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日本を拠点に世界の舞台へゲスト出演!帰国第一回目の全幕公演『白鳥の湖』に主演する中村祥子にインタビュー

  • 2015.8.20
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中村祥子が遂に日本に帰ってくる。今後の拠点となるのはこれまでもゲストプリンシパルとして参加していたKバレエ カンパニー。しかし、近年、ヨーロッパ各地のバレエカンパニーからゲスト主演のオファーが絶えない祥子は、Kバレエ カンパニーを拠点としつつも、積極的に海外のバレエ団で客演していくそうだ。

これまで"日本のバレエ団に海外からスターを呼ぶ"ことはあったけれど、今後は"海外のバレエ団へ日本のトップダンサーが呼ばれて踊る"という新たな時代が始まるのだ。

©Shunki Ogawa

■ ロシアのバレリーナたちの中で、コンプレックスと奮闘しながら取り組んだ『白鳥の湖』

中村祥子に限らず『白鳥の湖』はすべてのバレリーナにとって"特別な作品"であるらしい。

「私にとってこの作品は、終わりなき課題のようなものです。踊るたびに毎回、その時その時で感じ取れることが違いますし、必ず新たな発見があります。だからこそ難しいし、だからこそチャレンジし甲斐がある、とも言えますね」

実は前シーズンの最後を飾ったのも『白鳥の湖』の舞台だった。しかもチャイコフスキーゆかりの地、サンクトペテルブルグのミハイロフスキー劇場へのゲスト主演である。

「はじめてのサンクトペテルブルグ、はじめてのミハイロフスキー劇場の舞台でした。ロシアの舞台は斜めの傾斜がきつい、とは聞いていたのですが、まずスタジオ(稽古場)からしてものすごくて驚きました。なのに舞台はさらに輪をかけて斜め......。ロシアのダンサーたちは足の甲が良くしなっていて、脚そのものが強いのは日ごろからこうした舞台で鍛えられているからだろうかなどとも思いましたが、それにしても皆が素晴らしいスタイルを持っていることに衝撃を受け、今更ながら落ち込みました(笑)」

ロシアのバレエ団に入団するためには多くの人がバレエ学校で勉強する。その学校に入学するだけでも大変で、中でも骨格や親の体型や体質なども審査の基準に入るという徹底ぶり。でもバレエ学校で勉強したからといって全員がプロになれるわけではなく、学校を中退させられる子や、卒業してもバレエ団に入れない子もいる。つまり選び抜かれた人たちの集団、と言えるわけだ。

©Shunki Ogawa

■ アジアのダンサーが、本場の観客たちに受け入れてもらえるのか......

「バレリーナとして必要なものを備えているダンサーの中に入り、私、ここにきて踊っても良かったのだろうか、とつい後ろ向きなことを考えてしまいました。加えて今まで体験したことのないくらいの傾斜の上で踊るわけですから、どうしても重心がのめりこむように前方に吸い寄せられ、今までの感覚で踊るのが厳しかった。本番までの10日間はいろいろなことと闘っていた感じですね」

しかし、そこで頑なになってしまわないのが中村祥子らしい、タフなところ。

「そんな中で救われたのがバレエミストレスのイエフレモアさんの指導でした。プリエ(踏み込み)のタイミングや腕の使い方など細かにアドバイスしてくださり、白鳥と言うキャラクターのとらえ方に対しても今まで考えもしなかった新しいアイデアをくださいました」

常に美しいロシアのバレリーナたちの『白鳥の湖』を見ているサンクトペテルブルグの観客に、アジア人の自分の白鳥が果たして受け入れられるのかどうか......。リハーサル開始直後はそんな心配ばかりしていたのが、本番直前にはなんとか斜めの床の感覚がつかめてきて、今まで積み重ねてきたものを見て評価してもらうしかない、という気持ちに切り替わったという。

「本番は、斜めの舞台にしっかり立つことができ、満席の客席からは大きなカーテンコールの拍手をいただくことができました。その熱気から、大変喜んでいただけたのが伝わってきましたが、さらに嬉しかったのはパートナーを務めてくれたレオニード・サラファーノフもミストレスのイエフレモアさんも良い舞台だったと喜んでくださったこと!!」

