・クローネンバーグ監督といえば、この人体破壊描写!(『スキャナーズ』) [c] Avco Embassy/courtesy Everett Collection
【写真を見る】デヴィッド・クローネンバーグ監督といえば、この人体破壊描写!(『スキャナーズ』) [c] Avco Embassy/courtesy Everett Collection

他人の意識を乗っ取り操る遠隔殺人を描くSFノワール

冒頭からナイフめった刺しなど容赦ない暴力描写にも、父の影響を感じずにはいられない(『ポゼッサー』) [c]2019,RHOMBUS POSSESSOR INC,/ROOK FILMS POSSESSOR LTD. All Rights Reserved.
冒頭からナイフめった刺しなど容赦ない暴力描写にも、父の影響を感じずにはいられない(『ポゼッサー』) [c]2019,RHOMBUS POSSESSOR INC,/ROOK FILMS POSSESSOR LTD. All Rights Reserved.

『ポゼッサー』は、第三者の脳に入り、操ることで任務をまっとうする女性暗殺者と、人格を乗っ取られまいとする男の攻防を描いたSFサスペンス。殺人を請け負う企業で工作員として働くタシャ(アンドレア・ライズボロー)は、特殊なデバイスを使って標的に近しい人間の意識に入り込み、殺人を遂行。暗殺後は宿主を自殺させてその体から離脱するということを繰り返していた。

ショーン・ビーン演じる金持ちのジョンが、殺しのターゲットとなる(『ポゼッサー』) [c]2019,RHOMBUS POSSESSOR INC,/ROOK FILMS POSSESSOR LTD. All Rights Reserved.
ショーン・ビーン演じる金持ちのジョンが、殺しのターゲットとなる(『ポゼッサー』) [c]2019,RHOMBUS POSSESSOR INC,/ROOK FILMS POSSESSOR LTD. All Rights Reserved.

そして次なるターゲットである大企業の代表、ジョン(ショーン・ビーン)に手をかけるため、彼女の娘の恋人コリン(クリストファー・アボット)の脳内へと入り込んだものの、他人の意識へのダイブを長年続けていたタシャの体は異常をきたしてしまう。

ブランドン作品に見るアイデンティティへの問い

『アンチヴァイラル』でも、人間の欲望をグロテスクかつ冷徹な視点で語ってみせたブランドン・クローネンバーグ ph: Caitlin Cronenberg/[c]IFC Midnight/Courtesy Everett Collection
『アンチヴァイラル』でも、人間の欲望をグロテスクかつ冷徹な視点で語ってみせたブランドン・クローネンバーグ ph: Caitlin Cronenberg/[c]IFC Midnight/Courtesy Everett Collection

頭に電極のようなデバイスを挿した女性がコンパニオンとして出席したパーティで、一人の男をナイフでメッタ刺しにするショッキングなシーンから幕を開ける本作。この短いひと幕だけでも、機械と人間の融合や過度な暴力といった父親からの影響を想起せざるを得ない。またビジュアル面にとどまらず、物語の根底となるテーマでもクローネンバーグ家のDNAを強く感じさせるところも。

例えば、先ほど述べた冒頭シーンの直後、乗っ取っていたコンパニオンの体から離脱したタシャは、自分が誰なのかを確かめるテストを受ける。さらに夫と子どもと会う前には、自分のしゃべり方を取り戻すかのように「ただいま」と繰り返し発する。任務を通して多くの他人になりすましてきたため、タシャは自分自身がどんな人間だったのか、わからなくなり始めているのだ。

息子と夫に会う前に、自分の話し方を練習するタシャ(『ポゼッサー』) [c]2019,RHOMBUS POSSESSOR INC,/ROOK FILMS POSSESSOR LTD. All Rights Reserved.
息子と夫に会う前に、自分の話し方を練習するタシャ(『ポゼッサー』) [c]2019,RHOMBUS POSSESSOR INC,/ROOK FILMS POSSESSOR LTD. All Rights Reserved.
脳内での意識と意識の戦いを、独創的なビジュアルで表現している(『ポゼッサー』) [c]2019,RHOMBUS POSSESSOR INC,/ROOK FILMS POSSESSOR LTD. All Rights Reserved.
脳内での意識と意識の戦いを、独創的なビジュアルで表現している(『ポゼッサー』) [c]2019,RHOMBUS POSSESSOR INC,/ROOK FILMS POSSESSOR LTD. All Rights Reserved.

さらにコリンに潜入した際には、タシャの意識は脳から抜け出すことができなくなり、コリンの人格と対峙してのみ込まれそうになってしまう。第三者の意識に飛び込むというアイデアを通して、他者になろうとすることのグロテスクさ、そしてその先にあるアイデンティティの揺らぎや喪失の恐怖が、本作ではショッキングなビジュアルと共に描かれていく。

セレブのウイルスを摂取することがブームとなっている近未来が舞台の『アンチヴァイラル』 ph: Caitlin Cronenberg/[c]IFC Midnight/Courtesy Everett Collection
セレブのウイルスを摂取することがブームとなっている近未来が舞台の『アンチヴァイラル』 ph: Caitlin Cronenberg/[c]IFC Midnight/Courtesy Everett Collection

このテーマは、ブランドンの長編デビュー作『アンチヴァイラル』でも語られている。この作品はセレブのウイルスが高値で売買される近未来を舞台に、ウイルスを闇ルートに横流ししていた主人公がとある陰謀に巻き込まれていくディストピアSF。セレブのウイルスを体内に投与することでつながりを感じようとする人々の体に訪れる変化をグロテスクに描き、自分の存在意義を捨ててまで、他者への憧れを抱く現代人を、病気として皮肉るものだった。

