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『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』ダン・スティーヴンスにインタビュー。読書家で紳士的。人気英国俳優の、共感度MAXな演技の源

  • 2022.1.14
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Netflixのドラマシリーズ『アンオーソドックス』のマリア・シュラーダー監督が、母国ドイツで撮った最新作『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』(1月14日公開)。ベルリンの博物館で働く考古学者のアルマは、研究資金を稼ぐため、ある極秘実験に参加。それは、完璧な恋を仕掛けるアンドロイドの実証実験として、彼と同棲生活を送ることで……。ロマンティックコメディでありながら、すぐそこにありえる未来像を通し、「愛とは? 人間とは?」と問いかけてくる、哲学的で味わい深い1作です。
本作でアンドロイドのトムを演じたのは、イギリスの俳優ダン・スティーヴンス。ケンブリッジ大卒の秀才で、外国語に堪能、大の読書家でもある彼は、名作ドラマシリーズ『ダウントン・アビー』のマシュー役で人気となり、実写版『美女と野獣』(17)では野獣役に抜擢。たとえアンドロイド役でも、あるいは悪役でも、彼が演じるとなぜか人間味が滲み出ます。観客を惹き込む演技の源を探りました。

──今回の映画を観てまず、ドイツ語に堪能で驚きました。今回演じた高性能AIアンドロイドのトムは、「イギリス人で、少し英語訛りのドイツ語を話す」というプログラミングをされている設定でしたが、まさかその発音もあえて……?

いえいえ、自然の訛りです。普段、ドイツ人の友だちとドイツ語で話すときもああいう感じで。ドイツ人の役を演じるには、もうあと一歩、二歩、修行が必要ですね(笑)。

アンドロイドのトム(ダン・スティーヴンス)と、考古学者のアルマ(マレン・エッガルト)の「恋」の行方は……!?

アンドロイドを開発する企業の社員(ザンドラ・ヒュラー)に連れられ、アルマの家にやってきたトム。

──トムは、まるでこの世に生まれたばかりの赤ちゃんのよう。その素朴さがときに笑え、ときに感動的で、素敵なキャラクターでした。

嬉しい言葉です、どうもありがとう! 今まさに言ってくれたように、赤ちゃんのように無垢な存在が繰り広げるストーリーって、もはや一つのジャンルですよね。たとえば、原始人が現代によみがえったり、ワンダーウーマンが外の世界に出て行ったり。こういうタイプの役を演じる場合、ほとんど白紙の状態から、彼が何を知っていて、何を知らないのかを決めていくことができる。今回も、トムが持つ情報を自分で決めていけたのが楽しかったです。

──役の設定がしっかり決まっている従来の作品とは、役作りのアプローチが違ったということですね。アンドロイド役に挑戦する上で、意識したことはありますか?

意識したのは、アンドロイドであることよりも、トムがなろうとする人間像です。その人間像を解体した上で、少しズレた人間に見えるように演じました。マリア・シュラーダー監督とも何度も話し合いました。この映画は、彼女と(共同脚本の)ヤン(・ションバーグ)の脳から生まれたもの。マリアと話し合うことで、彼らのアイデアの中に入り込み、その一部にならなければと思ったんです。

──今「トムがなろうとする人間像」と言いましたが、往年のハンサムな名優たち、ケーリー・グラントやジェームズ・スチュワートが出演したコメディを観て、インスピレーションを得たそうですね。

この映画は、スクリューボール・コメディ(※1930〜50年代に人気を集めた、コメディのサブジャンル。恋人同士がハイテンポな会話を交わしながら、誤解を重ねて予想外の展開を見せるコメディ)みたいですよね。マリアと僕は、トムにはケーリー・グラントやジェームズ・スチュワートのような仕草や動き方、髪色までもがあらかじめプログラムされている、というアイデアが気に入ったんです。特に、キャサリン・ヘップバーンとケーリーとジェームズの三人が共演した『フィラデルフィア物語』(40)を参考にしました。トムはまったく脈絡なく、ケーリーのようにキザに振る舞うからおかしいんですよね(笑)。

──はい(笑)。でもトムは、アルマと暮らす中で得たデータを学習し、どんどん本当に人間的になっていきますね。

マリアとはすべてのシーンで、トムが現状どれくらい人間的で、どれくらいアンドロイド的かを確認し合いました。彼は最初のうちは、さっき話したケーリー・グラントのような言動など、あらかじめプログラムされたことしかできません。でもストーリーが進むにつれ、アルマの行動や成長に合わせ、彼女が必要としている人間になるために学習していきます。とはいえ、マリアからは常に「トムとして、ただそこに“いて”くれればいいから」と言われていたので、それを意識していました。

──マリア・シュラーダー監督とは具体的に、トムの内面なのか、それとも仕草なのか、どういう面で役作りについて話していたのでしょうか?

