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中途入社の新人が、初日に職場のトイレを見て即退職を決めたワケ

  • 2022.1.5
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ギスギスした職場を改善するにはどんな方法があるでしょうか。350以上の企業や官公庁などで組織変革支援を行ってきた沢渡あまねさんは「職場がギスギスしている原因の一つに、暑い、寒い、うるさい、暗いなど、物理的な職場環境の悪さがある」といいます――。(第2回/全3回)

※本稿は、沢渡あまね『なぜ、日本の職場は世界一ギスギスしているのか』(SB新書)の一部を再編集したものです。

温度計と暑い室内で働くビジネスマン
※写真はイメージです
パフォーマンスやモチベーションに影響

物理的な職場環境の悪さも職場の雰囲気をギスギスさせます。具体的には、以下のような環境が挙げられます。

・換気がされておらず空気が悪い
・温度調整ができておらず暑すぎたり寒すぎたりする
・音がうるさい
・照明が暗い

生産現場などでは冷房設備の代わりに大型の扇風機などを回しているところもありますが、日本のように夏が酷い高温多湿になる場合、暑さは仕事の能率を下げるだけでなく、働く人が熱中症になる危険性もあります。

ある企業の経営者が「人に優しく、人に易しいものづくりを目指したい」と話していました。「人に易しい」は、余計な調整などをなくし、標準作業を整備することで難しい仕事をできるだけ易しくするといった意味です。もう一つの「人に優しく」は、たとえば重いものを運ぶといった男性社員にしかできない仕事をなくしたり、できるだけ静かで明るい環境にしたりして、年齢や性別に関係なく誰もがいきいきと働ける環境にすることです。

職場の暑い寒いやうるさい、暗いなどは、働く人のパフォーマンスに影響します。「この職場は自分たちをモノとしか見ていないんじゃないか」とモチベーションの低下にもつながります。

工場や営業所の環境は悪いのに、本社は快適

当然、健康にもよくありません。そのような職場でプロとしてモチベーションを上げて働くのはおよそ不可能です。

特に気をつけたいのが、工場や営業所の職場環境は悪いにもかかわらず、本社はとても居心地のいい職場になっているケース。

ある企業の工場の隣には、立派な本社ビルが建っていました。工場で働く人たちがよく口にしていたのが、「本社の人間はあのビルの上で食事をしながら自分たちを見下ろしている」といった不満でした。あるいは、本社ビルの人間が工場に足を運ぶことは滅多になく、何かあると工場の人間を本社に呼びつけていましたが、それについても「彼ら/彼女たちはクーラーの効いた部屋から一歩も出ようとしない」と言われていました(だからといって、工場の現場と不公平だから、本社の環境改善には一切投資しないのは悪手です)。

職場環境の悪さはパフォーマンスやモチベーションの低下を招き、働く人の気持ちをギスギスさせます。改善の投資をしましょう。

トイレ、休憩室、食堂も重要

他にも職場環境の悪さにつながりやすいものがあります。

・トイレの数が少ない/ほとんどが和式
・休憩室が狭くて汚い
・食堂が混んでいてゆっくり食事できない
・食堂の食事がまずい

現場をよく知らない人たちから見ると、ささいなことかもしれません。しかし、これらが積み重なると職場はギスギスするし、退社する人も増えていくのです。

トイレのあり方も見直したいところです。最近インターネットで、こんな記事が注目を浴びました。

「【悲報】弊社に中途入社した新人が、初日に〈トイレが和式だった〉という理由で退職」

決して笑い事ではありません。和式トイレは体に負担をかけますし、体の不自由な人にとっては死活問題になることも。それくらい、トイレの問題は軽視できないのです。

次のようなエピソードもあります。親会社から生産子会社の社長に就任した人が最初に目にしたのが、女子トイレの混雑。休憩時間がそれだけでなくなってしまいます。本来ならトイレの数を増やしたいところでしたが、赤字続きで経営が厳しく、すぐに対応できませんでした。そこでその社長は、生産ラインごとに休憩時間を少しずつずらしてトイレの混雑を緩和しました。

さらに汚れていたトイレや休憩室、食堂の壁紙を新しく張り替えたり、ペンキを塗り直したりしてほんの少しですが居心地のいいものに変えました。すると、それだけで働く人たちの気持ちが変わったのか、遅刻や欠勤をする人が減り、業績も徐々に上向いてきたのです。

