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『地獄が呼んでいる』で光った4人の名演と独自の世界観 前後半で生まれたギャップとは

  • 2021.12.12
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『地獄が呼んでいる』Netflixにて独占配信中

配信以来、世界のドラマ界に旋風を巻き起こしているNetflixの新ドラマ『地獄が呼んでいる』。監督は傑作映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』のヨン・サンホで、“ポスト『イカゲーム』”としても話題だが、エンタメ色が強いサスペンスの『イカゲーム』とは毛色の違う、人間の心の闇にじわじわと迫るバイオレンスホラーだ。

オープニングはソウルの都会的でにぎやかなカフェ。突然、3人の魔物が現れ、白昼堂々ある男を焼き殺して消える。後に男が魔物から殺害日を「告知」されていたことが判明し、その存在を以前から警告していたカルト宗教教団の議長チョン・ジンス(ユ・アイン)は、カリスマ的な存在に。そんなある日、あるシングルマザーが魔物に告知を受けることを知ったジンスは、彼女の殺害風景を実況中継すると発表。刑事ギョンフン(ヤン・イクチュン)はジンスに不審な感情を抱き……。

原作はサンホ監督の脚本をWeb漫画化した「地獄」。本作のユニークな点は、シーズン1(6話)のうち、前半3話と後半3話でキャストが(ほぼ)入れ替わることだ。ドラマとは思えないほどの強烈な暴力シーンは見る人を選ぶが、現実社会への風刺をきかせた、深みのある衝撃作にはちがいない。本作の見どころや問題点をふりかえってみると……。

ディストピアな世界観と4人の「神演技」に引き込まれる前半

ドラマのつかみともいえる前半。監督は『新感染~』のゾンビ同様、現実社会に魔物という「死の恐怖」を投入し、極限状態に陥った人々がカルト宗教にすがり暴走する姿をあぶりだす。なかでも「日常空間に魔物がやってきた」というマンガ的な設定を、現実と地続きの話だと信じさせてくれるのが4人の俳優がみせる「神演技」だ。

カリスマ指導者役で唯一無二の存在感! ユ・アイン

筆頭は、カルト宗教教団「新真理会」の議長ジンスを演じるユ・アイン。ドラマ『トキメキ☆成均館スキャンダル』(2010年)などの作品でブレイクし、ドラマや映画で演技を磨いた。2019年には村上春樹原作の映画化『バーニング 劇場版』で巨匠イ・チャンドン監督に抜擢され、国際派俳優という名声を得た。『地獄が呼んでいる』では、一見、普通の青年だが、何かを達観したような眼差しに得体のしれない不安と狂気を滲ませ、カリスマ教祖ジンスを唯一無二の存在感で演じる。

虚構を現実にする、ヤン・イクチュンの卓越した演技

ジンスに不信感を抱く刑事ギョンフン役を演じるのは、『息もできない』(2010年)など、その卓越した演技力が日本でも多くのファンを持つヤン・イクチュンだ。サンホ監督とはアニメ『フェイク~我は神なり』の声優を務めた縁がある。本作では、一人娘をジンスに奪われ、「正義」と「悪」の間で揺れうごく刑事の葛藤を、地に足の着いた繊細な演技で魅せる。ジンスとの対決シーンや娘との再会シーンは本作屈指の名シーンだ。

新たな才能! 「泣き」のシーンで世界を震撼させたイ・レ

刑事ギョンフンの娘ヒジョンを演じるイ・レは、モデル出身の15歳。サンホ監督の『新感染半島 ファイナル・ステージ』では超絶アクションを披露し、本作では過去のトラウマからジンスの誘惑に応じてしまう少女を演じる。原作では息子という設定だったが、母の死の無念や復讐への思いなど、複雑な感情が入り混じった「泣き」のシーンは圧巻! 娘に変更してイ・レの才能に賭けた監督の慧眼に唸る。

シングルマザーの悲哀を全身で演じたキム・シンロク

子供たちの将来のために、魔物による処刑を実況中継させるシングルマザー役のキム・シンロク。個性的なルックスで、傑作サスペンス『怪物』でも強い印象を残した実力派だ。本作でもセリフや表情のひとつひとつに真実味を感じさせ、子供への愛と死の恐怖に引き裂かれる母親の苦悩を全身で演じる。シンロクは本作の演技で見事ブレイクを果たした。

ほかにも実力派俳優が集結し、登場人物たちが「地獄」より残酷な世界でもがき、葛藤し、戦いを繰り広げる前半。ドラマティックで深みのあるストーリーは映画ファンにもおすすめしたい。

衝撃が薄まる後半。だが、ラストでまた新たな謎が……

後半になると時代が変わり、巨大になった教団が人々を支配する社会に変わる。

最大のドラマは、テレビ局プロデューサーであるペ・ヨンジェ(パク・ジョンミン)の妻の赤ちゃんに「告知」がもたらされること。それは教団の「裁かれるのは罪人のみ」という教義に反し、事実をもみ消そうとする教団サイドと、夫婦を守ろうとする秘密グループとの対決が山場になる。

役者たちも熱演だし、ムードもさほど変わらないものの、不条理な運命に苦しみ、何が悪かを問いかける前半のジンス議長に比べると、後半の悪役といえる教団の役員たちは悩みのスケールが小さい。当初は恐ろしかった魔物たちも、殺人日程厳守の法則を教団に利用され、処刑番組の出演者のようにも見えてくるのだ。

ただサンホ監督の作品でおなじみの「不条理を乗り越える人間の力」は本作でも健在。なにより後半で見逃せないのが、最後の「えええっ!」となるあのシーン!

最初はデヴィッド・リンチ好きな監督らしい感性のお遊びかと思ったが、すでにシーズン2の布石として考えられていたという。提示された新たな「謎」は、視聴者に新シーズンへの期待を抱かせるに十分。やはり続きが気になるドラマシリーズの1本になりそうだ。 (文=Cinemaruko(シネマルコ))

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