おもに仕草など、フィジカルな面についてです。(トムが内面に持つ)プログラムの内容についてはあまり深く掘り下げませんでしたが、掘り下げたのはむしろ、存在理由です。彼は、アルマのためにベストを尽くすべく存在しています。「ただアルマを喜ばせたい」という子どものように純粋な気持ちが、彼の原動力です。僕は多くのシーンで、感情を取り除いてトムを演じました。たとえば、アルマがトムに別れを切り出すシーン。あんなに美しくてエモーショナルなシーンで、何もせずにただ“いる”ことに徹するというのは、俳優としてとても難しいし、勇気のいること。でも、面白いチャレンジでした。トムがそこに“いる”だけで、すべてが彼に跳ね返り、観客は彼の表情にたくさんのことを読み取ってしまうんですから。

──いかにも心動かされるシーンで、感情を取り除いて演じるというのは、たしかに矛盾しているように思えます。

つまり、トムにとっての感情の代用品を探すようなものでした。何かが起こるたび、トムは「この状況でどうすれば、アルマのためになるか?」を計算します。トムにとっては、その計算値を求めることが、感情の代わりになるんです。

トムはアルゴリズムによりますます人間らしくなっていき、二人の距離は近づいていくが……。

アルマを演じたマレン・エッゲルトは、本作でベルリン国際映画祭の最優秀主演俳優賞(銀熊賞)を受賞。

──マリア・シュラーダー監督は、Netflixのドラマシリーズ『アンオーソドックス』で一躍注目され、現在はハリウッドでハーヴェイ・ワインスタインのセクハラを題材にした映画『She Said(原題)』を製作中の、世界中が熱視線を送る監督です。現場でどんなふうに、俳優とコミュニケーションを取る方でしたか?

彼女は素晴らしい監督です。もともと女優としても活動していて、ドイツ本国で高い評価を受けています。俳優でもある監督と仕事をするのは、とても楽しいんですよ。なぜなら彼らは、俳優が何を知りたがっているか、非常にセンシティブに気づいてくれるので。まるで同じ言語を話しているような安心感があるというか。今回もマリアが持つ、演技やエネルギーに対する感受性に大いに助けられました。

──監督によれば、今作は「愛とは何か」、そして「人間とは何か」を問うているとのこと。この根源的な二つの問いの答えについて、トムを演じる中で何か発見はありましたか?

今の僕はまだ、どちらの答えにも行き着いていません。まず「人間とは何か」。僕ら人間はなんて奇妙な存在なんだろうと思いますし、この問いについて考えるといつもワクワクします。それから「愛とは何か」。何世紀もの間、多くの詩人たちが取り組んできたような究極の問いですよね。どんな作品に関わっていても、大きな問いを見つけ、その中に身を置き続けることが好きです。

──各国の作品に引っぱりだこのダンさん。ダンさんが演じると、それがたとえどんな役でも、観ているこちらの共感を呼び覚まします。たとえば、今回のアンドロイド役もそうですが、『ナイト ミュージアム/エジプト王の秘密』(14)のトラブルメイカーなランスロットや、Netflix映画『アポストル 復讐の掟』(18)の陰鬱なトーマスなど。観客をキャラクターに感情移入させるという意味で、何か意識していることはありますか?

どれほどいやなキャラクターでも、きっと自分で自分をいやな奴だとは思っていないはずですよね。だから僕も演じる上で、ジャッジしたくなる気持ちを抑え、「彼にとって、人生のモチベーションはなんだろう?」と考えてみるんです。たとえば、ランスロット(※『アーサー王物語』などに登場する、伝説の人物)の場合、彼はとにかく冒険に目がない。猪突猛進するあまり、悪いことをしてトラブルを引き起こしても、それに気づきません(笑)。トーマスはたしかに明るいキャラクターではないけれど、それは彼に(カルト教団に誘拐された妹を救うという)重要な使命があり、また悪魔に悩まされているからで。と、こんなふうにキャラクターをジャッジしすぎないことが、観客を惹きつけるためには必要なのではと思います。

──現在製作中のドラマシリーズ『Gaslit(原題)』では、ショーン・ペンやジュリア・ロバーツと共演しているそうですね。撮影はもう終わったんですか? どんな経験でした?