「人を大事にしているか」があらわれる

職場が以前よりも少し居心地のいいものに変わるだけで、働く人たちは「自分たちのことを考えてくれている」と感じます。その分、以前よりも少しだけ一生懸命働いてくれるようになるのです。工場などで遅刻や無断欠勤が目立つと感じたなら、職場環境に目を向けてみましょう。職場環境が変われば、働く人の気持ちも変わり、それだけで仕事の質も変わっていきます。

こうした職場環境の改善が職場の雰囲気を変え、パフォーマンスを向上させるのは生産現場だけではありません。

オフィス環境をできるだけ快適なものにしようと、従来の誰がどこに座るかが決まっている固定したスタイルから、その日の気分や仕事内容によって座る場所を自由に決められるフリーアドレスを採用するケースがあります。あるいは、企業によっては電話などのない一人で集中できるスペースをつくったり、数人でミーティングするためのスペースを増やしたり、さらには瞑想や昼寝ができるスペースをつくったり、食堂やカフェを仕事もできるスペースにつくり変えたり、とさまざまな工夫が行われています。

オフィスのトイレ
※写真はイメージです
「勝ちパターン」尊重して環境整備

ABWの考え方が日本でも注目され始めています。Activity Based Workingの略で、各々の仕事の特性に応じて個人個人が最適な環境を選べるようにする、オランダの企業発の考え方です。すなわち組織は、個々人の勝ちパターンを尊重し、勝ちパターンを実践してパフォーマンスを上げられる環境を整備しましょう。こう捉えることができます。

従来の日本のオフィスは、これまで述べたように大量生産に適したものであり、限られたスペースの中にいかに効率よく人を詰め込むかが重視されていました。結果、たくさんの机が並ぶ部屋と、会議のための部屋くらいしか用意されていませんでした。しかし、人材の多様化と職種の細分化や専門化が進む昨今においては都合が悪い。固定的な場所で、ウマの合わない人と四六時中顔を合わせて仕事をするのは精神的にもよくありません。常に誰かが電話で話していたり、雑談が行われたりしてかなりうるさい実情もあります。

これでは集中して仕事をしたいと思ってもできません。何か思いついてメンバーとミーティングをしたくても、会議室が空いていなければ簡単に集まることもできません。

ABWの考えに則し、オフィスとコミュニケーションのあり方を見直す企業が増えてきました。

グーグルのイノベーションの秘密の一つと言われているのが「食べ物から150フィートルール」です。カフェ、レストラン、共有スペースのお菓子など食べ物はさまざまですが、オフィスのどこにいても、必ず150フィートで食べ物にたどり着けるようになっています。

これは単なる福利厚生とは違います。人は顔を突き合わす回数が多いほど、互いの考えが似通って親しくなれると言います。であるならば社員同士が顔を突き合わせる回数を増やし、時間を長くすることが効果的です。食べ物がきっかけになって、社員が共有スペースに集まり、そこで気軽に雑談や意見交換が行われます。

かつては「タバコ」「飲みニケーション」

かつての日本企業ではタバコを吸うためのスペースや、アフターファイブの「飲みニケーション」の場がこうした役割を果たしていましたが、最近のオフィスはほぼ禁煙です。その代わりに、カフェコーナーやお菓子コーナーなどが設けられるようになりました。食堂をお昼時に使うだけでなく、それ以外の時間も開放してコーヒーを飲めるようにする。あるいはミーティングスペースを創る動きも、こうした流れの一つと言えるかもしれません。

決められた場所以外にこうした多様な場所が増えれば、それだけ働く人にとっては働きやすくなります。決められた場所を離れる仕組みは、職場のギスギスも間違いなく緩和させます。今後もこうしたオフィスの改造計画が進めば、職場のギスギスは徐々に解決されるのではないかと期待しているところです。

フリーアドレスの落とし穴

ただし、最近のオフィスで増えつつある完全自由なフリーアドレスは、かえって生産性が下がる場合もあるため注意が必要です。

三井デザインテックが心理学者でワーク・エンゲイジメントの専門家である島津明人さん(北里大学教授)、日本のクリエイティビティ研究の第一人者である稲水伸行さん(東京大学大学院准教授)と共にABWに関する調査研究を行いました。単純なフリーアドレスは、オフィス内で仕事内容に応じて適切な場所を選べず、自分の席が固定されていないため、ストレスが高まり、従来の固定席よりも仕事をするうえでマイナスの影響があると分かりました(※)。

さらに個人だけでなく、チームワークにおいてもマイナスの影響が生じる可能性があります。

テレワークが進めば、オフィスのスペースも全員出社が前提だった以前ほどの広さは不要になります。その意味ではフリーアドレスも時代の流れに沿っているのですが、チームワークが必要とされる仕事や職種において、なおかつメンバー同士の相互理解が十分にされていない状態においては、フリーアドレスのような環境はかえって生産性を下げかねません。

