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シュツットガルト・バレエ団3年ぶりの来日公演に向けて、アリシア・アマトリアンにインタビュー。

  • 2015.9.10
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物語バレエの巨頭と言えば、シュツットガルト・バレエ団とハンブルグ・バレエ団だろう。どちらもドイツのバレエ団で、歴史に名を刻むアーティストらが芸術監督を務める。

物語バレエ、とは『白鳥の湖』や『くるみ割り人形』などの古典バレエが様式美に乗っ取って構成されているのに対して、ひとつのストーリーに基づいて展開していくバレエのこと。古典バレエのようにバリエーションやパ・ド・ドゥがパターン化されておらず、ストーリー展開の中のキャラクターの感情の動きに合わせて振付されているため、ダンサーたちはまさに「踊る俳優」でなければならない。

このふたつのバレエ団が、年末をまたいで晩秋と来春、来日してしまうのである。私のお年玉(そんなものを貰えるとしたら、だが)はすべて、これらの公演チケットに消えちゃう......。

今回は、11月中旬から後半にかけて来日公演を行うシュツットガルト・バレエ団で主演するアリシア・アマトリアンへのインタビューをお届けしよう。


■ 記憶の中の美しい初恋と、現実のはざまで悩む女性を、熱演

「クランコの世界は、物語と音楽と振付が作品の中で溶け合っていて、とても創造性を感じるの。それぞれのピースがとても美しく、そして人間の個性や感情を強く描き出しているのが特徴だと思う」

今回の来日公演では『ロミオとジュリエット』『オネーギン』『ガラ/シュツットガルトの奇跡』を上演するが、そのすべてに出演(ガラ以外は主役で出演)するアリシア・アマトリアンはしなやかな表現力で、女性の多彩な心情を繊細に表現するダンサー。3年前の来日公演では、ジョン・クランコ版『白鳥の湖』で情緒たっぷりの名演技を披露、そして2008年に来日した時にも『オネーギン』は踊っている。

「『オネーギン』のタチアーナ(主役の女性)は、私のバレエ人生で最初に貰った主役なの。彼女は、オネーギンに恋心を抱き、彼とのドラマを妄想するわ。けれども現実では、ピュアな愛は叶わない。まっとうな家族や周囲の勧めもあり優しく社会的立場もしっかりしている男性と結婚するのだけれど、妻として平穏に暮らしている自分の前に再びオネーギンが現れ、美しく成熟したタチアーナに今度は彼が熱烈にアプローチしてくる。タチアーナは、記憶の中の恋と現実のはざまで苦しむのよ」


■ ドラマティックな悲恋、『オネーギン』『ロミオとジュリエット』

この作品の中にはふたつの名場面がある。1幕、少女タチアーナがオネーギンとの逢瀬を夢の中で繰り広げる"鏡のパ・ド・ドゥ"と、3幕のラストシーンだ。
どちらも胸が締め付けられるようなシーン!!
鏡のパ・ド・ドゥでは恋する少女の妄想が、ハイスピードに展開していく難易度の高いリフトやオフ・バランスなどを通してこれでもかというほど昂揚感たっぷりに繰り広げられる。......そうよね、恋って妄想している時が一番盛り上がるのよね、と涙ながらに納得してしまうシーンだ(私は)。

一方でラストシーンでは、タチアーナに執着するオネーギンを、苦しみ抜いた挙句にきっぱりと拒絶する。眠っていた恋情の火が再び燃え盛らんとするのを必死で抑えようと葛藤するタチアーナの苦悶と、最後の拒絶のポーズが、これまた強烈な見せ場なのである。同時に、このシーンは、ひたすら苦しむタチアーナ、悲哀にくれるタチアーナ、ひたすら筋を通す芯の強いタチアーナ、と演じ手によってさまざまに見え方が異なる。これも、物語バレエに許された"表現の自由"の面白さ。

「『ロミオとジュリエット』では、まず出会いのシーンから有名なバルコニーのシーンまでの間に高まっていく恋心、ジュリエットにとっての初恋を、客席にもいかに初々しく見せるか、がポイントになると思う。初めて男性と肌が触れ合った時のときめきや、ファーストキスまでのドキドキ感......。いったいこんなピュアな少女が、どうしたら愛のために自死できるのか、そんな美しいギャップを表現できたらいいですね」

