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オペラ・ガルニエは1月2日までロシアン・トリプル・ビル。

  • 2021.12.27
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パリ・オペラ座の年末公演は毎年、オペラ・バスティーユではヌレエフ作品のように大勢のダンサーと大がかりな舞台装置の作品が踊られ、オペラ・ガルニエではミックス・プロ、コンテンポラリー作品が踊られている。今年のガルニエ宮では12月1日から1月2日まで『アシュトン/エイアル/ニジンスキー』と題されたトリプルビルだ。3作品ともキーワードはロシア!

最初に踊られるのは、ロシア人作曲家ラフマニノフの『ラプソディ』を音楽に、振付け家フレデリック・アシュトンが1980年に創作した『ラプソディ』だ。これは英国のエリザベス女王の生誕80周年を記念した作品で、創作ダンサーは当時ロイヤル・バレエのレギュラーゲストダンサーだったソビエト連邦生まれのミハイル・バリシニコフだ。音楽の持つスピード感、ダイナミズム、活気、軽やかさ、華やぎ……が、そのままステップに生かされた雄弁な28分の作品。コスチュームも舞台装置もカラフルでソリスト2名、コール・ド・バレエ12名がこれでもか、と言わんばかりにクラシックバレエの難易度の高いテクニックを次々と披露する。オペラ・バスティーユでの公演『ドン・キホーテ』もエトワールを必要としているため、こちらのトリプル・ビルでは男性エトワールはゼロ。しかし男性コール・ド・バレエ6名が第1配役も第2配役も頼もしい顔ぶれで、未来のエトワール探しも楽しめる。

『ラプソディ』第1配役のソリストはマルク・モローとエトワールのセウン・パク。photo:Yonathan Kellermann

舞台上で素晴らしいジャンプ、回転を見せる6名の男性コール・ド・バレエの踊りも見どころ。写真は右からアンドレア・サーリ、ファビアン・レヴィヨン、アントワーヌ・キルシェール。photo:Yonathan Kellermann

2作目はレオン・バクストがデザインしたコスチュームと独特の牧神のポーズが印象的なニジンスキー振り付けの『牧神の午後への前奏曲(Prélude à l’apres-midi d’un faune)』の現代解釈版『Faunes』である。カンパニーの中でも日頃コンテンポラリー作品で活躍が目立つ女性ダンサー5名、男性ダンサー3名に振り付けたのはシャロン・エイアルだ。彼女がパリ・オペラ座バレエ団のために創作したのはこれが初めて。オハッド・ナハリンやホフェッシュ・シェクターの作品がこれまでオペラ座で踊られることがあっても、それらは彼らのカンパニーのために創られた作品だった。したがって、この『Faunes』はパリ・オペラ座における“ガガ”系初の創作作品でもある。

同じドビュッシーの音楽と同じテーマで、シディ・ラルビ・シェルカウイが創作した『Faun』は、パリ・オペラ座でも2019年に踊られている。その公演ではマルク・モローが牧神、ジュリエット・イレールがニンフ役で創作ダンサーたちに劣らぬ、素晴らしいパフォーマンスを見せた。今回、エイアルの作品は、タイトル『Faunes』からも明らかなように複数の牧神たちのダンスである。衣装は彼女がここ数年ともに仕事をしているディオールのマリア=グラツァイア・キウリに任された。全員がスキンカラーのバンデージ風の衣装で、アンドロジナスな牧神たち。シンプルながら森に差し込む光を感じさせる美しい照明の中、動物的がうごめくような官能的な動きで展開される。12分間のインパクトの強い作品に、毎回嵐のような拍手が。

2014年の入団以来、あまり目立つ活躍をしていなかったエロイーズ・ジョクヴィエル(左)を観客が発見する機会となる『Faunes』。photo:Yonathan Kellermann

中央はプルミエール・ダンスーズのマリオン・バルボー。彼女主演のセドリック・クラピッシュ監督の新作『En corps』の公開が来年3月30日に決定した。photo:Yonathan Kellermann

男性ダンサーはイヴォン・ドゥモル(中央)、アントナン・モナン、シモン・ルボルニュの3名が創作ダンサーだ。photo:Yonathan Kellermann

3作目はロシア出身の作曲家ストラヴィンスキーの音楽にのせて踊られる『春の祭典』。パリ・オペラ座の観客になじみが深いのは、1975年にピナ・バウシュが自身のヴッパタール舞踊団のために振り付けた『春の祭典』だろうか。1997年にレパートリー入りして以来、パリ・オペラ座では何度も踊られている。今回のトリプルビルの最後を飾る『春の祭典』はワスラフ・ニジンスキー振り付けによるもの。1913年5月29日にシャンゼリゼ劇場でセルゲイ・ディアギレフが率いるバレエ・リュスが初演公演を行い、ブーイングを浴びたことが後世に伝えられていることで有名な作品だ。観客に驚きを与えたのは、まず不協和音あふれるストラヴィンスキーの音楽。そしてアン・ドゥオールが基本のクラシックバレエを見慣れた観客は、背中を丸めてアン・ドゥドンで踊られた作品に呆気にとられた。シャンゼリゼ劇場内に怒号の嵐が……といった表現も残されている。ここ数年コンテンポラリー作品になじんできたパリ・オペラ座の観客は、1913年には新しすぎた『春の祭典』を静かに受け入れていたようだ。

生贄に配役されているのはアリス・ルナヴァン、エミリー・コゼット、レティティア・ガロニの3名。photo:Yonathan Kellermann

初演時の衣装と舞台装置が見事に復元された。photos:Yonathan Kellermann

なおこのロシアン・トリプル・ビルはシーズン2020~21に予定されていたのだが、コロナ感染症防止策として劇場閉鎖ゆえ延期となってしまった。この時にはこのニジンスキーの『春の祭典』は含まれておらず、シディ・ラルビ・シェルカウイによるオペラ座のための創作『シェヘラザード』がプログラムされていた。いまも踊り継がれているミハイル・フォーキン版同様に音楽もリムスキー・コルサコフと発表されていたので、シェルカウイ版をぜひ見てみたかったのだが……。

『Ashton/Eyal/Nijinski』上演:〜2022年1月2日Opéra national de ParisPalais GarnierPlace de l’Opéra料)12〜165ユーロ(12月31日は50〜250ユーロ)

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