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日本円の実力は歴史的低水準…生活に忍び寄る円安の悪影響とは

  • 2021.12.2
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緩やかに円安が進んでいます。今年に入ってからの米ドル/円は、1月6日に1米ドル=102円59銭の安値を付けた後、徐々に米ドル高が進み、11月24日には1米ドル=115円52銭で、2017年1月以来4年10カ月ぶりの円安水準となりました。

実質実効為替レートは歴史的な円安水準

1米ドル=115円台といっても、「まあ、そんなに円安じゃないよね」と思っている人も少なくないのではないでしょうか。過去を振り返ると、1995年4月に1米ドル=79円75銭をつけた米ドル/円は、その後、日米が協調して大規模な円売り介入を実施したことによって、1998年8月には1米ドル=147円23銭という安値を付けました。その時の水準から見れば、115円台はまだまだ円高だと思う人がいても不思議ではありません。

ところが、実は今の円は、歴史的な安値圏にあるのです。

今の米ドル/円レートである1米ドル=115円台という数字は、「名目為替レート」のことです。名目為替レートとは異なる通貨の交換比率を示したものに過ぎません。名目があれば実質があるように、名目為替レートに対して実質為替レートというものがあります。これは、名目為替レートに国と国の間の物価上昇率の差を考慮したものであり、さらにさまざまな国との貿易額なども加味して計算されるのが「実質実効為替レート」です。この実質実効為替レートでみて、円は歴史的な安値水準にあるのです。

デフレ経済の長期化が購買力を低下させる

11月17日、国際決済銀行(BIS)が10月の円の実質実効為替レートが68.71であると公表しました。この水準が過去と照らしてどの程度なのかというと、名目為替レートが1米ドル=79円75銭をつけた1995年の時には、150.85という最高値をつけました。まさに名目為替レートとともに、実質実効為替レートも最高値を更新したのです。そして当時はまだバブル経済の残滓があり、日本経済は今に比べて元気でした。

しかし、そこから実質実効為替レートは低下傾向をたどり、2015年6月に67.6まで低下。そこからやや回復の兆しを見せたものの、再び低下し始め、今年10月に68.71という水準をつけたのです。ちなみに、2015年6月の実質実効為替レートは1972年以来の安値水準だったので、今の68.71というのはそれに準ずるレベルであると考えられます。つまり円という通貨の持つ実力が、約50年ぶりの低水準に近づいているといえるのです。

円の実力とは何かというと、購買力のことです。仮に円の実質実効為替レートが1割下がれば、同じモノやサービスを海外で買ったり、輸入したりする際に、円換算での支払額が1割増えることを意味します。1995年から2021年までの26年間で、円の実質実効為替レートが150.85から68.71まで下がったのですから、円の購買力はこの間に82.14ポイントも下がったことになるのです。

なぜここまで円の購買力が下がってしまったのでしょうか。一番の問題は長期化しているデフレ経済にあります。日本の物価は1980年代のバブル経済が崩壊してから、長期にわたって下げ続けました。日銀は消費者物価指数ベースで年2%の上昇を目標に未曾有の金融緩和を継続。直近の消費者物価指数を見ても分かるように、目標値からはほど遠いのが現実です。対して米国をはじめとして海外諸国では物価が上昇してきましたから、この物価の差が円の実質実効為替レートを引き下げることになったのです。

物価だけが上昇する「悪いインフレ」の恐れも

加えて、政府・日銀が意図的に円安政策を採ってきたことも、実質実効為替レートを押し下げました。実質実効為替レートが上昇すると、海外からの製品・サービスを割安に購入できるものの、輸出には不利になります。かつて輸出依存度の高かった日本の場合、円高が進むたびに、輸出企業の業績悪化懸念から日本全体の景気が悪くなる「円高不況」を懸念する声が強まり、円売り介入を強く推し進めてきました。

しかし昨今の日本経済は、円高が進んだとしても不況になりにくい構造になっています。なぜなら日本企業の生産拠点の多くが海外に移転したからです。しかも、国内総生産(GDP)に占める製造業の割合が年々低下しており、現在は20%程度に過ぎません。それはつまり逆の見方をすると、円安が進んだからといって国内景気の下支えになりにくいことを意味します。にも関わらず、政府・日銀は円安政策を強く推進してきたため、むしろメリットよりもデメリットが浮上してくる恐れがあります。

前述したように、実質実効為替レートの低下は円の購買力低下を意味します。このまま円安が進めば、実質実効為替レートはさらに低下し、円の購買力はますます落ちていきます。それは海外から資源、食糧の多くを輸入している日本にとって、かなり深刻な問題です。

今のところ消費者物価指数は落ち着いて推移していますが、このまま円の購買力が低下し続けると、どこかの時点で円の価値が低下した分を、消費者物価に転嫁せざるを得ない状況になるでしょう。それは好景気によって物価が上昇する「良いインフレ」ではなく、円の価値が低下することで物価が上昇する「悪いインフレ」に他なりません。景気はそれほど回復していないのに、物価だけが上昇していく悪性インフレに陥る恐れがあるのです。それは日本で生活する私たちにとって、生活水準の低下を意味します。

それをヘッジするにはどうすれば良いのでしょうか。

非常に難しい問題ですが、少なくとも個人資産においてはインフレリスクをヘッジできる資産を持つしかありません。日本企業のなかでも海外売上比率の高い企業の株式や、米国企業の株式、あるいはそれらを組み入れた投資信託などを保有することによって、多少なりとも円の購買力低下というリスクをヘッジできるはずです。

鈴木 雅光/金融ジャーナリスト

有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。

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