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女子を襲うていねいな暮らしマジック。

  • 2015.8.22
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女子を襲うていねいな暮らしマジック。

仕事に美容に恋愛に、女の人生ってけっこー大変! 私はこのままでいいのかな? 幸せになれるかな? そんなモヤっとした悩みを浄化し、毎日がもっと楽しくなる痛快エッセイを、毎週土曜日お届けします。

朝から晩まで仕事にかかりっきりでいると、肌はパサパサ、心はカサッカサ。うるおい不足とともに妙齢女子が次々とハマるウワサの「マジック」とは?


【恋愛はしたいけれど1mmも傷つかずに生きたい】vol.5

ある日突然ものすごい渇望感とともに“ていねいな暮らし願望”が女を襲う。それは「ヤタロウマジック」と私の中では呼んでおり、名前の由来はもちろん、「暮しの手帖」元編集長で憧れる人物の一人、松浦弥太郎さんから勝手に名付けたもの。仕事でくたくたなのに、無性にお菓子が作りたくなったり、そして深夜2時なのにマフィンを焼いてみたり、さらりマフィンに合うジャムを、三温糖でこっくり煮込みたくなったり、片付けていたら、洗剤ではなく重層で掃除がしたくなったりと、どこまでもていねいさと質の高い生き方を求め始めたら重症だ。

ちなみに私の毎日は、例に漏れず乾いている。部屋こそ綺麗にしているけれど、台所のキレイさは久しく料理をしていない証しであり、近所のガストの店員さんとは、もはや「お疲れさまです」と声を掛け合う仲だ。便利で効率的で快適な生活だけど、女として生きる日々がこれではと、疑問を感じて弱気になるときもある。

キッカケはオネエの味噌作り

そんな乾いた女に魔法をかけたのは、自家製味噌。夕食中にテレビをつけると、画面の中ではオネエタレントが、自家製味噌がいかに簡単で、美容と健康に良いかを力説し、芸人とともに楽しそうに大豆をこねていた。

「使うものは大豆と麹とお塩! たったコレだけなのよ〜」

「え!? これだけなんすか?」

「そうよ☆ だからワタシ、素材は全部取り寄せてこだわってるの! 有機の大豆に麹も塩もぉ…」

軽快に進むトークを聞きながら、まさに今、口に運ばんとするコンビニ弁当に恥ずかしさを覚える。

「手間だって思うでしょ? でもね、やっぱり手作りの方が美味しいし、このひと手間が美と健康の秘訣なのよ〜」

ツヤツヤ肌のオネエが満面の笑みでさらに力説する。

「ひと手間…かぁ…」

1万円+作業時間に夢破れる

食べかけの弁当を放り投げ、私はiPhone片手に「クックパッド」でレシピを検索する。ちなみに、大好きな松浦弥太郎さんは現在「クックパッド」にいらっしゃるそうだ。なんたる因果! 味噌なんて小学生の家庭科で作って以来、自家製にしようと思ったこともなかったが、材料は大豆と麹と塩で、これらを発酵させると出来上がる。自家製味噌で作るみそ汁を、レースカーテンから朝日が差し込むダイニングでいただく。目の前には優しく微笑むステキな男性がいた日には、嗚呼、ていねいな暮らしサイコー!! 妄想しながら夜中に一人でうっとり微笑む。

明日はオーガニックショップ「ナチュラルハウス」で材料を買おう。そう心に決めながら、iPhoneで「楽天」を開き、適切な味噌を作る“かめ”を探す。番組で使用していた物と似た容器を見つけ、手が止まる。

「そ、送料入れると6000円?! 結構高い」

かめが6000円に材料も入れると約1万円。1万円で魔法が現実のものとなり、ステキな自家製味噌ライフが手に入るのは、安いか高いか…

「ダンゼン安いでしょ!」

思い立ったら止まらない性格が、購入のボタンを押し――

「っと待った。サイズ大丈夫かな?」

危うく発酵場所の確保をせずに、かめを購入するところだった。メジャー片手に、今度はキッチンにダッシュ! 久しく開けていないシンクの下の扉を開け、中を確認する。大して料理もしないのに、乾麺や調味料が思いのほか揃っている。そうだ、ここは元主婦の家だった! そんなギャグを一人かましながら、かめを置くスペースを計っていると、その手がぴたりと止まる。

「こ、これは…」

2年前の遺産とまさかの再会

棚の奥にあったもの。それはなんと、2年前に手作りした梅酒の瓶だった。重々しいオーラを放つ4Lのソイツは、あろうことかほぼ未開封の状態。懐かしさのあまり思わず梅酒の瓶をなでる。たしかこのときも、スーパーに並ぶ梅を見ながら突然思い立ったのだ。そして作ったはいいけど、結局飲むためには棚の奥から瓶を出し、コップに氷を入れ、梅酒を注ぐ。この一連の動作がおっくうで、気楽に早く酔いたい我が家の晩酌では、どうしても今日飲むお酒としては選ばれず、気付けば2年も経っていた。

思わぬ遺産に出会い、すっかり味噌熱を冷やした私。さすがに食さない味噌と梅酒が並ぶのは恥ずかしいので、梅酒を飲みきったらいつか味噌を作ろうと決め、力なく棚の扉をしめた。

すぐ消えるからこその魔法?

周りを見渡せば、魔法にかかっているであろう女子は増えていて、Eちゃんは深夜にパイを2個も焼いていたし、Iさんは今日も深夜残業と言いながら素材にこだわった料理を熱心に披露していた。でも手作りお菓子もFacebookにアップして、一瞬周りから賞賛されて心も落ち着き、やっぱり市販のケーキのほうが美味しいよねって目も覚めるのか、生活そのものをていねいな方向に変えている女子は見当たらない。気付かぬうちに心の端っこにパサパサした毒が積もり、ある日突然ドカンと爆発しているだけなのだ。

味噌熱がすっかり引くと同時に、私は仕事に仕事が重なり寝食もままならない日々が続いた。なんとか乗り切りそれなりの充実感は得たものの、片付けをしていたら玄関のアレカヤシがパサっと枯れていた。

おおしま りえ/雑食系恋愛ジャーナリスト・イラストレーター

10代より水商売やプロ雀士などに身を投じ、のべ1万人の男性を接客。20代で結婚と離婚を経験後、アップダウンの激しい人生経験を生かし、現在恋愛コラムを年間100本以上執筆中。そろそろ幸せな結婚がしたいと願うアラサーのリターン独女。

HP:http://oshimarie.com

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