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エドガー・ライトが明かす『ラストナイト・イン・ソーホー』の原点と、“エンドクレジット”に込めた意義

  • 2021.12.12
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『ショーン・オブ・ザ・デッド』(04)や『ベイビー・ドライバー』(17)など、あらゆるジャンルを網羅したシネフィリーな作風で映画ファンを魅了してきたエドガー・ライト監督。彼が4年ぶりの最新作となる『ラストナイト・イン・ソーホー』(公開中)で挑んだのは、これまでの作家性を一新するようなシリアスでダークなサイコホラー。

【写真を見る】原点はショービジネス業界に蔓延る悲劇…。エドガー・ライト監督が想いを語る

ライト監督が60年代ロンドンへの“憧憬”を語ってくれたインタビューでは劇中でオマージュを捧げた過去の名作や、工夫を凝らした撮影技法などについて明かした。後日、本作のインスピレーションの原点からエンドロールに隠された秘密までを語ってくれた。『ラストナイト・イン・ソーホー』をより深く知ることができる、“始まり”と“終わり”の両極だ。

※本記事は、ストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。

トーマシン・マッケンジー演じるエロイーズは夢と憧れを抱いてロンドンへ [c] 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED
トーマシン・マッケンジー演じるエロイーズは夢と憧れを抱いてロンドンへ [c] 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

物語は1960年代のロンドンに憧れを抱きファッション・デザイナーになることを夢見るエロイーズが、ロンドンのソーホーの古い屋敷の一室でひとり暮らしを始めるところから動きだす。眠りに就いた彼女は、夢のなかで1960年代のソーホーへとタイムリープする。そこで歌手を夢見るサンディといつの間にか身も心もシンクロしていることに気が付く。自信と才能に満ちたサンディの存在はエロイーズが生きる現実に影響を与えていくのだが、ある時、夢のなかでエロイーズは、サンディの身に降りかかる悲劇を目撃することとなる。

『ジョジョ・ラビット』(19)や『オールド』(21)のトーマシン・マッケンジーと、「クイーンズ・ギャンビット」のアニャ=テイラー・ジョイを起用し、自身初となる女性主人公の作品を作りあげたライト監督。彼の作品らしいエンタテインメント性に富んだ方法論で、その映画愛や楽曲センスなどが発揮されていく。

「2020年のソーホーを映像に残しておかなければ」

エロイーズとサンディ、時代を超えてシンクロした2人の女性の視点から描かれる物語。その果てに訪れる映画のエンドクレジットシーンに映しだされるのは、あまりにも異様なロンドンの光景だ。「一見静止画に見えますが、よく見るといくつかのショットで街灯が微かに点滅しています。つまりあれは映像なのです」。この映像がエンドクレジットに使用された経緯を訊いてみると、やはり2020年という世界的に極めて異例となった1年が大きく関係していた。ほかの多くの映画がそうであったように、例外なく本作も制作を休止せざるを得なくなったのだとライト監督は振り返る。

現代を生きるエロイーズは1960年代のソーホーに迷い込み、歌手を夢見るサンディとシンクロしていく [c] 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED
現代を生きるエロイーズは1960年代のソーホーに迷い込み、歌手を夢見るサンディとシンクロしていく [c] 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

「ロックダウンが行われたあの時、ロンドンの街は完全に封鎖されました。僕は映画の撮影現場のすぐ近くに住んでいて、ソーホーも住宅街ではないので、閑散としている光景が一生に一度の出来事のように思えたのです。きっと第二次世界大戦の時でもロンドンはもっと賑わっていたと思います。でも2020年の街には人っ子ひとりいなければ、車も走っていない。そんなロンドンを歩くのは、なんとも屈辱的で不気味な感じがしました。そこで、いまのソーホーを映像に残しておかなければと感じたのです」。

実際にその映像が撮影されたのは2020年7月頃のこと。ライト監督はカメラクルーと合流し、ロンドンの中心部を数時間かけて撮影。30から45カットほど、その異様なロンドンの姿を記録したのだという。「それはある種のほろ苦いエピタフ(墓碑銘)のようなものでした。映画のなかでロンドンは、60年代から現代へと変化し、いまもなお変化し続けています。だからこのような風景を撮影したいという思いはずっと前からありました。この映画のエンディングには、あえて悲しくほろ苦い悲劇的な要素が含まれています。この時の流れのなかで、ソーホー自体が再び変化していく様子をうまく反映することができたと思います」。

ロンドンの街並みは、この映画のもうひとつの主役 [c] 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED
ロンドンの街並みは、この映画のもうひとつの主役 [c] 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

