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岸井ゆきのが問う「普通の幸せって何?」 『恋せぬふたり』高橋一生の言葉が明るい光に

  • 2022.1.18
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『恋せぬふたり』(写真提供=NHK)

常々感じていたことが、ひとつの表現として提示されるとなんだか嬉しいものだ。「思っていたのは自分だけではなかった」「同じことを考えている人がいた」……その安堵感にも似た感動は、私たちがいつもどこかで“味方”を求めているからなのかもしれない。

「家族を美化しすぎではないですか?」
「(この関係を)強いていうなら“味方”かな」

よるドラ『恋せぬふたり』(NHK総合)第2話では、咲子(岸井ゆきの)が持つモヤモヤに、また羽(高橋一生)の言葉が明るい光となって届いた。

親友・千鶴(小島藤子)とのルームシェアができなくなったことをきっかけに、咲子はアロマンティック・アセクシュアルを自認する羽と同居をスタートさせる。それはふたりにとって男女の性愛を抜きに家族となることができるのかという、実験にも近い取り組みだった。基本的には自分のことは自分でするという羽との干渉のない静かな生活は、咲子が「こんなんでいいの?」とむしろ困惑してしまうほど平穏な日々だった。

ところが、世間では「男女の同居」と聞けば、恋人関係であると認識されることが多い。特に、咲子の母親・さくら(西田尚美)は、これまで自分が触れてきた「普通」には入らない新しい価値観を受け入れるのが苦手な様子。咲子に羽を紹介するようにと催促する。

お互いにメリットのある今の生活を守るため、恋人のふりをすることを了承した羽と実家を訪れる咲子。待ち受けていた家族は、咲子が念願の恋人を連れて来たと大はしゃぎ。しかし、その端々には自分たちが考える「普通」の価値観を押し付ける場面も多く……。

咲子は羽に無理を言って合わせてもらっていることにも、大切な人たちであるはずの家族に対してウソをついていることそのものにも苦しくなって「普通の幸せって何?」と大爆発。思わぬタイミングで、自分がアロマンティック・アセクシュアルだとカミングアウトすることになってしまった。

恋愛感情も性的な接触も興味がない。言葉にすれば実にシンプルな内容なのだが、“そんな人がいる”とすぐに受け入れるのが難しいリアクションを見せた咲子の家族。これまで、そういう人がいるということ、ましてやそれがずっと一緒に暮らしてきた家族のなかにいるなんて考えもしなかったから、驚かれるのも無理はないことだっただろう。

もしかしたら咲子も、もっと冷静に時間をかけて少しずつ説明をすることができていれば、また状況は変わっていたのではないかとも思う。しかし、咲子が羽と同居を始めたとき「頑張ります」という言葉を発していたところに、咲子にとって家族といることはどこかで頑張ることを前提としていたのだとわかったような気がした。

明るく悪気がないものの何かと干渉の多い家族との会話。家族の期待する「普通」に応えようと努力すること。できないならせめて、その話題を明るくスルーしようと努めること。ときにはウソをついてでも心配させないようにと画策すること……。家族の前で、ありのままの自分をそのままさらけ出すことよりも、頑張って「普通」に取り繕うことが染み付いてしまっていたのだろう。

長年かけて築き上げた、家族向けの自分像。それが羽という味方と無理のない生活を始めたことで、今までの暮らしがいかに「頑張って」維持していたものなのかを知る。「家族だからこそ」グイグイと個人の領域に踏み込んでもいいと思っている人もいる。逆に、「家族だからこそ」その領域を尊重してほしいと願う人もいる。それぞれが“そういう人なんだ”とわかろうとしなければ、家族だからといって無条件に味方になるわけではないのだ。

よく家族や夫婦は「話し合いが大切」と聞くが、話し合いが言い負かし合いになっていることも少なくない。誰かと「話をする」と考えるとどうしても自分の思いをわかってもらおうと伝えることばかりに意識が向きがちだが、本当はどうしたら相手の味方で居続けることができるかを前提に「話を聞く」ことから始める心持ちが必要なのではないだろうか。

そこで羽は咲子に、より一歩踏み込んで家族になっていくためにアンケートなるものを用意した。大きく分類すれば同じアロマンティック・アセクシュアルであるという自認はしたものの、ふたりの心の動きが細かな場面まで同じとは限らない。どんなときにどんな心情になるのか、どのような接触を苦痛と感じるのか。まず咲子のことを知りたいという姿勢を見せた上で、自分のアンケート結果も開示する。自分に引っ張られないでいいのだ、と言葉も添えて。

またアンケートというのが羽らしいではないか。相手の回答を相手のペースに任せたい。なんなら「答えたくない」「答えられない」という回答もまたひとつの答えになるという気持ちが伝わってくる。咲子の1番近くにいる家族(味方)になるために、どこまで相手を尊重できるかを羽自身も模索しているのだ。そんな穏やかなコミュニケーションが、彼らにとって「普通」になっていくのだろう。

もちろん「納得できない」となる人もいるのも現実だ。だからといって、彼らはそれを「納得してほしい」と踏み込んでいるわけではない。それが「普通じゃない」と拒絶したくなるのであれば、そっと距離を取ることもまた一つの家族の形ではないだろうか。それぞれが、自分を殺さずに済むように。

誰かが無理をしているから家族が成立するのではなく、誰もが自分らしく生きられる味方を見つけられる世界になってほしい。だが、なかなか簡単に世界は変わらない。何かと咲子に絡んでくる同僚・松岡(濱正悟)も、これまた思い込みの激しそうなタイプだ。少しずつ居心地の良いホームが見えてきた咲子だが、まだまだモヤモヤが降りかかりそうな予感。次回も、羽の言葉がスッと心に光を差す回になってほしいと願うばかりだ。(佐藤結衣)

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