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「ロシアの行為は国際法違反!」といわれるウクライナ侵攻…そもそも「国際法」とは?

  • 2022.3.7
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ロシアのプーチン大統領(2022年2月、EPA=時事)
ロシアのプーチン大統領(2022年2月、EPA=時事)

ロシアとウクライナの問題を巡って、ニュースでよく聞く言葉が「国際法」です。「ロシアは国際法に違反した行為をしている」と言われますが、そもそも「国際法」とは何でしょうか。ロシアの行為はどういった「法」に違反しているのでしょうか。弁護士の藤原家康さんに聞きました。

Q.そもそも「国際法」とは何なのでしょうか。

藤原さん「主として国家間の関係を定める、また、国際組織や個人についても、その関係について定める規則です。条約、国際慣習法などがあります」

Q.条約は二国間など限られた国の間で結ばれる場合と、多くの国の間で結ばれる場合があると思います。それぞれに違いはあるのでしょうか。戦争や平和に関する条約としては、具体的にどのようなものがありますか。

藤原さん「二国間条約と多国間条約は、当事者となる国の数に違いはありますが、本質的な違いはありません。戦争や平和に関する条約には、次のようなものが挙げられます。

(1)不戦条約第1次世界大戦後の1928年に調印され、戦争の違法化を大きく進めたものとして、歴史的にも重要です。この条約で、国際紛争を解決する手段や、国家の政策の手段としての戦争は、放棄されました。他方で、『戦争に至らない武力行使は許される』と解される余地を残しました。違反に対する制裁も定められておらず、第2次世界大戦が起きてしまいました。

(2)国際連合憲章(国連憲章)第2次世界大戦の反省を踏まえ、武力による威嚇や武力の行使を一般的に禁止しました(2条4項)。違反した際の制裁も盛り込まれましたが、個別的自衛権や集団的自衛権の行使は禁じられておらず、その後も、世界規模でないとはいえ、各地で戦争が起きています。

(3)核兵器禁止条約(2017年採択、2021年発効)核兵器の開発、実験、使用、使用の威嚇などを禁止しました。また、自国が核兵器を有する場合はその撤去、破壊を義務付けています。ただし、アメリカやロシアなど核保有国が参加しておらず、実効性を疑問視する声もあります」

Q.国際慣習法とは、どのようなものでしょうか。戦争や平和に関するものとしては、具体的にどのようなものがありますか。

藤原さん「国際慣習法は、明文で定められていなくても、慣習が拘束力を持つルールとなったもののことをいいます。国際法では慣習法が重要な役割を果たすとされており、一定の分野では主要なルールともなっています。

戦争や平和に関するものでは、武力行使の禁止(1986年のニカラグア事件における国際司法裁判所=ICJ=の判決)や、ジュネーブ第4(文民保護)条約の規則の内容が挙げられます。これらを定める規定が適用されない国や紛争についても、これらが慣習法として適用されることになります」

Q.国内法に違反した場合、警察などに取り締まられたり、裁判にかけられたりすることがあります。国際法に違反した場合、取り締まりや裁判といったものはあるのでしょうか。

藤原さん「あります。取り締まりについては、国連の安全保障理事会(安保理)による措置、国際刑事裁判所(ICC)が挙げられます。

安保理は、平和に対する脅威、平和の破壊または侵略行為の存在を判断し、また、国際の平和や安全を維持、回復するために、勧告し、または、状況に応じて軍事的措置や非軍事的措置を取ります(国連憲章39条)。

国際刑事裁判所は、2003年にオランダのハーグに設置されました。集団殺害犯罪、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪を対象とします。根拠となる『ローマ規程』における要件を満たせば、加盟国以外の国の国民(個人)に対しても、裁判が行われる場合があります。

裁判については、ほかにもさまざまな裁判所がありますが、代表的な裁判所として、国際司法裁判所(ICJ)が挙げられます。国際刑事裁判所と違い、国のみが裁判の当事者となることができます(『国際司法裁判所規程』34条1項)」

Q.今回、「ロシアは国際法に違反している」と指摘されることがあります。具体的に、どのような国際法に違反していると考えられますか。

藤原さん「ロシアのウクライナへの侵攻は、先ほど述べた、武力行使の禁止を定めた国連憲章2条4項に違反すると考えられます。また、ロシアは、報道によれば、殺傷力が高いクラスター弾や燃料気化爆弾(真空爆弾)を使用したとのことであり、このことを前提とすると、少なくとも燃料気化爆弾はジュネーブ条約に違反することが考えられます。

これらのロシアの行為は、先ほど述べた、国際刑事裁判所が対象とする、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪に当たることも考えられます」

Q.ロシアの行為が国際法に違反している場合、どのような法的措置が取れるのでしょうか。

藤原さん「次の対応が挙げられます。先ほど挙げた裁判所への提訴などです。

(1)国際司法裁判所への提訴実際に、ウクライナは、ロシアの軍事行動の即時停止を求めて国際司法裁判所に提訴し、緊急措置についてのみ、3月7日~8日に審理されることになったとのことです。

(2)国際刑事裁判所での審理実際に、国際刑事裁判所の検察官が、ウクライナでの戦争犯罪や人道に対する罪の捜査手続きを進める方針を表明したとのことです。管轄などの条件がクリアされれば、プーチン大統領らが、個人として訴追されることもあり得ます。

なお、安保理による軍事的措置や非軍事的措置は取れないと考えられます。ロシアは安保理の常任理事国であり、拒否権を有することから、ロシアに対する措置を安保理が決定することはあり得ないからです。安保理では既に、ロシアのウクライナ侵攻を非難する決議案が、ロシアの拒否権行使によって否決されています」

オトナンサー編集部

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