こちらは心がキュンキュンしたい人必見! の作品である。どちらの悲恋が、今のあなたの気持ちにフィットするだろう。

『ロミオとジュリエット』より、アリシア・アマトリアン&フリーデマン・フォーゲル
©Stuttgart Ballet


■ 数多くの名作・名振付家を世に送り出した、天才ジョン・クランコの世界

アリシア・アマトリアンは14歳でシュツットガルト・バレエ団の付属学校であるジョン・クランコ・バレエ学校へ入学。卒業後バレエ団に入団し今日まで17年間、踊り続けている。

「バレエ学校では厳しい指導を受けたわ。でも、バレエは身体だけでやるものではないの。精神も鍛えられていないと続けられないし、豊かな表現にはつながらない。当時は先生の厳しさがつらかったけれど、振り返るとあの時代があってよかったと思います。先生も、一番教えたかったのはそこじゃないかしら」

研修生からスタートし、2002年からプリンシパルとして主役を踊り続けているが、一度もこのバレエ団を離れたいと思ったことはない、と言う。

「クランコの作品世界は美しく奥深く、何度踊っても飽きることがないわ。周りのダンサーたちも本当に美しいし、だから、ここでもっともっと、成長したい」

ジョン・クランコは、南アフリカに生まれ、バレエダンサーとして英国に渡り、サドラーズ(現バーミンガム)や、英国ロイヤル・バレエ団で経験を積んだ後シュツットガルトへ移った。英国時代から振付家としての頭角を現し、1961年には同バレエ団の芸術監督に就任している。数多くの作品と同時に、ジョン・ノイマイヤー、イリ・キリアンなど現代バレエを代表する巨匠振付家を育ててもいる。しかし私生活ではアルコールに依存し、45歳と言う若さで、飛行機の中で睡眠薬の副作用により不覚にもその生涯にピリオドを打ってしまった。しかしその作品は後継者らによって守られ、クランコ作品を敬愛するダンサーらに踊り継がれ、その瑞々しさを今も失ってはいない。

「クランコの作品は、観る人の感情を大きく動かすの。私は彼の作品を踊ることでもっと人を笑わせたり泣かせたりしたい」

人の気持ちをとらえた瞬間の喜びは、何物にも代えられないのだとアリシアは言う。


■ 心が平和になると、自分の人生がもっと好きになる

2002年以来、今回で来日も5回目となるが、アリシアは日本が大好き。

「食べ物も街も、ぜーんぶ好き。でも一番感動するのは、日本人の礼儀正しさかな。道を歩いていてぶつかっても謝りもしないヨーロッパ人とは大違い。日本に来るととにかく気分がいいですね」

過去の来日では、オフの時に京都へ足を伸ばし社寺仏閣を巡った。ある枯山水で「白い石だけで宇宙のような空間が出来上がっているのに感動しました。その庭の前に座っていたら頭の中が空っぽになって、気がついたら3時間経っていたんです。生まれ故郷のスペインの海岸でも、幼いころはそんな風にして過ごしていたことを思い出しました」という体験もしたそうだ。心が平和になると、自分の人生がもっと好きになる、そう重ねて言ったアリシアに、5年後はどうしていたいかと尋ねてみた。

「う......ん。身体が続く限りは踊っていたいけれど、なるようにしかならないと思うし、そうなるときが自分にとってふさわしいタイミングなんだと思います。結婚して家庭を持ち、"ミニ・アリシア"が駆けまわっている、なんてのも面白いけど!」

こんなドラマティックな主人公を演じるアリシアが、実生活ではどんな恋愛をして、どんなパートナーと共に歩むのか、ちょっとだけ覗き見してみたい気分になった。

<plofile>
アリシア・アマトリアン
スペイン生まれ。ジョン・クランコ・バレエ学校で学び、1998年にシュツットガルト・バレエ団に研修生として入団。以来着実に昇進を重ね2002年にはプリンシパルに。03/04年シーズンにはヨーロッパのダンス雑誌の"注目すべきダンサー"に選ばれ、06年にはドイツダンス賞"未来"、08年"ダンツァ&ダンツァ賞"、09年"アプリ・アルテ賞"を受賞。


シュツットガルトバレエ団 来日公演
『ロミオとジュリエット』
東京公演
日程:2015年11月13日〜15日
会場:東京文化会館

札幌公演
日程:2015年11月25日
会場:ニトリ文化ホール

『オネーギン』
東京公演
日程:2015年11月21日〜23日
会場:東京文化会館

西宮公演
日程:2015年11月28日
会場:兵庫県立芸術文化センター

ガラ公演『シュツットガルトの奇跡』
東京公演
日程:2015年11月18日
会場:東京文化会館

●問い合わせ
NBSチケットセンター
Tel. 03-3791-8888
http://www.nbs.or.jp

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