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まだ始まってもいないのに…デジタル庁の「教育データ利活用」が大炎上してしまったワケ

  • 2022.1.28
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1月7日、デジタル庁、文部科学省、経済産業省、総務省は、教育データ利活用ロードマップを公表。メディアで報じられるや、SNSで炎上し、現在も続いている。日本大学教授の末冨芳さんは「デジタル庁の情報発信戦略のミスという側面が大きい」という――。

衆院予算委員会で答弁する牧島かれんデジタル相=2022年1月25日、国会内
衆院予算委員会で答弁する牧島かれんデジタル相=2022年1月25日、国会内
教育データ利活用ロードマップが炎上

年明け1月7日にデジタル庁が文部科学省・経済産業省・総務省と策定した教育データ利活用ロードマップを公表した。これをうけNHKが「政府 学習履歴など個人の教育データ デジタル化して一元化へ」(NHKニュース・2022年1月7日 15時51分)という報道をはじめ、「政府による学習履歴の一元管理」というロードマップの実際の内容とは真逆のイメージが拡散されSNS等で多くの反発を招き、いまだ炎上中である。

「一元化」ではなくデータの利活用を技術的に促す「標準化」

端的にいえばNHK報道の見出しは誤報に近い。

読者をあえて不安にさせ、炎上させようとする「煽り」の意図すら感じさせる。

NHKが“一元化”と説明したのはデータの「標準化」のことである。

ここでいう「標準化」とは異なる学校・自治体間でもデータの記載方法や必要な場合にデータ連携ができるように「データの入力方式や作成方式を規格化・共通化していくこと」を意味する。

たとえば、都道府県や市区町村には総務省により都道府県コード・自治体コードをJIS規格化(国家規格化)するという標準化が行われており、東京都は13001、千代田区は13101など、半角数字で表現するルールが整備されている。この入力方式さえ知っておけば、たとえば自治体の収集した調査データを研究者が分析する時などの利活用がしやすくなる。

このほか学校名を○○高等学校と入力し、高校と省略しない、齋藤・齊藤などのような表記を斎藤などの標準的な方式で入力するなどのルールを統一化することにより、現在はその入力方式の違いのために各自治体や事業者・研究者等の事務煩雑化を引き起こしやすい方式を共通化し、データ照合・連携などにつなげやすいルール整備が「標準化」である。

ほかにも現在文科省が作成中の学習指導要領コードで「標準化」して同じフォーマットで教員タブレット等で記録しておくと、転校の際に各学校で児童生徒が学んだ学習内容について、保護者の同意を得て相手先自治体に情報共有することが可能になり、教員や保護者の書類作成の時短や郵送代節約にもなり、履修内容が転校先の教員に共有され、学び残しがなくなりやすくなる、というようなメリットがある。

デジタル庁は「一元的な管理」を明確に否定

とはいえ、こうした利便性のある活用でも、結果として自治体を越えて利用できる子供の各種データが学習履歴を含め蓄積されていく可能性があることには、変わりはない。

そのこと自体に警戒感を持つ国民も多いからこそ、教育データ利活用ロードマップはSNS等で炎上しているのである。

それゆえに、教育データ利活用ロードマップに関するQ&Aにおいて、デジタル庁は「政府が学習履歴を含めた個人の教育データを一元的に管理することは全く考えておりません」と、データの一元的管理を明確に否定している。

牧島かれんデジタル大臣、山田太郎デジタル政務官も、まず個人情報保護が最優先で、政府による個人の教育データの一元管理をしないとそれぞれに公式のメッセージを発している(※1)。

私自身もデジタル庁の作成したQ&Aを基にSNSで発信をしている。

要するに、政府が子供の学習履歴を一元管理もしないし、民間事業者が子供の個人情報に手続きや同意なくアクセスすることもあり得ない。また(教育学的にはとても興味深いことに)児童生徒や学習者の、望まない内面の可視化や個人の選別をしない方針も明言されている。

勉強する少女の手元
※写真はイメージです

にもかかわらず、教育データ利活用ロードマップに対し、不信や警戒感をあらわにする人は多い。

本稿のねらいは、デジタル庁・文科省等関係省庁を擁護することではなく、教育データ利活用ロードマップ炎上事件は、政府DXの末端にいる私(※2)から見れば、デジタル庁の情報発信戦略のミスという側面が大きいことを指摘する。

政府内で個人情報保護のルール整備や、国が一元管理をしないという重要ルールなどを設定しつつあるのだが、残念なことに国民との大きなコミュニケーションギャップが起きてしまっているのだ。

初期段階でこのように国民の不信を招いてしまったために、今後、とくにデータの所有権は本人の意思のもとで利活用されることや、個人情報保護に関するわかりやすい発信や継続的な対話のプラットフォームを継続することによって、国民の信頼を得ていく必要がある。

