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【世界遺産】潜伏キリシタンの歴史と文化をめぐる旅!『沈黙』の舞台・長崎「外海の出津集落」

  • 2022.2.2
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2018年7月に世界文化遺産に登録された「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」。キリスト教が禁じられているなかで、潜伏キリシタンが信仰を続けた証となる遺産群です。五島列島を含む長崎県を中心に熊本県の天草地方など、日本の西端に位置する地にそれらが点在しています。今回はそのなかの一つ「外海の出津集落」を訪れてきました。

『沈黙』の舞台になった外海地区

日本のキリスト教文学の第一人者である遠藤周作による小説『沈黙』や、それを原作としたマーティン・スコセッシ監督の映画「沈黙 -サイレンス-」(2016年)でも知られる、長崎の潜伏キリシタンの歴史。

フランシスコ・ザビエルによって日本にもたらされたキリスト教を純粋に信じてきた信徒たちに、豊臣秀吉に続き江戸幕府が布告した禁教令によるキリシタン弾圧という苦難が襲いかかります。そんななか、密かに信仰を続けた人々が住んでいた場所の一つ「外海(そとめ)の出津(しつ)集落」を訪ねました。

ランチをした「tabedokoro ヴォスロール」以外、ほとんどの施設が閉館している年末の訪問となったので、外観のみの見学でしたが、それでも当時の人々の暮らしを身近に感じることができました。

長崎市の北西に位置する外海。長崎駅前(長崎新地ターミナルからも可能)から「長崎市遠藤周作文学館」前のバス停「道の駅(文学館入口)」まで、バスで約1時間ほどで到着します。

直通バスの本数は少ないので事前に確認しておくことが必要です。筆者はバスを使いましたが、近くにほかの集落もあるので、ドライブがてら車で向かうのもおすすめです。

バスを降りると「道の駅 夕陽が丘そとめ」が。農水産直売所には地元の特産品が充実していて、観光情報も入手できます。地元の方が多く訪れている印象です。レストランも併設されています。外海ではランチをする場所が限られるので、あらかじめ決めておいた方がよいでしょう。

海の絶景を望める「長崎市遠藤周作文学館」

向かいには角力灘(すもうなだ)を望む絶好のロケーションに「長崎市遠藤周作文学館」が建っています。

外海地区はキリシタンの里として知られ、氏による小説『沈黙』の舞台となった場所です。館内には、遠藤文学に関わる約25,000点の収蔵資料が展示されています。思索空間「アンシャンテ」では海を眺めながら休憩でき、カフェも楽しめます。

長崎市遠藤周作文学館

住所:長崎県長崎市東出津町77番地

TEL:0959-37-6011

開館時間:9:00~17:00(入館受付16:30まで)

休館日:12月29日~1月3日

観覧料:一般360円、小・中・高校生200円

アクセス:長崎バス「道の駅(文学館入口)」下車、徒歩約2分

目的の「出津集落」まではGoogleマップを頼りに、海に近い道を歩きました。思いがけず、その道から望める海の景色が素晴らしいのです。まさしく『沈黙』の舞台のようにドラマチック! ぜひ訪れる前に小説を読むか、映画を観ることをおすすめします。潜伏キリシタンたちの暮らしや彼らの辛い体験をより深く感じられるはずです。

ド・ロ神父による女性の自立支援施設「旧出津救助院」

集落にたどり着いたようです。バス停「道の駅(文学館入口)」から歩いて15~20分ほどでしょうか。

橋の手すりにも十字架が。これは最近作られたものかと思われます。

「旧出津救助院」に到着しました。元は出津代官所、庄屋屋敷跡で、キリスト教解禁後にフランス出身のド・ロ神父(※詳細は下記「ド・ロ神父記念館」を)が建てた、地域の女性たちの自立を支援するための授産施設です。マカロニ工場やいわし網工場などがあり、製織、染色、そうめんやパンの製造、醤油の醸造などが行われていました。当時実際に利用されていた調度品や器具などが公開されています。※見学には事前連絡が必要

旧出津救助院

運営時間:火~土 9:00~17:00(最終受付16:30)

日曜日:11:00~17:00

休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)

※8月15日、11月7日、12月25日は、11:00~17:00の開館

※12月29日~1月3日は休館日

料金:大人400円、中高生250円、小学生以下200円

アクセス:長崎バス「出津文化村」下車、徒歩5~10分

外海の人々に生きる力を与えた「ド・ロ神父記念館」

こちらは「ド・ロ神父記念館」です。マルコ・マリー・ド・ロ神父とは、天保11年(1868年)にキリスト教を布教するために来日したフランス出身の神父です。キリシタン弾圧が続いていた頃に死をも覚悟して来日し、長崎や横浜で数々の功績を残しました。

「陸の孤島」と呼ばれた、田畑にも恵まれない貧しい外海地区の主任司祭となります。長期のキリシタン弾圧に耐えながら、信仰を頼りに暮らしていた人々を見て、彼らの魂と肉体の救いのために生涯を捧げました。

