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未来の遺跡・江之浦測候所へ。『丸くなる』編

  • 2022.2.2
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測候所? 気象庁? 観測所? いろんなハテナが頭に浮かびますが、ここは、現代美術作家・杉本博司(すぎもと・ひろし)さんが手がけるアート空間です。都心からエイヤッと電車に揺られること2時間。相模湾を見渡せる山一帯に、ギャラリー、硝子舞台、茶室などが点在しています。一周まわるには、これまた2時間ほど。休みの日に目いっぱい満喫したい、大人のためのレジャースポットです。

ここは一体どこなんだ?

江之浦測候所の存在を初めて知ったのは、ファッションブランドsacai のショーでした。雨が降る会場にはSadeの音楽が鳴り響き、石畳を闊歩するモデルたち。動画越しに鳥肌が立ったのを覚えています。そして強く思いました。「ここは一体どこなんだ?」。施設でもない、公園でもない、古代遺跡のような不思議な空間に釘付けだったのでした。

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「丸くなる」

最近、丸くなったなあと自分で思う。もちろん、体型的にではなく、精神的に、のつもりである。「ど・こ・が!?」と360度全方位から聞こえてきそうだけど。

とにかく偏見の塊で生きてきた。好き嫌いが本当にはっきりしていた。でも最近は、境界線が薄くなっているような気がして、毎日が楽しい。その線引きの基準だったのはズバリ、“カッコイイか、否か” だった。

例えば漫画。これまでの人生で数えるほどしか漫画を読んでこなかった。なぜか? それは、漫画より小説を読んでいる姿の方がかっこいいと思っていたから。「絵があると想像力を奪われる気がする」とかなんとか言って、食わず嫌いしていたけれど、最近、人に勧められて読んでみたら…スラムダンク、最高っ!!!

こんな仕事をしているけれど、実は邦画もほとんど観たことがなかった。昔から映画館でも、“単館系インディーズ洋画” しか観ていなかったし、今思えば、放課後に制服でミニシアターにひとり行く自分に完全に酔っていただけかもしれない。「幼い頃に観た樹木希林さんのお芝居に憧れて女優を目指しました」みたいな話を聞くと、キャッチーでいいなあと思うけど、下心ありありで映画を観ていた自分にはとても言えない台詞だ。

本も映画も心から好きであるけれど、白状しよう。その入り口は、カッコつけだった。さらに、何かに傾倒していることがかっこよさの必須条件だった。

江之浦測候所をひとまわりして思ったことは、何的だかわからないということだ。杉本博司さんが美しいと思ったものがコレクションしてある宝箱のような空間は、いい意味で雑多だった。小田原の海を目の前にした柑橘園には、アンモナイトの化石があって、室町時代から現存する門が鎮座し、フランスから来た石階段が続いている。歩いているうちに、まるでマチュピチュの遺跡に来たかのような気になってくる。その境界線のなさが心地よかった。

帰路について、またひとつ丸くなったな〜と思う。一緒に取材に来てくれる編集さんとカメラマンさんは「ど・こ・が!?」と思っているかもしれないけど。

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今回訪れたのは…〈小田原文化財団 江之浦測候所〉

江之浦測候所には、いたる所に“石”があります。〈法隆寺〉からやって来た「若草伽藍礎石(わかくさがらんそせき)」、〈百済寺〉から譲り受けた「石橋」など。石ひとつとっても、表情がまったく違います。ちょっとした石マニアを気取って、川辺に石拾いに行きたいこの頃です。ということで、次回は石をもっと深追いできるスポットへ! なんともラッキーな連載ですね。

夏至の朝に太陽が昇る方角を指してつくられた「夏至光遥拝100メートルギャラリー」。
客席からは硝子の舞台が水面に浮いているように見える「光学硝子舞台」もお気に入り。

〈小田原文化財団 江之浦測候所〉

神奈川県小田原市江之浦362-1
0465-42-9170
10:00~13:00、13:30~16:30(入替制)
火水休
3,300円

事前予約はこちらから。
https://www.odawara-af.com/ja/enoura/

photo : Yumi Hosomi

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