必要な時に必要な人や情報につながれる状態がなければ、チームとしてパフォーマンスを上げられないからです。

最適な形はどれかを考える

メンバーの専門性を理解し、問題が生じた時に誰に聞けば解決するのか分かっている、かつ必要なメンバーにすぐにつながれるチームは強い。一方、お互いの専門性を十分に理解せず、かつ誰が今、どこで働いているかがすぐに分からないチームは結束力もパフォーマンスも停滞しがちです。

たしかに誰がどこに座るかが固定された状態で、周りにいるのはいつものメンバーばかりのように景色が固定されすぎると、新しい発想も生まれにくくなります。その中にウマの合わない人がいると、精神的にもよくないし、職場の雰囲気もギスギスしてきます。

その意味では、固定席の他にフリースペースがあって、気分を変える場所があるのは精神的にも職場の環境としてもとても良いのですが、チームがまだ十分に熟成されていないうちは、時間を決めて決まった場所にいるようにするとか、テレワークでも誰がどこにいるかが分かり、すぐに連絡できる状態にしておくほうが良いと考えることができます。

職場の物理的な居心地の悪さは精神的にも、また仕事の効率面でも悪い影響を与えます。だからといって大企業のように最新のオフィスをつくるのは現実的ではないでしょう。それでも働く人たちが少しでも快適に過ごせるよう工夫はできます。

トイレや食堂が混むといった場合、少し時間をずらせば混雑は緩和できます。休憩室やトイレをほんの少しきれいにするだけでも、働く人たちの気持ちは随分と変わるものです。

(※)三井デザインテック株式会社、島津明人、稲水伸行「Activity Based Working(ABW)に関する調査研究」

働く人に合わせた環境をつくる

職場の「暑い、寒い、暗い」や、仕事で使用しているパソコンの性能なども含め、こうした環境への投資はとかく後回しになりがちです。しかし実は、環境への投資は、それだけで社員のモチベーション低下を防ぐことができます。

沢渡あまね『なぜ、日本の職場は世界一ギスギスしているのか』(SB新書)
沢渡あまね『なぜ、日本の職場は世界一ギスギスしているのか』(SB新書)

テレワークの導入に際しても、しばしば日本の家の狭さが問題になりました。日本の住宅の場合、自分の部屋を持っている人はそれほど多くはありません。そのため、学校も休みになり、夫婦二人ともテレワークになった場合、狭いリビングにみんなが集まって仕事や勉強をするケースも少なくありませんでした。

これではZoomで会議をするなど不可能ですし、集中して仕事ができません。そのような時、企業の中にはビジネスホテルの一室をサードプレイスとして利用できるようにしたり、あるいはカラオケボックスを使えるようにしたりなどの工夫をするところもありました。

こうした社員の実情に応じた対応ができる会社で働いている社員は「自分たちを大切にしてくれている」と感じます。これからの時代、社員の雇用形態も働き方も多様化していきますが、だからこそ従来の画一的なオフィス環境ではさまざまな問題も起きるし、対応できない課題も増えてくるはずです。

そしてそうした不満が職場のギスギスにつながっていくだけに、これからの企業は働く人や働き方に合わせた職場環境づくりを進めていかなければなりません。

まとめ
・職場の物理的な居心地の悪さは、精神的にも、また仕事の効率面でも悪い影響を与えるため、改善したほうがよい
・お金をかけた設備投資ができない場合でも、休憩時間をずらし食堂やトイレの混雑を緩和する、休憩室やトイレをほんの少しきれいするなど、工夫によって改善できる
・完全自由なフリーアドレスは、自分の席が固定されていないことでストレスが高まったり、チームのコミュニケーションにおいて障害になったりするため、かえって生産性が下がる場合がある

沢渡 あまね(さわたり・あまね)
作家/ワークスタイル&組織開発専門家
あまねキャリア株式会社CEO/株式会社NOKIOOアドバイザー/株式会社なないろのはな取締役・浜松ワークスタイルLab所長/ワークフロー総研フェロー。日産自動車、NTTデータで、情報システム・広報・ネットワークソリューション事業部門などの経験を経て現職。350以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。主な著書に『バリューサイクル・マネジメント』『職場の科学』『職場の問題地図』『マネージャーの問題地図』『仕事ごっこ』『仕事ごっこ』がある。#ダム際ワーキング 推進者。

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