この日は久々に、自分で自分を褒めてあげたのだそう。

©Bettina Stöß

■ チャイコフスキーの恋人(?)も、妻になり、母になり

祥子は、16歳で出場したローザンヌ国際バレエコンクールでスカラーシップ賞とテレビ視聴者章をダブル受賞し、シュツットガルトのジョン・クランコ・バレエ学校へ留学。ここで身体改造のごとき厳しい特訓を受けるもくじけることなく頑張りぬき、卒業後はウィーン国立歌劇場バレエ団、ベルリン国立バレエ団、そしてハンガリー国立バレエ団でプリンシパルとして踊ってきた。ちなみにジョン・クランコ・バレエ学校の同級生で国際的なプロとして踊り続けているのはシュツットガルト・バレエ団のアリシア・アマトリアンと中村祥子のふたりだけだという。

「クラス中に泣き出してしまう子もいるくらい、厳しい指導でした」

でも、バレリーナというのは選ばれた人でありながらも幾多の困難と向き合い、乗り越えて行ける精神力を持った人でないと長く活躍することは難しい職業なのだ。

「先生も、そのことを一番伝えたかったのではないかと思っています。あのときの厳しい指導がなかったら私は怠け者になっていて、今のように舞台に立っていられなかったかもしれません。本当に感謝しています」

それから18年、ヨーロッパで踊り続けてきた日々にいったんピリオドを打ち、日本へ拠点を移すに至った理由とは?

「一番長くいたベルリンでは、友人たちが"SHOKOの恋人はチャイコフスキーなのね"とからかったほどのバレエ漬けの日々でした。そんな中でプリンシパルとして一緒に踊っていたヴィスラフが私の人生にバレエだけではない別の世界の扉も開いてくれました」

バレエの頼もしいパートナーでもあったヴィスラフ・デュディックが、公私にわたるパートナーとなり、4年前には出産。両親の遺伝子を受け継ぎ、早くも抜群の運動神経を炸裂させて駆け回る(年齢の割には)長身のイケメン、ジョエル君のママとして、育児に家事にバレエに、フル回転の毎日を送っている。ベルリン国立バレエ団の芸術監督の交代を機にプリンシパルダンサーとして1年前にハンガリー国立バレエ団に移籍してからは、夫はドイツとブタペストを行き来する日々。週末と休暇だけが家族の時間だった。

「私の人生にとって、一番大切なのはバレエです。しかし、今の私にはバレエと同じくらい家族も大切です。どこの国にいても家族一緒に、助け合い笑い合いながら生活していきたい、そう考えるようになりました。ダンサーにとって挑戦、経験は終わりなきものです。日本、Kバレエへ拠点を移そうと思ったのも、長いヨーロッパ生活から飛び出して、また新たに日本という場所で経験を積みたいと思ったからです。夫と息子にとってはヨーロッパとは全く違った環境での新生活となりますから、試練もあるだろうけれど、彼らにも得るものが必ずあると信じて、支え合っていこうと思っています。そして、ヨーロッパで吸収した多くのことを、日本に持ち帰り次世代にも伝えたいですし、日本の方にもっといろんな舞台を楽しんでいただきたいですね」

ダンサーとして、女性として。これからもどんどん豊かになって行くのであろう中村祥子であるが、今がひとつの節目であることには違いない。そんな彼女の、感性豊かな『白鳥の湖』に、優雅な気分で溺れて(!?)みたい。

Bunkamura オーチャードホール

Kバレエ カンパニー『白鳥の湖』

日程:2015年10月31日19:00~、11月1日14:00~(中村祥子×遅沢佑介主演)、3日14:00~(白石あゆ美×宮尾俊太郎主演)

東京文化会館大ホール
日程:2015年11月5日14:00~、8日14:00~(中村祥子×遅沢佑介主演)、7日14:00~(浅川紫織(オデット)/小林美奈(オディール)×栗山廉)
料金:S席¥14,000、A席¥10,000、B席¥8,000、C席¥6,000
●問い合わせ
チケットスペース
Tel.03-3234-9999
http://www.ints.co.jp/
http://k-ballet.co.jp/

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