※1 牧島かれん大臣(デジタル庁会見記録)、山田太郎デジタル政務官(youtube)
※2 筆者は、内閣府・貧困状態の⼦供の⽀援のための教育・福祉等データ連携・活用に向けた研究会の有識者委員として、子供の貧困対策に自治体データを利活用する仕組みの整備について検討している。デジタル庁の大臣・政務官発信と同様に、個人情報保護や子供に関するデータベース・データ連携において先進自治体の事例をもとにアクセス権限を厳格に制限をする、支援の司令塔となるスクールソーシャルワーカーの常勤配置などの前提で、孤立している子供・家族をいかに支援につなげるかの検討を慎重に行っている(「内閣府研究会における検討状況」)。

公表即炎上、教育データ利活用ロードマップとは、そもそもなにか

そもそも教育データ利活用ロードマップの理解自体が難しいものである。

官僚ですら「読んだが、よくわからない」という感想を持つ者も少なくない。

本稿のメインテーマは教育データ利活用ロードマップの炎上の要因を検証していくことにあるが、最初にこのロードマップ自体が3つの意味で「難しい」文書だということを説明しておく必要がある。

(1)教育データ利活用ロードマップ自体の内容が、難しい
(2)教育データ利活用ロードマップの目的、誰に何のために書かれたものかも、難しい
(3)教育データ利活用ロードマップが発表されるまでの経緯=ここまでのあらすじ、をわかってないと理解が難しい(わかっていても難しい)

(1)教育データ利活用ロードマップ自体の内容が難しい

教育データ利活用ロードマップのp.1に最初に示されるのが、図表1である。

【図表1】ロードマップのポイント①(総論)
※「教育データ利活用ロードマップ」より

これを見て「わかる」と思う読者より「難しそう」と思う読者の方が多いのではないだろうか。

官僚アート(ポンチ絵)の極北ともいえる精緻な図に、PDS(Personal Data Store)、アーキテクチャ、EdTech、公教育データプラットフォームなど、日本の大人の多くが見慣れない用語(私もPDSは初めて見た)がちりばめられている53ページにもわたるスライドのすべてを理解できる大人は、ICT業界はともかくそれ以外の業界には多くはないと思われる。

これを「読んで、わかる」と言えるためには、デジタル政策、個人情報保護政策と教育政策にわたる知識と最先端の動向理解が必要な“ハイコンテクスト”な文書なのである。

動き出す前の基本設計にすぎない

解説編は、体力があれば第2弾記事として発信するかもしれないが、私は一介の教育政策・こども政策の研究者にすぎないので、デジタル庁やICT界隈からわかりやすい解説資料・解説動画などが、“ガチ勢”以外の人々に向けて発信されることを願っている。

詳細は後述するが、教育データ利活用ロードマップ自体は、まだ具体的な施策として動き出しているものではなく、動き出す前に、教育データの全体像をマッピングし、雑多な教育データにルールを作っていく基本設計を示すことにその意義が見いだせる。

(2)誰に対して何のために書かれたものか、わかりにくい

教育データ利活用ロードマップは、簡単にいえばプロ向けのものである。

つまり、政府DXに関わる官民双方の関係者にとっては有用性が高いものである。

私自身も、子供のデータ連携は教育データとの関連性で、どのようなデータが収集可能であり、だからこそ個人情報保護やアクセス権の厳格管理について、どのレベルでどのようなルールを作っていくべきであるか、ロードマップのp.19を見ながらより詳細にイメージすることができた。

【図表2】教育データの全体像(アーキテクチャを踏まえた全体イメージ)
※「教育データ利活用ロードマップ」より
この炎上は、簡単にはおさまらない

いっぽうで、政府DXやデジタル政策に詳しくない国民・住民、とくに大学入試で主体性の評価などに活用する目的で運営されていた高大接続ポータルサイト「JAPAN e-Portfolio」運営中止の混乱を経験した教員、保護者や若者にとっては、このような図によって「政府が子供のデータを一元管理しようとしている」ことを警戒する心情はよくわかる。

くりかえしておくが、教育データ利活用ロードマップでは、「政府が学習履歴を含めた個人の教育データを一元的に管理することは全く考えておりません」と、データの一元的管理を明確に否定している。

しかし、先述の「JAPAN e-Portfolio」利用にあたっては、教育情報管理機構のもとでシステムの運営を担った民間企業が発行するIDの取得が必要だったため、企業への利益誘導につながる懸念を示す学校関係者は多かった。文科省も機構に是正を要請した。また教育現場では、システム導入に便乗したかたちで別の自社商品の営業活動が強化された。当時の記憶が新しい彼ら学校関係者にとっては、民間事業者による児童生徒の学習履歴データ(児童生徒の学習アプリ等へのアクセス履歴)も同じ図に入っており、民間事業者も学校で収集している子供のデータにイージーアクセスできるかのような(実際にはそのようなことは個人情報保護法により不可能だが)イメージを持ってしまうのである。

