1. トップ
  2. ファッション
  3. 『VOGUE JAPAN』9月号、編集長からの手紙。

『VOGUE JAPAN』9月号、編集長からの手紙。

  • 2015.7.30
  • 651 views

【さらに写真を見る】『VOGUE JAPAN』9月号、編集長からの手紙。

ピンクはお好き? ときめきと戯れる大人の贅沢。

今年2〜3月に行われたコレクションサーキットが終わり、東京で次のシーズン(2015年秋冬)のトレンドを話し合っているとき、一人の編集者が「プラダかわいい、全部好き!」と興奮して突然目を輝かせました。そのピンク好きを自認する編集者Oいわく、「このコレクションでミウッチャは“女の子の好きなもの”を“全部”集めて表現したと言っています!」と熱弁。「女の子の好きなもの全部」って、なんかテーマとしていい言葉だな、とそのとき私は感じました(特集はp.104〜)。

ショウ直後のミウッチャ・プラダの実際の発言を見ると、「女性たちの好きなものについて考えた」、「スイートだけど極端」なことを表現したかった、など、ただただ「女の子らしい」こととは距離とひねりがかなりあるコンセプトであることは明白なのですが、コレクションで発表された、パステルカラーやリボンの装飾は、理屈抜きで「女の子が好きなもの」に間違いありませんでした。「好きなもの全部」という言葉に私が即座に虜になってしまったのは、「好きなもの」というシンプルで盲目的な感覚と、「全部」並べてみるという、ある種の客観性を生む網羅的視点の両方を含んでいたからだと思います。プラダのコレクションはまさにその「距離感」や「ギャップ」が絶妙にミックスされていたから、現代的な魅力を勝ち得たのでしょう。

今月のカバーガールはミュージシャンのケイティ・ペリーです! プラダのピンクドレスが髪を切ったフレッシュな印象のケイティにとっても似合っています。ポップ&スイートなアイコンとして今や不動のポジションを築き、自ら「ヴォーグのためならこの身を投げ打つ覚悟よ!」と語る彼女は、言わずと知れたモード好き(日本のカルチャーも大好き)。遊び心と個性あるその装いで常に注目を集める存在です。

「“ヴォーグ”と“ジャパン”の組み合わせって、たまらないわよね」と、本誌の特別インタビューでも語っています(p.064)。しかし、日常で彼女が週に4、5日身につけているのはアディダスのトラックスーツだとか。「この格好は、自分の身を守り、生き抜くための知恵よ。ドレスアップをするのはそういう気分のときだけにしたい」。つまり、彼女のとびきりなスイートさ、思いきったポップさの魅力は、スイッチのオンとオフのはっきりとした切り替えから生まれるパワーに裏付けされているのでしょう。

ケイティが作る曲は、ティーンエイジャーの頃のドキドキ感を思い出させてくれることで人気ですが、「最近ときめきを感じない」というアシスタントエディターのひと言から、今月号では「ときめき講座」を開くことにしました(p.120)。脳科学者の中野信子さんにお話をうかがったところ、「ときめき」とはドーパミンに代表される脳内伝達物質が放出されている状態で、「理性を麻痺させる性質があり、人間の脳にとって必ずしも望ましい状態とは言えない」とのこと! 

しかし、瞳が潤み、肌ツヤがよくなるなど、若々しく見せてくれる効果もあるのも確かだそう。プラダのコレクションを「大好き」と叫んだ編集者の瞳の輝きはそれだったのか……。要は、「ドキドキ」と「脱・ドキドキ」感のバランスを保つのが「大人の上手なときめき方」なのではないでしょうか。ちなみに特集では、脳波を測定するマシーンを使っていくつかの実験も行いました。確かに、編集者Oがピンクの服を手に取るたびに「好き度」が激しく上昇したという結果が!

私自身のことを言うと、若いとき、特に10代の頃は甘すぎる気がしてピンクがあまり好きではありませんでした。しかし大人になるにつれ、ピンクのアイテムを直感的にチョイスすることが増えた気が。年齢による経験や距離感が、ピンクとの付き合い方の幅を広げてくれたのかもしれません。ミウッチャは今回のコレクションで「美のバリエーションを見せたかった」とも語っています。「ときめき」を「遊ぶ」余裕で楽しめたら、それこそすごく贅沢なことですね。

参照元:VOGUE JAPAN

の記事をもっとみる