1. トップ
  2. おでかけ
  3. 東京湾に広がる神社仏閣から学ぶ 知られざる「海の恵み」と「交易ルート」

東京湾に広がる神社仏閣から学ぶ 知られざる「海の恵み」と「交易ルート」

  • 2022.1.21
  • 525 views

東京湾に広がる神社仏閣は、さまざまな由来を持っています。その魅力について、フリーライターの猫柳蓮さんが解説します。

東京に分布する日本武尊を祭る神社

東京人にとって最も親しみのある海、それは東京湾です。古くから漁場や交易ルートとして栄えてきた東京湾の湾岸には、多くの信仰も生まれました。

太平洋に開けた東京湾(画像:(C)Google)

なかでも神奈川県横須賀市の走水神社は古い由来を持っており、『古事記』『日本書紀』に記される日本武尊(やまとたけるのみこと)の東征の話に関係しています。

これらの書物では、日本武尊の妻・弟橘媛(おとたちばなひめ)が海の神の怒りを静めるために入水(じゅすい)した海を「走水」と記しています。そのため、走水神社が日本武尊と最も関係が濃いといえます。

しかし、日本武尊を祭る神社は東京や千葉にも数多く分布しています。

東海道はかつて、相模(現在の神奈川県の大部分)と上総(現在の千葉県中部)を海で渡るルートがメインだったとされているため、日本武尊を祭る神社もこのルートから分岐する交易ルートに沿って広がっていったと考えられます。

日本武尊を祭る神社とともに、東京湾岸に広く分布するのが源頼朝を祭る白旗神社です。

石橋山の戦いで平家方に敗れた源頼朝は1180(治承4)年8月、再起を図って真名鶴崎から安房(現在の千葉県南部)へと渡ります。ここで新たに集まった武士とともに鎌倉入りを果たすわけですが、その途上で頼朝は多くの神社仏閣に武運長久(ぶうんちょうきゅう。戦いでの幸運が長く続くこと)を祈願しました。これに由来するのが白旗神社です。

白旗神社の多くは、頼朝が鎌倉入りする途上に通過した伝承を持ちますが、神社は千葉県や神奈川県の各地に点在しており、そのすべてに立ち寄ったのかは疑問です。おそらくは鎌倉幕府を開いた頼朝にあやかって祭神として招いた後、伝承は生まれたのでしょう。

さてこの白旗神社ですが、都内ではなぜか見かけません。当時の東京は現在よりも内陸まで海が広がっていたため、スルーされてしまったのでしょうか。それにしては中央区日本橋に、頼朝の先祖にあたる源義家が奥州下向の際に立ち寄ったという伝承のある白幡稲荷神社がありますし、謎は深まります。

港区芝にある御穂鹿嶋神社

さて、東京湾が古くから豊かな海だったことは、神社の祭礼からも感じられます。

例えば、御穂鹿嶋神社(みほかしまじんじゃ、港区芝)の社殿はもともと海に向かって建っており、その始まりは寛永年間(1624~1644年)に、鹿島大神宮(福島県郡山市)から小さい祠(ほこら)が流れ着いたのを祭ったこととされています。まさに海との関連性の高い神社といえるます。

港区芝にある御穂鹿嶋神社(画像:(C)Google)

江戸時代、神社の近くには雑魚場魚市場という網干場があり、落語『芝浜』の舞台にもなっています。ちなみに、以前は鹿嶋神社という名称でしたが、2005(平成17)年に同じ町内の御穂神社を合祀(ごうし)し、社殿を新築しています。

品川区北品川にある荏原神社

より海との関わりを感じるのは、荏原神社(品川区北品川)です。毎年6月上旬に行われる例大祭は「カッパ祭り」と呼ばれ、海から拾い上げられたとされる素戔嗚尊(すさのおのみこと)の神面を神輿につけて、海上を渡る海中渡御(かいちゅうとぎょ)が行われます。

品川区北品川にある荏原神社(画像:(C)Google)

神面が拾い上げられたのは天王洲ということで祭りも天王洲で行われていましたが、埋め立てで海が遠くなったため、現在では船で神輿を運び、お台場海浜公園(港区台場)周辺で実施されています。

都内の湾岸にある神社の多くは、たいてい海との関係があります。富岡八幡宮(江東区富岡)のお祭りは「水かけ祭り」と呼ばれ、沿道から大量の水がかかることで知られていますが、このような風習が海との関係の名残なのです。有名どころでは住吉神社(中央区佃)でも水をかけます。

東京は住人の移動が激しいため、地域交流が活発ではないように見えますが、これらの地域では神輿が近づくとあちこちから人が出てきては水をかけるので

「こんなに人が住んでいたんだ」

と驚きます。この風習には「清めの水」の意味がありますが、もともとは海に入って清めており、それが変化していったと言われています。

振り返るべき東京湾の存在価値

また東京湾沿岸全体で見ると、「海から○○が引き上げられた」という由来が無数にあります。

神奈川県横須賀市にある円照寺(画像:(C)Google)

・浅草寺(台東区浅草)の観音様・金谷神社(千葉県富津市)の大鏡鉄(だいきょうてつ)・円照寺(神奈川県横須賀市)の古鐘

などがそれです。信仰の対象が海からもたらされたという伝承は、東京湾が常に恵みを与えてくれる聖なる海だったことを教えてくれます。

コロナ禍で初詣を避けた人は今後、こうした神社をまわるのもよいでしょう。神社仏閣の由来から見えてくる、知られることのない東京湾の存在価値に注目するチャンスです。

猫柳蓮(フリーライター)

元記事で読む
の記事をもっとみる