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「フレンチ・ディスパッチ」誌の愛しき編集者たちへ。

  • 2022.2.1

1月28日に公開された『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』。『グランド・ブタペスト・ホテル』を超える、ウェス・アンダーソン監督作史上最高の日本オープニング成績で初日を迎えることができたそう!本作は雑誌記者への愛も詰まった作品ゆえ、フィガロジャポンを編集している私も熱い感慨に浸った。

フレンチ・ディスパッチ編集部の風景。中央が編集長のアーサー・ハウイッツアー・Jr(ビル・マーレイ)、自転車を直しているのはエルブサン・サゼラック(オーウェン・ウィルソン)。映画の序章で編集部がある街案内をする。

「『ニューヨーカー』誌と、出版界で著名な記者たちにインスパイアされた映画」──ウェス・アンダーソン監督が本作について語った言葉である。フランスのある街に社屋を持つ「フレンチ・ディスパッチ」編集部が、廃刊を目前に出す最終号の記事の背景をオムニバス形式の映画に!雑誌文化と映画を愛する人にとってたまらない物語だ。雑誌にはもちろん、その媒体だけの色合いがあるが、「ニューヨーカー」は記者や編集者の個性の競演そのものが媒体特徴。左に紹介した名優たち演ずる記者役、そのインスピ源となった文筆家たちの醸すアクの強さがアンダーソン監督の架空世界と絡み合い、それはそれはユニークな物語へと進化していく。

1冊のページネーションを相談するボード。編集部あるある、です!フィガロジャポン編集部の場合は、巻頭特集をページと同じ実寸サイズのレイアウトを出力して、床の広いスペースに置き、順番などを細かく検討してます。

アートディレクターは雑誌にとってとても大切な存在。フレンチ・ディスパッチ誌は表紙が常にイラストというところで媒体のカラーを打ち出しているんですね。

雑誌という「紙のカルチャー」は、デジタルやSNSで情報を得る現代において消えゆくメディアとも呼ばれている。しかし、利便性を追求して情報を流すだけではなく、プロダクトとして愛される雑誌、心に響き残る記事を創ろうと日々奮闘する編集者たちにオマージュを捧げた本作は、実際に現場で働く「紙に関わる人々」に大きなエネルギーをくれるだろう。アンダーソン組は撮影時、スタッフ&キャスト全員が合宿のようなカタチで共同生活をするのが常で、その時間をとても楽しみ、学びがあったとティモシー・シャラメもインタビューで答えている。みんなで一緒に作る悦び……。映画製作と雑誌編集には、どこか共通点があると思う。

ティモシー・シャラメは自身のインスタでもこの撮影の風景をアップしている。インスタの写真では、Vサインまでしてます。ティミーのインスタのプロフィール画像が単にブルーなのが素敵(2022年1月末現在)……『君僕』の影響ですかね?

ウェス・アンダーソン独特のレトロ&クラシックなおしゃれ感に加えて、映画の教科書と言いたくなるほど、さまざまな名作&異色作からの引用が本作にはあって、シネフィルならフムフムとうなずき、過去の劇場体験を思い出しながら観ること然りだ。特にフランス映画への想いを込めた、と監督は言う。アールドゥヴィーヴルに憧れ、「フランスらしきスタイル」を愛する人へ、「フレンチ・ディスパッチ」がくれる感慨は、きっと沁みるに違いない。

エルブサン・サゼラックby オーウェン・ウィルソン

「 ニューヨーク・タイムズ」の写真家で自転車取材で有名なビル・カニンガム、「ニューヨーカー」の名文家ジョゼフ・ミッチェルに通じる記者役。オーウェンは監督と学生時代からの友人。

J.K.L・ベレンセンby ティルダ・スウィントン

「 ニューヨーカー」にも寄稿する美術評論家ロザモンド・ベルニエがインスピ源。劇中に出てくるフレスコ画は、ティルダの私生活のパートナーである芸術家、サンドロ・コップが描いた。

ルシンダ・クレメンツby フランシス・マクドーマンド

監督がモンパルナスに暮らしていた頃、ご近所だったカナダ人作家メイヴィス・ギャラントや、パリに詳しい「ニューヨーカー」のほかの記者の要素も。クールながら情念感じる役どころ。

ローバック・ライトby ジェフリー・ライト

米国人作家ジェイムズ・ボールドウィンとテネシー・ウィリアムズ、グルメ非常に強かった「ニューヨーカー」記者A・J・リーブリングを掛け合わせた人物像。ハードボイルドなタフガイ役。

アーサー・ハウイッツアー・Jrby ビル・マーレイ

創刊者で編集長、この人の心臓麻痺による急死から物語は始まる。「ニューヨーカー」創業者ハロルド・ロスと後継者のウィリアム・ショーンをモチーフにした役どころ。ただし、ビル・マーレイは「変わらずビル・マーレイらしく」演じている……ように見える。

彼こそ、真のフレンチ・ディスパッチ誌編集長(!)兼本作の監督であるウェス・アンダーソン。

『フレンチ・ディスパッチザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』●監督・脚本/ウェス・アンダーソン●2021年、アメリカ映画●108分●配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン●1月28日より、TOHOシネマズシャンテ、TOHOシネマズ新宿、ホワイトシネクイント/シネクイントほか、全国にて公開中©2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

*「フィガロジャポン」2022年3月号より抜粋したものに、加筆

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