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何度も覆される予想...500ページを一気読みした。【本屋大賞ノミネート作】

  • 2022.3.16
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散りばめられた伏線、読者への挑戦状、圧倒的リーダビリティ、そして、驚愕のラスト。500ページ、一気読み!

2018年から3年連続で本屋大賞に作品がノミネートされた知念実希人(ちねん みきと)さん。作家デビュー10年、実業之日本社創業125年記念作品となる『硝子の塔の殺人』(実業之日本社)は、2022年本屋大賞(4月6日発表)にノミネートされている。

「謎、さらなる謎で頭はパニック。混乱指数120%小説。」「プロローグからすでにクライマックス! マニアを唸らせ、ビギナーを引きつけて離さない。」......など、書店員の熱のこもったコメントが帯に並ぶ。

期待を膨らませて読んでみると......なるほど、これは面白い。とりわけ400ページを過ぎたあたりから、想定外の展開に恐怖を覚えつつ、誇張でもなんでもなくページをめくる手が止まらなかった。

殺人犯の独白

本作は「プロローグ」「一日目」「二日目」「三日目」「最終日」「エピローグ」の構成。

「どうしてこんなことになってしまったのだろう」「俺は、どこで間違ったんだろうな」「あの名探偵に出会ったときか」――。プロローグは、医師の一条遊馬(いちじょう ゆうま)の独白からはじまる。

「この物語は、『硝子館の殺人』はすでに幕を下ろしたのだ。名探偵により真実が暴かれ、犯人である俺が拘束されるという形で。ガラスの尖塔(せんとう)で起きた凄惨な連続密室殺人は解決した」

読者はいきなり、語り手の遊馬が殺人犯であることを知らされる。そこから「一日目」がはじまり、遊馬が殺人犯になる前に遡って事件を目撃することとなる。

いかにも殺人事件が起きそう

物語の舞台は、雪深き森で燦然と輝く、地上11階、地下1階の硝子館。

館の主人・神津島(こうづしま)は、ノーベル賞を期待されるほどの科学者であり、重度のミステリフリークでもある。神津島が「とても重大な発表」をするということで、刑事、料理人、医師、名探偵、霊能力者、小説家、編集者が招かれた。

「山奥に建つ、円錐状のガラスの尖塔。本格ミステリ小説の舞台になりそうな建物ですよね。いかにも殺人事件が起きそう」

午後8時にディナーが終わり、午後10時からの発表まで、ゲストたちは1階の遊戯室でくつろいでいた。遊馬は遊戯室をこっそり出て、螺旋階段をのぼり、10階の神津島の部屋へ向かう。

「本当にやるのか? 俺にできるのか?(中略)やれるかじゃない。やるんだ。それ以外に道はないのだから」

遊馬はポケットからピルケースを取り出し、神津島にカプセルを1粒差し出す。心臓に持病がある神津島の血圧が上がりすぎるのを防ぐ薬だと言って。カプセルの中身は猛毒だった。

これは、読者への挑戦状

神津島が遺体となって発見され、執事、メイド、ゲストたちはざわついた。

医師の遊馬が、神津島は心筋梗塞で死亡したと宣告できれば、自然死となって完全犯罪成立のはずだった。ところが、名探偵こと碧月夜(あおい つきよ)がここから物語の中心となり、読者の予想は何度も覆される展開に――。

犯行を暴かれたくない遊馬と、名推理で事件を解決する月夜。そんな単純な構図ではなかった。なんと「二日目」「三日目」に、遊馬が関わっていない殺人事件が起きたのだ。

自分以外に殺人犯がいる。その人物に神津島殺しの罪をかぶせるしかない。遊馬は月夜の相棒役を申し出て、捜査のサポートをするふりをしつつ、名探偵の疑いを自分から逸らそうと目論む。

遊馬とダブル主人公と言える月夜は、一癖も二癖もあるゲストたちの中でも突出した変わり者。ちょっとここでは、彼女のキャラクターを説明しきれない。名探偵だけあって、物語を引っ張っていく核になる人物、と書いておこう。

登場人物の会話に、実在の作家や作品が数えきれないほど出てくる。ミステリ好きにはたまらないだろう。個人的には、装丁にも感動した。表紙をめくると、つるつるした紙が使われていて、硝子のような手触り。読者も硝子館に招かれたゲストの一員、ということかもしれない。

最後に、月夜のセリフを引用しよう。これは、著者から読者へのメッセージとも読める。

「私は読者に挑戦する。この『硝子館の殺人』の真相を導くために必要な情報は、すべて開示された。犯人は誰なのか、いかにしてあの不可思議な犯行を成し遂げたのか、ぜひそれを解き明かして欲しい。これは、読者への挑戦状である。諸君の良き推理と、幸運を祈る」

■知念実希人さんプロフィール

1978年沖縄県生まれ。東京都在住。東京慈恵会医科大学卒、日本内科学会認定医。2011年第4回島田荘司選ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を『レゾン・デートル』で受賞。12年同作を改題、『誰がための刃』で作家デビュー(19年『レゾンデートル』として文庫化)。「天久鷹央」シリーズが人気を博し、15年『仮面病棟』が啓文堂書店文庫大賞を受賞、ベストセラーに。『崩れる脳を抱きしめて』『ひとつむぎの手』『ムゲンのi(上・下)』で、18年、19年、20年本屋大賞連続ノミネート。『優しい死神の飼い方』『時限病棟』『リアルフェイス』『レフトハンド・ブラザーフッド』『誘拐遊戯』『十字架のカルテ』『傷痕のメッセージ』など、著書多数。今もっとも多くの読者に支持される、最注目のミステリー作家。

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