また、ライト監督はソーホーの地下にある編集室で仕事している時に、古い壁は過去に何を見てきたのだろうかと想像を掻き立たという。百年もの間にここで何が起こってきたのだろうかという発想からソーホーという町を物語の舞台にすることにしたそうだ。「ソーホーは娯楽や文化の歴史があるだけでなく、犯罪の世界でも大きな役割を占めました。2つの世界が隣合わせになっています。60年代は特にそれを象徴する時代ではないかと思います。人生を誤った人と出会うことでとんでもない悲劇となります。そんな危険をはらむソーホーの側面にも、興味が湧きました。行き着くところ、ホラーという発想は、僕のソーホーヘのオブセッションから派生したと言えますね」。

ロンドンへの憧憬と映画愛をミックスさせ、その手腕がさらに進化を遂げる [c] 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED
ロンドンへの憧憬と映画愛をミックスさせ、その手腕がさらに進化を遂げる [c] 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

「僕らが聞くことのできない話はまだまだたくさんある」

作中にはショービズ界に蔓延る搾取構造への問題提起も込められている。ライト監督はそんな本作について「この映画は、語られていなかった人々についての映画でもある」と明かす。

「何年も前に、1960年代のハリウッドやイギリスのショービジネスの世界で、人生やキャリアに終止符を打たれた人の話を読みました。とても悲惨なことと感じ、心を痛めました。この数年間で、非常に進歩的な方法で被害者が自分自身のために勇気を持って話すことができるようになりました。しかし1960年代の人々の言葉をもう語る人がいないため、誰も聞くことはできません。もうこの世にいない人たちの本当の姿を知るのはとても難しい。その悲劇的な感覚が僕に重くのしかかることとなり、それが本作のインスピレーションの源になったと言えるでしょう」。

【写真を見る】原点はショービジネス業界に蔓延る悲劇…。エドガー・ライト監督が想いを語る [c] 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED
【写真を見る】原点はショービジネス業界に蔓延る悲劇…。エドガー・ライト監督が想いを語る [c] 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

それでも物語の大枠は#Me Tooムーブメント以前から存在したという。今回ライト監督と共に脚本を手掛けたクリスティ・ウィルソン=ケアンズとカンヌ国際映画祭で本作について初めて話をしたのは2016年のことだったそうだ。「クリスティと脚本を書いた理由の一つは、彼女自身がロンドンで働いたことのある若い女性だったからです。おかげで、お互いにショービズ界で実際に見てきたことを脚本に生かすことができた。けれど1960年代の話やこの数年間で表に出てきた話は、ショービズ界が存在する限り続いている。なので、僕らが聞くことのできない話はまだまだたくさんあるのです」。

エドガー・ライト監督が選ぶ、2021年のお気に入り映画は?

コロナ禍で制作休止となった半年間でもう一本の新作を仕上げたエドガー・ライト監督 [c] 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED
コロナ禍で制作休止となった半年間でもう一本の新作を仕上げたエドガー・ライト監督 [c] 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

本作の制作が休止を余儀なくされた半年の間で、ライト監督は自身初の音楽ドキュメンタリー作品であるスパークス・ブラザーズのドキュメンタリー『The Sparks Brothers』を完成。同作は今年のサンダンス映画祭でお披露目され、夏に北米やヨーロッパなどで公開された。偶然にも同じタイミングで、スパークスが楽曲と原案を務めたレオス・カラックス監督の『アネット』(2022年春公開)も封切られており、毎年多くの映画を鑑賞するライト監督は、2021年のお気に入りの1本としてそのタイトルを挙げる。「少し身内びいきになってしまいますが、スパークスが書いた最新のキャラクターミュージカルだったということでとても楽しめました」。

ライト監督の次回作は『バトルランナー』のリメイクとなる予定 [c] 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED
ライト監督の次回作は『バトルランナー』のリメイクとなる予定 [c] 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

またほかにも、ポール・トーマス・アンダーソン監督の新作『Licorice Pizza』と、第74回カンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いたジュリア・デュクルノー監督の『Titane』を挙げるライト監督。「まだ観られていない作品がたくさんあり、じっくり考えれば他にも色々あると思います。僕が2021年に楽しんだ映画には傾向があるような気がします。そろそろ『ラストナイト・イン・ソーホー』の宣伝期間も終わるので、今年公開された作品をもっと観る時間が取れると思うので楽しみにしています」。その尽きない好奇心と探究心こそが、我々映画ファンを楽しませる作品を生みだす秘訣なのかもしれない。

取材・文/編集部

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