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32歳。父の下の世話をしたくない。

  • 2021.11.28
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親の介護は突然やってくる。わかってはいても、いざ「その時」が来た時に、心の準備ができている人などそうそういないだろう。まして32歳で介護に向き合うことになるとしたら......?

2021年11月26日『32歳。いきなり介護がやってきた。』(佼成出版社)が発売された。本書は、「cakes」の人気連載「時をかける父と、母と」を書籍化したもの。

もともとアメリカ人みたいな父

新卒で入社した会社がブラックで、「このままでは体も心も壊してしまう」と2年半で退職したあまのさん。24歳の時、父とふたりでニューヨークに旅行に出かけ、様子がおかしいことに気付く。その後、父は若年性アルツハイマー型認知症だと発覚する。

「父は、もともとアメリカ人みたいな人だった」というあまのさん。外資系企業に勤める父は、英語が堪能で豪快な性格。50歳でMBA(経営学修士)を取ろうと思い立ち、実現してしまうバイタリティの持ち主だった。父の海外赴任のため、家族は2回アメリカで暮らした経験があり、4歳上の兄は日本生まれだが、あまのさんはカリフォルニア生まれ、9歳年下の弟はボストン生まれ。比較的裕福な家庭だった。

そんな平和な家庭が、父の認知症の発覚を機に、大きく変化していく――。

徐々に変わっていく父と、困惑する家族。そんな中、追い打ちをかけるように母親のがんが発覚し、1年半後に亡くなってしまう。

厄のロイヤルストレートフラッシュ

父の認知症ならではの行動にイライラするあまのさんだが、どう発散してよいかわからない。なかなか人に言えない悩みを吐露するために日記を書き始めたのが、本連載のきっかけだという。

このエッセイを書き始めたのは、自分自身に数々の不運が重なった32歳の頃。婚約破棄と、母のがん発覚、若年性認知症の父の介護も待ち受けていていました。厄のポーカーなら、もはやロイヤルストレートフラッシュ。
父と二人で海外旅行に行くほど仲が良かった娘の私も、病気によって変わっていく父に、いつしかつらくあたってしまうようになりました。これ以上、父のことを嫌いになりたくないのに......。
そんな自分がいやでしょうがなかったとき、悩みを吐露できる場所を探すように、自分だけが見る場所に日記を書き始めたのがはじまりです。この日記が、ここまで広く届くとは思ってもみませんでした。
家族の健康を揺るがす出来事は、いつだって突然に起こりうる。平和な家庭にぬくぬく育った30代独身フリーランスの私が、その時々で迷いながらも判断して進んできた道のりが、少しでも誰かの救いになれたなら嬉しいです。

ハズレくじを引いた

noteの連載で印象に残ったのが、「父親の下の世話をしたくない。」の回だ。母を亡くし、悲嘆にくれながらも父の介護を続けるあまのさん。ある朝、父を起こすとベッドが湿っていた。2カ月に一度くらいの頻度で体調を崩し、うまく言葉が発せなかったり、動きがちぐはぐになってしまう。その時の一番の不安の種がトイレだ。

「やっぱり...。」心配よりも先に、落胆してしまう。ああ、父親の下の世話をしたくない。その思いが私の身を固くする。

洋服を脱がせて着させようとしても、どうしても下着がうまく履けない父。「パンツを脱がせてはかせることは、どうしてもしたくなかった。(中略)だからお願い、自分でやってよ」と心で願いながら、見守るあまのさん。

『ああ、ハズレくじを引いた』――
その思いが、私の中でむくむくと膨らんでくる。

やり場のない思いに胸を突かれ、介護の現実を突きつけられる。

一方で、やさしいタッチのイラストや文章から、あまのさんのお父さんへの愛情が伝わってくる。

誰もが直面する可能性のある人生での困難の連続が、イラストエッセイで淡々と描かれている。悩みながら進んでいくあまのさんの様子に、勇気づけられる人も多いはずだ。

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