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【「クライ・マッチョ」評論】楽天的で鷹揚な姿勢で旅をする主人公。その姿にイーストウッド自身を重ねてしまう

  • 2022.1.10
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【「クライ・マッチョ」評論】楽天的で鷹揚な姿勢で旅をする主人公。その姿にイーストウッド自身を重ねてしまう

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「クライ・マッチョ」

これで最後かもしれない。そう思ったのはもう何度目だろうか。1992年の「許されざる者」公開時にイーストウッドは「監督と主演を兼任するのはこれが最後の映画になるだろう」と語っていたが、その後も約30年で9本の監督・主演作を撮った。

「許されざる者」は初日にミラノ座で観た後、渋谷東急でも観た。「ブラッド・ワーク」はイーストウッド最後のアクション映画になると勝手に思い、ニューヨーク・バッテリーパーク近くのガラガラのシネコンに2週連続で観に行った。「ミリオンダラー・ベイビー」や「グラン・トリノ」も「主演はこれで最後」発言があったので、目に焼き付けておかねばと、試写を含め公開時に3回以上観た。

というように、映画スター・イーストウッドの「見納め」を30年にわたり勝手に続けてきたのである。今回が本当に最後かもしれないし、まだ続くかもしれないが、91歳の人間がハリウッドメジャーの作品で監督と主演を兼任するというのは大変なことだ。91歳で監督と主演、どちらか一方でも凄いことなのに、両方まとめてやってのける。こんな人はおそらく空前絶後だろう。

監督デビューから50年、23本目の監督・主演作となるこの「クライ・マッチョ」は、1979年のメキシコが舞台。テキサスで孤独に暮らす元ロデオスターのマイク(イーストウッド)が、元雇い主から別れた妻に引き取られている13歳の息子ラフォをメキシコシティから連れ戻して欲しいと頼まれ、ラフォとともに米墨国境を目指すロードムービーだ。

マイクからしたら旅の果てに賞金があるわけでもなく、ただ義理を返すだけのために犯罪まがいのこともする面倒な旅だ。見方によっては「許されざる者」のビル・マニーの旅よりも精神的にキツいかもしれない。それでもマイクはそれが当たり前であるかのごとく旅に出る。この姿に私はイーストウッド自身の姿を重ねてしまう。絶望的な旅のように思えても、その旅路で僥倖に巡り合うかもしれないという楽天的で鷹揚な姿勢で歩みを進める。この深刻になり過ぎない気楽さこそが、「演技をしないマッチョスター」と呼ばれた男が60年近くの間、銀幕の主演俳優として生き延びてきた秘訣なのかもしれない。

西部劇出身の最後のスターであることを刻印するかのように、「許されざる者」以来約30年ぶりに映画の中で馬上の姿を見せたイーストウッド。そのシルエットをまた目に焼き付けておこうと思う。

(藤井竜太朗)

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