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ガバナンスの強化が「環境」「社会」の課題解決につながる

  • 2022.2.4
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2021年はESG投資にまつわる話題が豊富だった。特に気候変動に代表される「環境」や、人材多様化・働き方に象徴される「社会」分野をめぐっては、さまざまな報道を通じて関心を集めた話題が多い。環境・社会テーマのホットトピックスと注目すべき視点について、カタリスト投資顧問の小野塚惠美氏に話を聞いた。

カタリスト投資顧問 取締役副社長COO小野塚 惠美 氏

――まず、環境のテーマでは、11月に開催されたCOP26(第26回国連気候変動枠組条約締約国会議)が大きな話題となりました。今回の会議について、どのように総括されていますか。

CO₂の大排出国である中国とロシアの首脳は欠席したものの、200近い国の首脳が集結し、2015年のパリ協定が掲げた気温上昇1.5度の追求、石炭火力発電の段階的な削減、新興国への資金支援の拡充、などが合意されました。そもそも2020年は開催自体が実現しなかったことも踏まえると、世界的に一歩前進といえるでしょう。

さらに、昨今では各国首脳レベルにとどまらず、学術界や市民活動に至るまで、さまざまな層で議論が行われています。

気候変動を自然科学の見地で論じるのは当然ですが、社会科学での論点も増えています。例えば、地球温暖化対策を進めていく上で、産業構造は大きく変わります。その際、既存の産業に従事している人々は失業するリスクがあります。そのリスクに備えつつ、脱炭素社会への公平な移行を目指すことをジャスト・トランザクションと呼び、社会科学の重要なテーマとなっています。

途上国への資金支援拡充には、この視点が反映されていると見るべきでしょう。そして、従来からの環境問題を最大の政治課題とするグリーンポリティクスや、グレタ・トゥーンベリさんに代表される環境アクティビズムなどが拡大する中、各層の意見を集約した合意形成ができたことの意義は小さくありません。

生物多様性の毀損により巨額の経済的損失も発生

――COP26が成功裏に終わった最大の原動力は何だったと思いますか。

やはり、新型コロナウィルスによるパンデミックの影響でしょう。この2年ほどの間で、既存の常識が根底から覆され、われわれのライフスタイルは激変しました。世界中の人々がそれを個人レベルで体感し、不安を共有したことが、気候変動対策を前進させる原動力になったと思います。

――コロナ禍と環境問題との接点についてはどのように整理したら良いでしょうか。

近年、環境分野ではCO₂排出にともなう気候変動の問題に加え、「生物多様性」というテーマが注目されています。これは地球上の生物が作り出す、複雑で多様な生態系そのものを指します。以前から地球温暖化が生物の減少や絶滅を引き起こす、という懸念はありました。それが改めて注目されているのは、やはり足元のパンデミックの影響です。

まず、一部のウイルスによる感染症は野生動物由来という説もあり、自然環境の変化で未知の生物と接触が増え、新たなパンデミックの発生要因になる可能性が指摘されています。また、生物多様性を損なうこと自体が経済的損失となることがわかっています。国連は、2020年6月の『平常のビジネスを超えて:生物多様性目標と資金』というレポートで、世界各国の国内総生産の半分以上が生態系に依拠したサービスに依存し、進行する生態系の破壊で年間4790億ドル(約51兆円)の経済損失が発生していると報告しています。

――具体的には、どのような経済損失なのでしょうか。

環境省は、2021年10月に『生物多様性に係る企業活動に関する国際動向及び日本企業の位置づけ等について』というレポートを発表し、気候変動と自然の損失がもたらすビジネスリスクを整理しています(図1)。

このレポートでは、自然の損失と気候変動の物理的な影響が組み合わさると、洪水被害の増大や作物生産性の低下などの「複合的ビジネスリスク」が高まり、農業、林業、漁業、建設インフラ、公益事業といった業種に影響が出るとしています。また、生物多様性の劣化が直結するリスクとして、「天然植物種の喪失による、医薬品研究の生産性の低下」を挙げています。天然の動植物が失われると、新薬の開発やバイオテクノロジーに影響を及ぼすことから、生物多様性が注目された側面があります。こうした「追加的ビジネスリスク」は、従来の気候変動では語られていませんでした。

多岐に及ぶ「社会」のテーマを体系的に整理するカギは?

――「社会」分野の課題といえば、人材多様化の取り組みが先行しているようですが、コロナ禍によって人々の働き方やサプライチェーンなど新たな課題も次々と浮き彫りになりました。世界的にはどのような注目テーマがありますか?

