ときには人に頼るのも大事『ワッフルとモチの冬のごちそう』が大切な仲間に会えない今、響く

世界最大の動画配信サービス、Netflix。Netflix大好きライターが膨大な作品のなかから今すぐ見るべき、ドラマ、映画、リアリティショーを厳選します。今回おすすめするのは、『ワッフルとモチの冬のごちそう』。オバマ前大統領夫妻がプロデューサーを務める人気食育番組『ワッフルとモチ』のスペシャル版で、かわいいキャラが活躍する子ども向けかと思いきや、大人も楽しめる、すてきな食ドキュメンタリーでした。

●熱烈鑑賞Netflix103

オバマ夫妻が生み出したキュートな食育番組

2021年3月に日本で配信が開始された子ども向け食育番組『ワッフルとモチ』は、オバマ前大統領夫妻が立ち上げた製作会社、ハイヤー・グラウンド・プロダクションによって作られた全10話のシリーズ。オバマ前大統領夫人、ミシェル・オバマ氏は、ファーストレディ時代から食育に力を入れていたという。今作は、その思いをわかりやすく伝えるためにつくられたものだ。……こんな説明をしてしまうと、ずいぶんとお堅いもの、あるいは完全な子ども向けに感じられてしまうかもしれない。けれど、全然違う。

『セサミストリート』を思い浮かべるとわかりやすいが、作品の舞台はパペットと人間が共存する世界。「れいとう食品の国」に住んでいたワッフルとモチの二人がシェフをめざして国を飛び出し、オバマ夫人が店長のスーパーにやってきて奮闘する。

まずこの二人、とくにモチがとってもかわいらしい。世界各国のシェフやフードに関わる人々が食材について真摯に語ってくれて、毎回発見がある。さらに、ワッフルとモチの二人は、食材や関わる人々を通じて、自分の居場所を探すことの大切さや失敗から得るものの大きさ、ときには人に頼るのも大事といったことなど、生きていくうえで必要な視点を獲得していく。おまけに、番組内で披露される歌もすばらしい。子どもももちろん、大人も最高に楽しめる番組なのだ。

世界のお祝いを楽しむ”モチ”！

2021年11月に配信された『ワッフルとモチの冬のごちそう』は、この『ワッフルとモチ』のスペシャル版。れいとう食品の国に戻ったワッフルが、ひょんなことから「フリージーデー」というありもしない冬の記念日をお祝いしている、と仲間に話してしまう。それを聞いたみんなが次々に「フリージーデー」のごちそうを求めてワッフルの家に押しかけ、引っ込みがつかなくなったワッフルはモチに世界のごちそうを探してもらうことに。

ふたりにいろんなことを教え、必要な場所に連れて行ってくれる心強い相棒、マジックカート（空飛ぶゴーカート）は、世界中に冬至（夏至）のお祝いがあることをモチに伝える。家の周りの恵みを必要な分だけとって食べるあたたかなハワイの冬のごちそう。厳しい雪の中で、トナカイと共存するノルウェーの人々のヨヴラットというお祝い。

見たことのないお祝いの風景はドキュメンタリー的に楽しめるし、その中でモチがみんなに歓迎され、綱引きや腕相撲をしたり、スノーモービルで雪世界を走っていたりする姿のかわいらしさに心が満たされる。

いま改めてかみしめる、人々が集まるお祝いという場の幸せ

モチがなかなか帰ってこず、焦るワッフル。電話で「ごちそうがないの」と告白するワッフルに「私はクリスマスのごちそうを焦がしちゃったことがあるけれど、それでも楽しんだわ」と勇気づけてくれるオバマ夫人。

このシリーズは登場人物もすごい。ワッフルたちといっしょに「フリージーデー」の歌で美声を披露するのはダイアナ・ロスの娘としても知られる俳優のトレイシー・エリス・ロスだし、本編シリーズにはジャック・ブラックやマンディ・ムーアといった俳優や歌手、コメディアンがどんどん出てくる。

「明るいうちに」と時間をずっと気にしていたワッフルだけれど、サミン・ノスラット（彼女も本物の料理人！）から「わたしの国のお祝いは夜になってからはじまるのよ」と教えてもらい、そのこだわりも捨てる。

「お祝いはごちそうだけじゃない 家族やともだちといっしょに うたったりゲームをしたりする」と、仲間たちが集まること自体の価値に気づくワッフルとモチ。モチが世界から持ってきた食材でみんなで仲良く料理して、二人は「本物のお祝いになったね。伝統を作ったんだよ！」と喜ぶ。

気軽に人々が集まれなくなって２年経った。状況に応じて人と会うのを再開してはいるけれど、予断を許さない状況は変わらない。いいかげん慣れてはきた。でも、鬱屈とした気持ちは常にうっすらとつきまとう。そんな中で、大切な仲間に囲まれるワッフルとモチの多幸感には心なごむし、「ごちそうをつくれば 今日がお祝いの日になる！」というワッフルの考え方に励まされる。ぜひ今こそ見てほしい、すてきな冬の物語だ。

■釣木文恵のプロフィール
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。