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一度は泊まりたい。編集部選・ゆったりくつろげる京都のおしゃれ町家ホテル

  • 2021.12.4
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千本格子に瓦屋根が連なる京都の町家文化。今、その風景が減りつつあります。京都の中心地・烏丸御池駅のほど近くにある「nol kyoto sanjo」は、京町家を改修し、その特徴や意匠を継承したホテル。その背景や思いを、ホテルを手掛けた東急不動産株式会社の角田茉帆さんに伺いました。

年々減少傾向にある、京都の町家

京都の街並みといえば、伝統的な木造家屋が並ぶ町家の風景を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?1,000年以上の歴史を持つといわれる町家文化ですが、家屋の老朽化や高い維持費などの理由により、今、その風景が失われつつあります。
そんな中、京町家を再生・継承したホテルがあるのをご存知でしょうか。昨年(2020年)の11月に開業した「nol kyoto sanjo」です。

京町家の保存・再生へ継承するホテル「nol kyoto sanjo」

町家の保存と、近代建築が宿るホテルを目指して

「nol kyoto sanjo」は、元日本酒の販売所だった町家を改修して作られました。漆黒の壁に、瓦張りの屋根、入り口には暖簾がかかっており、一見しただけでは、ホテルとは気づかない外観です。中に足を踏み入れると、町家固有の様式美を保ちつつも、現代のニーズを叶える利便性を兼ね備えた空間が広がっています。
「nol kyoto sanjo」が町家造りを残した背景としては、本物の町家が減っていたことがあるそう。
「京都=町家のイメージが定着しているからか、“町家風”のデザインの建物は増えている印象があります。一方で本物の町家は、年々少なくなっていて、寂しさを感じていました。」
そう語るのは、京町家の美と現代的な機能性が見事に融合した「nol kyoto sanjo」を手がけた東急不動産株式会社の角田茉帆さん。

またホテルの立地も町家造りを残した背景の一つとか。
「nol kyoto sanjo」のある姉小路(あねやこうじ)通は、たくさんの観光客でにぎわう「三条通」の一本北にある東西の通りです。
「姉小路通は、老舗の和菓子店や酒屋、京絵具の専門店など、京都の歴史や文化を象徴するような建物が数多く残り、 昔ながらの京都の街並みを維持する通りです。ガス灯が設置されるなど、現在は建築協定などにより歴史的景観の維持・継承を目的とした試みも行われています。一方、南側は京都の中心部として栄えた三条通。明治時代はメインストリートでもあり、旧日本銀行京都支店など、近代洋建築が多いのが特徴です。nol kyoto sanjoは、趣の異なる2つの通りの街並みに溶け込むように、和の伝統を活かしながらも、洋建築を取り入れたデザインを目指しました。」(東急不動産株式会社角田茉帆さん、以下同様)

町家の意匠が残るラウンジ

町家が活用されているのは、入口から入ってすぐのロビー・ラウンジ。黒を基調とした、落ち着いた空間が広がっています。
改修時は、町家自体を残しつつ、機能面や調度品などホテル全体を通しては、“町家を現代でつくったら?”という観点を心がけたそう。

「天井のむき出しの梁は、元の町家のものをそのまま残しましたが、床は昔ながらの土間の雰囲気を残しつつ機能的な床材を使っています。照明は天井側に銅板を貼り、下からライトを銅板にあてて反射させることで、奥ゆかしい光を表現しました。町家の特徴や意匠を随所に残してその温かみを醸しつつも、機能的で古さを感じさせない美しさを実現しています。」

客室エリアも現代風の町家を感じる空間に

ホテル内の空間にも、従来の町家造りを現代版に解釈して、取り入れられています。
例えば、ロビーを抜けて客室に向かうエリアにある、5階まで続く吹き抜けを利用した中庭。
「町家は玄関から入り、廊下を通り、通り庭を抜けて自分の部屋に入るという造りになっています。今回は、それを現代的に解釈し、中廊下を通って吹き抜けが広がる庭を横目に客室へと向かう造りにしました。町家では光や風を取り入れることはもちろん、都市部の家屋でも四季折々の自然を楽しむことができるよう、中庭が作られていたことが多いようです。こういった意匠を含めたホテル全体のデザイン(客室を除く)を町家建築に造詣が深い京都大学で教鞭をとられている魚谷繁礼氏に設計いただいています。」