記念館は明治18年(1885年)に、神父自らがいわし網工場として設計し施工したもので、その後、保育所として使用されました。昭和42年(1967年)に県指定文化財となり、翌年に「ド・ロ神父記念館」として開館します。さらに平成15年(2003年)には国の重要文化財に指定。内部には宗教関係や医療器具、大工道具など、神父の偉業を偲ぶ品々が展示されています。※見学には事前連絡が必要

ド・ロ神父記念館

住所:長崎県長崎市西出津町2633

内覧時間:9:00~17:00

休館:12月29日~1月3日

拝観料・入館料:大人310円、小中高生100円(外海歴史民俗資料館の入館料含む、団体割引あり)

アクセス:長崎バス「出津文化村」下車、徒歩約5分

外海に住むキリシタンの拠り所「出津教会堂」

キリスト教解禁後の明治15年(1882年)、ド・ロ神父が私財を投じ、自らが設計施工して建てられた外海初の教会「出津教会堂」。角力灘からの海風に耐えられるよう、屋根が低く堅牢な造りにされているのも特徴のひとつです。外海のキリシタンにとっては心の拠り所でした。往事に思いを馳せ、祈りのひと時を過ごしてみてはいかがでしょう。※見学には事前連絡が必要

出津教会堂

住所:長崎県長崎市西出津町2602

TEL:095-823-7650(受付時間:9:30~17:30)

教会守常駐時間:9:00~12:00、13:00~17:00

アクセス:長崎バス「出津文化村」下車、徒歩約5分

キリスト教の精神が息づく「tabedokoro(食べ処) ヴォスロール」

旧出津救助院の敷地内の一角に「tabedokoro ヴォスロール」があります。ド・ロ神父の故郷、フランスのノルマンディー地方・ヴォスロール村にちなんだ名前だそう。ちなみに長崎市とヴォスロール村は姉妹都市です。ランチをする場所が他になさそうだとわかっていたので、あらかじめ同店を予約していたのでした。

扉を開くと大きなテーブルが。筆者たちだけだと思っていましたが、キリスト教関係者一行とご一緒させていただきました。

お願いしたのは日替わりランチ(800円)。地元ではド・ロ神父のことを「ド・ロ様」と呼んでいるようです。ランチには神父が開梱した「ド・ロ様畑」で収穫した野菜や小麦を中心に、神父が残した記録を再現したパスタ(寒天入り)、素麺、そばなどが含まれています。

それら旬の食材を活かした、ノルマンディー地方や外海の家庭料理を味わえます。パンも畑でとれた小麦と塩と砂糖、自家製酵母を使用し、神父の記録を再現したほんのり甘い素朴な味わい。自家栽培の摘みたてのハーブティーもいただきました。手作りで滋味あふれるお料理です。

大きなテーブルでの相席なので、居合わせた方々と自然に会話が始まります。外海のことやお互いに共通の話題など、食事をしながら和気あいあいと心温まるひと時を過ごしました。そして帰る間際には、同店を営む奥様が、食べ残したパンやいただきもののみかんを持たせて下さいました。家族や親戚の家を訪れたような真心のこもったおもてなしに感激です!

筆者には特定の宗教への信仰心はありませんが、たった2時間ほどの滞在でも、信仰を持つ人々の相手を深く思いやる気持ちや慈しみあふれる精神、精神的な強さを感じることができ、心にしみ入る体験となりました。今回の長崎の旅でもっとも忘れられない思い出です。こんな思いがけない出会いがあるのも旅の醍醐味ですね。

また、この旧出津救助院では、毎月第3木曜日に「食の体験プログラム」の一環として料理教室も開催されています(要予約)。

日替わりランチ800円

ド・ロさま素麺 (小) 300円 (大) 500円

ド・ロさまスパゲティ800円

ヴォスロールカレー800円  

tabedokoro(食べ処)ヴォスロール

営業時間:11:00~16:30(要予約、応相談)

定休日:月曜日(祝日の場合は翌日)

アクセス:長崎バス「出津文化村」下車、徒歩約5分

帰り道にランチでもいただいた野菜や小麦を栽培する「ド・ロ様畑」を見ることができました。

この道はド・ロ神父が毎日通っていた道だそうです。

道端にいるマリア様の像は、お地蔵さんのような存在なのでしょうか。

井戸の脇にもマリア様の像が祀られています。

十字架が掲げられた民家もあります。

外海出津集落をほんの少し垣間見ただけで、歴史や信仰、世の不条理を考えさせられました。世の中はそう単純ではなく、人の力ではどうしようもないこともあるけれど、潜伏キリシタンとして希望と尊厳とを失わずに生きた人々が存在したのです。そんな歴史に触れ、考えを巡らせるきっかけを与えてくれました。

[All photos by Yo Rosinberg]

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