父の作品の根底にあるアイデンティティ崩壊への恐怖

『ラビッド』は事故で重傷を負った女性が皮膚手術を受けたことで身体に異変を来たしてしまうボディ・ホラー 写真:EVERETT/アフロ
『ラビッド』は事故で重傷を負った女性が皮膚手術を受けたことで身体に異変を来たしてしまうボディ・ホラー 写真:EVERETT/アフロ
グロテスクな表現もデヴィッド・クローネンバーグの持ち味だ(『ザ・フライ』) [c] 20thCentFox/Courtesy Everett Collection
グロテスクな表現もデヴィッド・クローネンバーグの持ち味だ(『ザ・フライ』) [c] 20thCentFox/Courtesy Everett Collection

存在についての問いかけは、父デヴィッドのキャリアを貫いてきたテーマでもある。特に彼の代名詞と言えるボディ・ホラーというジャンルは、身体の変容を通して自分が失われていく恐怖を内在しており、事故で重傷を負った女性が受けた皮膚手術の副作用から出現したなにかによって無意識に凄惨な騒動が引き起こされる『ラビット』(77)や、実験の結果、徐々にハエになってしまう科学者の悲劇を描いた『ザ・フライ』(86)など多くの傑作を生みだしてきた。

リック・ベイカーが特殊メイクを手掛けた(『ヴィデオドローム』) 写真:EVERETT/アフロ
リック・ベイカーが特殊メイクを手掛けた(『ヴィデオドローム』) 写真:EVERETT/アフロ
怒りの恐ろしさを具現化して描いた『ザ・ブルード 怒りのメタファー』 写真:EVERETT/アフロ
怒りの恐ろしさを具現化して描いた『ザ・ブルード 怒りのメタファー』 写真:EVERETT/アフロ

さらに『ヴィデオドローム』(82)では、現実と幻想の境目がわからなくなる主人公の様子を、幻覚が肉体へと接合していくショッキングなビジュアルで表現し、『ザ・ブルード 怒りのメタファー』(79)では人間の怒りという意識をある形で具現化。『イグジステンズ』(99)でも現実並にリアルなゲーム世界のキャラクターになった主人公が自意識と無関係にセリフを発するなど、現実とゲームの世界がわからなくなり、混沌していく様子が描かれた。

生物的モチーフが随所に盛り込まれている(『イグジステンズ』) [c] Dimension Films/courtesy Everett Collection
生物的モチーフが随所に盛り込まれている(『イグジステンズ』) [c] Dimension Films/courtesy Everett Collection
良き父親の思いもよらぬ顔が明らかになっていく『ヒストリー・オブ・バイオレンス』 [c] New Line/courtesy Everett Collection
良き父親の思いもよらぬ顔が明らかになっていく『ヒストリー・オブ・バイオレンス』 [c] New Line/courtesy Everett Collection

さらにSFやボディ・ホラーを離れた『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(05)も、普通に生活を送る男のもう一つの顔が徐々に明らかになる、自己とはなにかを問う二面性についての物語。双子を題材にした『戦慄の絆』(88)では、顔はまったく同じだが性格は真逆の双子が一人の男を演じたことで生じる不和を通じ、アイデンティティの崩壊を浮かび上がらせた。

性格の異なる双子をジェレミー・アイアンズが一人二役で演じた『戦慄の絆』 TM & Copyright [c] 20th Century Fox Film Corp./courtesy Everett Collection
性格の異なる双子をジェレミー・アイアンズが一人二役で演じた『戦慄の絆』 TM & Copyright [c] 20th Century Fox Film Corp./courtesy Everett Collection

親子共にSFをテーマとした新作が待機中

揃いも揃って似たようなテーマに憑かれてきたクローネンバーグ親子。そんな彼らは互いに次回作の話題も持ち上がっている。ブランドンが手掛ける『Infinity Pool』は、『ゴジラvsコング』(21)のアレンサンダー・スカルスガルドを主演に迎えた得意のSFスリラー。若くして裕福な恋人たちが、休暇でリゾートを訪れるが、ホテルの外には、魅惑的だが危険なものがあり…とあらすじだけで一癖も二癖もありそうな1作であることがわかる。

強烈な作家性を変態的な描写で表現してきたデヴィッド・クローネンバーグ [c] New Line/courtesy Everett Collection
強烈な作家性を変態的な描写で表現してきたデヴィッド・クローネンバーグ [c] New Line/courtesy Everett Collection

一方、父デヴィッドが手掛けるのが、ヴィゴ・モーテンセン、レア・セドゥ、クリステン・スチュワートら豪華キャストが名を連ねる『Crimes of the Future』。1970年製作の自主映画『クライム・オブ・ザ・フューチャー 未来犯罪の確立』と同じタイトルとなるが、監督いわく、リメイクでも続編でもないそう。

ヴィゴ・モーテンセンは最新作でデヴィッド・クローネンバーグと4度目のタッグを組む(『ヒストリー・オブ・バイオレンス』) [c] New Line/courtesy Everett Collection
ヴィゴ・モーテンセンは最新作でデヴィッド・クローネンバーグと4度目のタッグを組む(『ヒストリー・オブ・バイオレンス』) [c] New Line/courtesy Everett Collection

『イグジステンズ』以来のオリジナル脚本作は、人類が人工的な環境に適応することを学んでいる近未来を舞台にしたメタモルフォーゼがテーマの、まさに“クローネンバーグ印”といも言うべき作品となるよう。5月のカンヌ国際映画祭で初お披露目とも噂されており、続報が待たれるところだ。

変態的とも言える独自の世界観を持った強烈な作家性ゆえに、好みの分かれるクローネンバーグ親子。まずは『ポゼッサー』を観て、そのグロテスクかつ艶美な世界の虜になったなら、これらの作品群にも触れてみてほしい。

文/サンクレイオ翼

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