古材をアートワークに活用

また館内では、古材がさまざまなところに活用されているそう。
「中庭壁面の模様は、コンクリートを打つ際に、枕木という古材を活用して窓枠をかたどっています。その他にも各部屋趣の違うデザインの、木のアートワークがありますが、これも廃棄されるはずだった古い町家や楽器の木片を活用しています。」

日本酒販売所としての意匠の継承

また、外壁に「キンシ」の文字が残っているのも特徴です。
「文化の継承という意味で、「日本酒」と「町家」という2つの伝統的な文化を知ってもらうきっかけになればという思いもありました。なので、町家だけでなく、外の壁面には“キンシ正宗”という文字を残しております。日本酒をあまり飲まれない方でも、なんだろうという疑問から興味をもってもらえると良いなと思い、残しました。」

日が経つごとに熟成されるデザイン“kyoto vintage”

内装のコンセプトは“kyoto vintage”です。町家と同じく時間が経つにつれ熟成されていくようなデザインにしたいという思いが込められています。
「古材の活用もそうですが、町家内の銅板照明や、銅板風の客室内の建具や洗面台なども“kyoto vintage”の一部です。」

またデザインだけでなく、使いやすさにもひと工夫が。
「私自身、女性同士で旅行に行くと鏡を譲り合う、なんて経験も。そこで、洗面台の鏡や水栓を両面から使えるようにしているなど、滞在者の利用シーンにも気を配りました。」

ホテルの中でも外でも、京都の文化を感じてほしい

nol kyoto sanjoでは、ホテルの中にいても京の歴史・文化に触れることができる工夫が凝らされています。

100年以上の歴史を持つ“キンシ正宗”の日本酒

一つは、日本酒。1880年に創業したといわれる“キンシ正宗”の販売所だったこともあり、京都伏見で作られた伝統的な日本酒を楽しんでもらいたい、との思いで、ロビーにセルフ方式の日本酒サーバーが設置されています。
「常時4種類程度用意しておりまして、純米大吟醸の高級酒やワイン酵母を使った期間限定の日本酒、女性向けのフルーティーな香りのお酒など、老若男女問わず、さまざまな方に楽しんでいただいています。」

京文化に触れることのできるおばんさい

もう一つは、京都の文化に触れることのできる朝食。
地域に根付いた伝統ある「京の味」を提供するおばんざい弁当、古くから舞子さんや歌舞伎俳優御用達の仕出し弁当でもある、老舗喫茶のサンドウィッチなどを提供しているそうです。

「「nol kyoto sanjo」のコンセプトは“京を纏い、三条に暮らす”です。特にこのエリアは京都に住む方もよく利用されるような美味しいお店など、昔ながらの暮らしに根付く街並みが広がっているので、いらした方にはホテルの中だけでなく三条界隈全体を堪能してほしいと思っております。当ホテルでゆっくりとリラックスしつつ、京都の魅力を全身で感じていただきたいです。」

長い歴史と文化を培ってきた、京都の町家。
「nol kyoto sanjo」には、町家文化そのものを生かしつつ、それを現代に昇華させ未来へとつなげていきたいという、思いがありました。
「nol kyoto sanjo」を通して、京都の文化に触れてみてはいかがでしょうか。

【ホテル概要】
設計:株式会社吉村建築事務所
施工:北和建設株式会社
町家、共用部デザイン:株式会社魚谷繁礼建築研究所
客室デザイン:有限会社橋本夕紀夫デザインスタジオ
照明デザイン:株式会社ライトモーメント
ブランディング:株式会社東急エージェンシー・株式会社 artless
アートワーク :Antiques&Art Masa
植栽 :MAESTRO 花緑事務所/株式会社 KASEYA

【インタビュー】
東急不動産株式会社 ウェルネス事業ユニット ホテル・リゾート事業本部 ホテル企画部 角田茉帆さん
2017年東急不動産入社。「KYUKARUIZAWA KIKYO, Curio Collection by Hilton」「nol kyoto sanjo」「ROKU KYOTO, LXR Hotels and Resorts」などパブリックホテルの開発を担当している。

writer / Sheage編集部 photo / nol kyoto sanjo,shutterstock

取材協力

nol kyoto sanjo
京都市中京区堺町通姉小路下る大阪材木町700番
https://www.nolhotels.com/kyoto-sanjo/

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