1. トップ
  2. ライフスタイル
  3. 「防犯ブザー」は子どもを犯罪から守ってくれるか 求められる、SOSを察知する力

「防犯ブザー」は子どもを犯罪から守ってくれるか 求められる、SOSを察知する力

  • 2022.1.3
  • 529 views
防犯ブザーの効果は?
防犯ブザーの効果は?

大きな音を鳴らして、非常事態を周囲に知らせる「防犯ブザー」には「いざというとき、本当に鳴らせるのか」「鳴らしたことで相手を逆上させるのでは」などの不安があるのも事実です。しかし、「いつでもブザーを鳴らせる」というアピールが、犯罪者から子どもを守る抑止力になる可能性は大いにあります。

防犯ブザーは物理的に攻撃を防ぐ力はありません。だからこそ、万が一のとき、子どもが発信したSOSをしっかりと、周囲の大人に届ける必要があり、大人の側もSOSをきちんと受け止める必要があるのです。

防犯ブザーの音が届きにくい現状

防犯ブザーに期待される効果は3つです。まず、1つ目は、周りに見えるようにランドセルに付けて、視覚的に犯行の抑止効果を上げること。2つ目は、強烈な音で犯罪者を撃退すること。そして、3つ目が最も重要で、周囲に対して、「自分が危険な目に遭っている」とアピールすることです。しかし、ブザーの音だけでは人の関心が集まりにくいことを犯罪者は知っています。

防犯ブザーは子どもの“いたずら鳴らし”が多いため、周りの大人は「やれ、またか」と確認もせずに無視しがちです。これは多くの大人に共通する認識であり、このことは当然、犯罪者も承知しています。つまり、大人が防犯ブザーに無関心な現状は、子どもを狙う者にとって好都合なのです。防犯ブザーを有効に活用するには、子どもたちへの言い聞かせだけでは不十分で、保護者や近隣住民の「意識の改善」が鍵になります。

もちろん、子どもたちが“おおかみ少年”にならないように、いたずら鳴らしをさせない指導をすることが大前提ではありますが、大人がSOSを無視したままでは元も子もありません。結局のところ、子どもを守るには「間違いやいたずらなら、それに越したことはない」という寛大さと「10回に1回は本当のSOSがあるかもしれない」という繊細さが頼りなのです。もし、あなたの周りで防犯ブザーを鳴らしている子どもがいたら、「何かあったかのかもしれない」と注意を払ってください。

子どもを守るのは「知らない大人」

防犯ブザーのSOSが無視されるもう一つの理由が、知らない子どもと関わることへの抵抗感です。ある低学年の男の子が下校中、間違えて、防犯ブザーを鳴らしました。しかし、音の止め方が分からずに泣きながら、家まで帰ったそうです。その間に声を掛けた大人は誰もいませんでした。周りの人は犯罪性を感じなかったから、声を掛けなかったのかもしれません。しかし、誰からの助けもなく、1人で泣きながら歩いたお子さんはどれほど心細かったでしょう。

とはいえ、下手に接すれば、不審者扱いされてしまう世の中で、知らない子どもに話し掛けるのは大人にとって、かなりの心理的ハードルがある行為といえます。これまで、子どもに向けた防犯教室では「知らない人には注意しよう」という指導がされてきました。その結果、生まれたのが「知らない大人は不審者と思え」という風潮です。中には、ルールとして、「知らない子どもに声を掛けない」と決めている地域もあると耳にしました。

他人との接触をなくせば、防犯には一見、好都合です。しかし、犯罪者にそんなルールは関係ありません。子どもに近づかなくなるのは普通の人だけです。当然ですが、ほとんどの「知らない大人」はその地域に住む人。もしものとき、本来は子どもの味方になる人たちです。これからは「大人と子どもが距離を置くことはむしろ、犯罪者にとっての追い風になる」という共通認識を持つべきでしょう。

子どもには「親の知らない大人の知り合い」がいる

防犯ブザーには、働きを妨げる障害がもう一つあります。子ども狙いの略取誘拐はその半数が「言葉巧みに連れ去っている」という事実です。つまり、子どもは自分がだまされていることに気が付かないので、ブザーを鳴らそうとすら考えないのです。子どもへの言い聞かせは必要ですが、犯罪者は想像を上回る「うそ」で子どもをだまします。

余談ですが、近年、未就学児の誘拐件数は横ばいなのに対し、小学生では増加しているというリポートがあります(畠山美穂氏「子どもが被害者となる略取誘拐事案の実態と防犯に関わる心理臨床学的研究の展望」、2018年)。幼児が1人で出歩くことは少ないですが、小学生は通学や塾、習い事など、1人で行動する機会が増えるためでしょう。犯罪者からすれば、幼い子どもの方が連れ去りやすいはずですが、多少年齢が上でも「1人でいる子ども」の方が狙いやすいといえます。

つまり、子どもにとって最も危険なのは「1人になる瞬間」と「人目のない場所」です。子どもの安全上、人の目がゼロになるタイミングは可能な限り排除すべきです。また、親がわが子に「知らない大人に近づかないで」と教えても、大きな効果は期待できません。多くのお子さんには「親の知らない大人の知り合い」がいるからです。そして、そもそも、子どもが大人と接触を断つことは不可能でしょう。

警戒すべきは、声を掛けてくる大人ではありません。1人でいる子どもを連れていこうとする者です。今のところ、犯罪から子どもを守るための画期的な方法はありません。そのため、人々の善意にしか頼れない場面は多くあります。親ではなさそうな大人が子どもの気を引いている場面に遭遇したとき、「その人、知っている人?」と、知らない大人が声を掛けやすい社会が、防犯には理想といえます。

見知らぬ人への警戒は必要ですが、あからさまな不信の目は善意をそぐだけでなく、無用なトラブルを生みかねません。声掛けが必要なときは「どうかしましたか?」のように、手を差し伸べるスタンスで接するとよいでしょう。また、あいさつにも、普通の人には好感を、やましい人間にはプレッシャーを与える効果があるので、日常生活上で意識してみてください。

一般社団法人暴犯被害相談センター代表理事 加藤一統

元記事で読む
の記事をもっとみる