撮影はひと段落しましたが、ファンタスティックな経験でした。ハリウッドの超大物の方たちと一緒に仕事ができるなんて、まさに夢が叶ったという感じで。

──ジュリア・ロバーツといえば、今回の『アイム・ユア・マン』でトムが、『プリティ・ウーマン』(90)の有名な苺とシャンパンのシーンを真似ていましたね(笑)。

アルマを喜ばせるために、浴室で『プリティ・ウーマン』の名シーンを再現しようとするトム。

アルマが、トムとの奇妙だけど刺激的な短い同棲生活を経て、最終的に下した決断とは?

そういえばそうでしたね! 今度ジュリアに会うとき、言わなくちゃ(笑)。妻役を演じたベティ・ギルピンも含め、素敵な共演者たちとともに、実話を元にした驚くべき物語をじっくり探求することができました。

──『Gaslit』は、ウォーターゲート事件(※1972年の大統領選挙運動期間中、ワシントンの民主党本部に盗聴器が仕掛けられた事件に始まる、政治スキャンダル)を描く政治スリラー。ダンさんは、この事件の首謀者である弁護士、ジョン・ディーンを演じているそうですね。情報だけ見ると悪役のように感じますが、ヒールを演じるのは好きですか?

ウォーターゲート事件は、当時のアメリカを二分する問題でした。今でも非常に多くの人がジョン・ディーンのことを、当時の状況下でいいことをした数名のうちの一人だと考えているんです。でももちろん、事件に関わった人物は全員、多かれ少なかれ悪のニュアンスを持っていたと思います。このドラマシリーズは当時、権力者であるニクソン大統領の周りにいた人々が、何によってあの事件へと駆り立てられたかを探っていきます。とはいえ、ジョンを演じる上でもやっぱり、ジャッジしすぎないようにしました。彼はおそらくもう手遅れになるまで、自分が悪に手を染めているつもりがなかったんだと思います……で、質問に対する答えですが、悪役を演じるのはとても楽しいです(笑)。

──ダンさんは大の読書家で、2012年にブッカー賞の審査員を務めたほどだと伺っています。これまでに深く影響を受けた作家を教えてください。

うわぁ、どうしよう! とてもいい質問ですね(笑)。そういえば最近ちょうど、人からカズオ・イシグロの『クララとお日さま』をもらって。これもアンドロイドが登場する物語で、とてもとても美しいんです。好きな作家はまず、トム・ロビンズ(※アメリカの作家。小説『カウガール・ブルース』は1993年、ガス・ヴァン・サント監督により映画化)。すっごく面白い作家で。それから、ウィル・セルフ。奇妙奇天烈なイギリスの作家で、僕は彼の本を読んで育ったようなものなんです(※邦訳された本に『コック&ブル』と『元気なぼくらの元気なおもちゃ』がある)。そんな感じかな。ZOOMを切った後で、もっともっと長いリストを思いつきそうですが(笑)。

──好きになる作家に、何か共通点はありますか?

(嬉しそうに考えて)そうだなぁ……。最近、ロブ・ドイル(Rob Doyle)というアイルランドの作家のことを知ったんです。彼は2020年に『Threshold(原題)』という小説を出版したばかりですが、2021年10月にも『Autobibliography(原題)』という、読書に焦点を当てたエッセイ集を出しました。ロブの書く散文は魅惑的で、まるで文章に沿ってダンスするかのような文才は、衝撃的なほど。文章で人を熱狂させることができるって、最高にクールなことだと思います。そういう作家が好きなんですが、近頃は、なかなか見つからないんですよ……!

『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』

ベルリンのペルガモン博物館で、楔形文字の研究に没頭する学者アルマ。研究資金を稼ぐため、とある企業が極秘で行う特別な実験に参加することに。そこに現れたのは紺碧の瞳でアルマを熱く見つめるハンサムなトム。初対面にもかかわらず、積極的に口説いてくる彼は、全ドイツ人女性の恋愛データを学習し、アルマの性格とニーズに完璧に応えられるようプログラムされた高性能AIアンドロイドだった! トムに課されたミッションは、“アルマを幸せにすること”ただ一つ。実験期間は3週間。献身的でロマンチックなトムのアルゴリズムは、過去の傷から恋愛を遠ざけてきたアルマの心を変えることができるのか?

監督: マリア・シュラーダー
脚本: ヤン・ションバーグ、マリア・シュラーダー
原作: エマ・ブラスラフスキー
出演: ダン・スティーヴンス、マレン・エッガルト、ザンドラ・ヒュラー、ハンス・レーヴ
配給: アルバトロス・フィルム
2021年/ドイツ映画/ドイツ語/107分/英題:I’m your man

1月14日(金)、新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー!
©️ 2021, LETTERBOX FILMPRODUKTION, SÜDWESTRUNDFUNK

公式HPはこちら

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