教育データ利活用ロードマップの炎上が簡単にはおさまらない原因が、ここにある。

“ハイコンテクスト”なプロ向けの政策文書が、一般の国民や、たとえば児童生徒や保護者にオンラインでいきなり読まれる現代社会においては、その”いきなり感”の引き起こす不安は、よほど注意深い情報発信戦略を立てて発信していかなければ、簡単には解消できない。

その意味では教育データ利活用ロードマップは、デジタル政策の文書としては重要だが、情報発信戦略としては失敗している。

すでに一般向けのQ&Aをデジタル庁は迅速に公表しているが、広報部門の充実と、プロではないジェネラルユーザーに伝わる広報戦略をデジタル庁はじめ関係省庁には期待したい。

デジタル庁幹部の発信にのみ依存するようなことがあってはならない。

※編集部註:初出時、記事内でベネッセコーポレーションについて触れた箇所は、事実関係の確認が不十分でした。当該箇所を削除します。関係者のみなさまにお詫び申し上げます(2022年2月4日10:00追記)

(3)ここまでの経緯がわかってないと理解が難しい

ここまでの状況を踏まえれば、教育データ利活用ロードマップについて、不安を抱く国民や関係者に対し、わかりやすい発信や、「個人情報保護をこのように守ります」という具体策の発信は必須である。

ただし教育データ利活用ロードマップについては、わが国のデジタル政策や個人情報保護政策も踏まえた「ここまでのあらすじ」も理解していないと、そもそも理解が難しいという性質がある。

簡単にいうと、このロードマップを取り巻く状況は以下のように概括できる。

◆先進国の中で遅れてきた、政府や社会全体のデジタル化(デジタル改革)を進めることが至上命題であると日本政府は認識している。

◆そのため政府全体で2020年秋からデジタル庁の創設を柱としたデジタル改革を進めており、教育データ利活用ロードマップは「医療・教育・防災・こども等の準公共分野のデジタル化」を進めるための方策の1つとして作成されている。

◆教育データ利活用も含め個人情報保護の強化措置が進みつつある(法改正と個人情報保護委員会の体制強化)。

◆とくに教育データ利活用についてはGIGAスクール政策による小中学生1人1台タブレットの配備が直近の促進要因となっている。児童生徒に関するデータ収集が事実上可能な環境となっており、個人情報保護のルール整備が急がれるとともに、匿名加工情報をEBPM(証拠に基づく政策)に活用するためのルールやシステムの整備も急がれる状況にある。

◆ロードマップの策定に際しては、内閣官房IT室(当時)によるGIGAスクール構想に関する大規模アンケート(※3)、デジタル庁での国民への意見募集(※4)、有識者との意見交換など、丁寧な手続きが行われている。どんどん情報をつなぐべき、という意見はほとんどなく、安全・安心に関する発信が不足している、MicrosoftやGoogleはじめ世界中でビジネス展開してきた企業はもちろん、個人データに関するルール整備や合意形成などの必要性を真摯に訴える企業・専門家・関連団体が多い。

◆ロードマップの実際の取り組みは、初期段階にあり、まだ開始されていないものも多い。

◆ロードマップに示されたさまざまなデータをつなげるのは個人の選択であり、無理にデータを使わなくても良い(ただし法に定められたものを除く)。

※3 内閣官房IT室(当時)による大規模アンケートは、児童生徒21万7077件、教育関係者4万2333件の回答を収集している。
※4 国民からの意見募集結果・有識者との意見交換について

まだ、始まってすらいなかった

つまり、ロードマップに示された個人を取り巻く多くのデータをつなげたり活用する実際の道(ロード)は、はじまってすらいなかった、という状況なのである。

ロードマップの名の通り、これは「今後の教育データの利活用に向けた施策の全体像とその青写真を関係省庁で描いたもの」(教育データ利活用ロードマップp.53)であり、どうやらわれわれは道の入り口にいるにすぎない。

人類はデジタル革命の初期のしかし急激な変化の途上にあり、交通革命で言うならば鉄道から1人1台への乗用車所有のような変化が急速に起きている中で、急いでルール整備をしなければならない、という状況にあると言っても良いのだ。

だからこそ、教育データの全体像を把握して、利活用に際して必要なルール・ポリシー(道の歩き方)を含め、政府が政策を推進する予定だが「状況の変化を踏まえ柔軟に見直しを行う」(p.2)、という記載もされているのである。

末冨 芳(すえとみ・かおり)
日本大学文理学部教授
1974年、山口県生まれ。京都大学教育学部卒業。同大学院教育学博士課程単位取得退学。博士(学術・神戸大学大学院)。内閣府子供の貧困対策に関する有識者会議構成員、文部科学省中央教育審議会委員等を歴任。専門は教育行政学、教育財政学。主著に『子育て罰 「親子に冷たい日本」を変えるには』(光文社新書・桜井啓太氏との共著)、『教育費の政治経済学』(勁草書房)など。

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