まず人材多様化については、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)という概念が近年、世界的に浸透してきました。これは、企業に求められるダイバーシティとは、性別や年齢、国籍、宗教など、さまざまなバックグラウンドを持つ人材を尊重したうえで、インクルージョン(受容、包摂)していくことが重要、という発想です。

加えて最近は、D&Iから先に進んだ「DEI」というコンセプトが注目をされています。

――「DEI」という言葉を初めて聞きました。詳しく教えていただけますか。

従来のダイバーシティ(D)とインクルージョン(I)を前提として、その上で一人ひとりが能力を発揮できる公平な仕組みを導入すべきだ、という考え方です。DEIの「E」は、公平という意味の「Equity」のことですね。

あえてEquity という言葉を使っている理由は、「Equality(平等)」との違いを強調するためです。例えば、あるグループに自転車を提供する場合、同じ大きさの同型の自転車を供与することは、たしかに「平等」ではありますが、「公平」ではありません。身長の高い人もいれば、子供もいますし、身体が不自由な人もいるかもしれません。真に公平を期すなら、乗る人の身体的特徴に即したサイズやモデルの自転車を提供することが必要になります。

こうした個人の多様性を考慮し、公平になる仕組みやツールの提供がDEIでは必要です。DEI を理解し、採り入れることは、人材を「資本」としてその価値を最大限に引き出す、人的資本経営にもつながります。さらに、企業の収益力や成長力、効率性といった企業価値を向上に資することになるでしょう。

―― 一つひとつ課題を個別に理解することができても、多岐に及ぶ「社会」の課題をESG投資の中で体系的に整理することは難しそうです。何か良い整理方法はありませんか?

2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは、上場企業に対して、人的資本への投資に関する情報開示を求めており、中心的なテーマになりつつあります。このことからもわかるとおり、人的資本という視点で、ある程度は包括することができるでしょう。

人的資本情報を俯瞰する際、2021年11月に経済産業省が公表した『サステナビリティ関連情報開示と企業価値創造の好循環に向けて』というレポートの中にわかりやすい解説があります(図2)。

人的資本情報を、「価値向上」と「リスクマネジメント」の2つの観点で整理していて、例えばダイバーシティは、価値向上のウェイトがやや重いものの、リスクマネジメントの側面も少なくない、など、成長要因とリスク要因をそれぞれ対極に位置づけて各要因をプロットしています。

環境・社会の課題解決には取締役会の多様性が不可欠に

――成長機会とリスク要因に分けて考えることで、各課題の重要度もわかりやすくなりますね。これらの課題解決に臨むには、つまるところ「ガバナンス」が重要であると言えそうですね。

その通りです。あくまで環境や社会の課題への対応は企業の業務執行の中身の話です。それを監督するのが、取締役会、つまりガバナンスの役目。どういう戦略の下で、どの方向に企業を引っ張っていくのか。Gが機能しないと、EもSも表面的な対応に終始しがちです。そこで、改めて重視すべきなのが取締役会の人員構成です。

さまざまな視点と短期・長期の時間軸で、企業の向かうべき方向性を検討することが重要です。例えば、取締役会が多様性のある人材で構成されていなければ、会社のダイバーシティが機能するはずはありません。組織の文化はトップ層から形成されるとも言われます。

――企業のガバナンスをチェックする意味では、投資家であるアセットオーナーに期待される役割もますます重大になっていきますね。

欧米では、中長期的な視点でESG投資に取り組み、プライベートエクイティなど新たな投資先の発掘や育成を図っている事例が増えてきています。そうした動きと比較すると、国内の取り組みや意識は途上にあるという感は否めません。ただ、それはアセットオーナーだけの責任ではなく、インベストメントチェーンにおける、アセットマネジャーやゲートキーパーといった運用プロフェッショナルのノウハウが不足している部分もありました。

しかし、最近は、未上場企業のスコアリングモデルの構築など、運用に直接関わる部分の体制強化も進んでいます。感度を高めて積極的に情報を取りにいき、ポートフォリオの高度化を実現していただきたいと思います。資金を正しい場所に振り向けて、地域経済が自立自走できる資金循環を確立することで、最終受益者へのリターンを含め、基金としての持続可能性を高められるはずですから。

その一環として、ジャパン・スチュワードシップ・イニシアチブ(JSI)という団体が2019年に設立され、現在、運用会社や生命保険会社、企業年金を中心に、52の団体が参加しています。私も運営委員長として活動しています。年金基金などアセットオーナーの皆さまにも、JSIに参加していただくことで、ESGやスチュワードシップの情報収集や意見交換の機会が少ないといった悩みが解決できると信じています。

アセットオーナーの行動が変わることによって、お金の流れが変わる――その動きは海外で顕著になっています。昨今、海外の富裕層がESG投資への関心を急速に高めていることがその一例です。個人レベルで見ていくと、世界の富裕層が最もCO₂を排出しており、NGO団体の試算では、世界の上位1%の超富裕層が排出するCO₂は、2030年には世界全体の16%を占めるとされています。

一部の富裕層は、こうした事態を放置せず、ライフスタイルを変えてきています。ESGは世界中のあらゆる層が取り組むべき問題となっているのです。2022年は富裕層のESG投資にも注目してみてください。

――富の分配が世界的な政治テーマにもなっている今、要注目の動きですね。本日はどうも、ありがとうございました。

※ 本記事は年金・機関投資家向け運用情報誌『オルイン』Vol.62 ESG別冊(2021年12月20日発行)に掲載した内容を転載しています。

Finasee編集部

金融事情・現場に精通するスタッフ陣が、目に見えない「金融」を見える化し、わかりやすく伝える記事を発信します。

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