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『呪術廻戦』『オッドタクシー』も…なぜエンタメ界は“渋谷”に惹かれるのか?

  • 2021.11.14
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日本の文化の発信拠点として海外からも注目される渋谷。そんな渋谷を描いたエンタメが話題になった2021年。物語の舞台としての渋谷について深く探っていきます。

さまざまな文化を受け入れ日本のにぎわいの象徴に。

主宰するストリーミングチャンネル「DOMMUNE」のスタジオを渋谷PARCO9階に構え、渋谷の街を3DCGで再現するオンラインスペース「バーチャル渋谷」にも携わる宇川直宏さん。コロナ禍をきっかけに渋谷について改めて考え、街の変遷をたどりながら、未来について考えていたのだとか。

「ワイドショーの定点カメラで映し出されることも多く、通行人の数や交通量によって、その時の曜日や天気までもが想像できてしまうほど、街の“記号”としての役割を担うスクランブル交差点。僕は、あの場所は世界で最も有名な交差点のひとつだと確信しています。東京を訪れたことがない人は東京をイメージした時にまずあそこを思い浮かべるはずだし、海外の人たちにとっては、あの渋谷の人混みと竹下通りのにぎわい、そして山手線の満員電車が“東京=人が多い街”という印象を作っていますよね。つまり、渋谷は“日本のにぎわいの象徴”なわけです。東京オリンピックでインバウンドの方々がたくさん訪れることを想定し、渋谷の夜を活性化するための『ナイトタイムエコノミー構想』をはじめさまざまな計画が動いていましたが、コロナのせいで予定通りに進まなかったこともあり、2021年の渋谷にはポッカリと空洞化してしまっている部分が多かったのではないかと感じています」

1970年代以降、気鋭のアパレルブランドが原宿エリアで活動し始めたことがアクセルとなって、最先端のファッションとカルチャーの街として急速に発展した渋谷。’80年代後半からは日本で最も豊富に中古レコードが集まる場所として国内外の音楽マニアを魅了し、その豊かな土壌から生まれた“渋谷系”と呼ばれる音楽ジャンルが一躍人気に。その後も、チーマーやギャル、原宿発の“カワイイ”イットガールなど、それぞれの時代を象徴するようなトレンドを形成してきた。

「’70年代後半には、今のように若者でにぎわう以前の渋谷を舞台にした『赤い絆』というドラマが放送され話題に。’90年以降は『ガメラ3』や『凶気の桜』といったトレンドフィルムがたくさん渋谷で撮影されました。援助交際をする女子高生を描いた『ラブ&ポップ』やコインロッカーベイビーがテーマの『渋谷怪談2』など、当時の社会現象を取り入れている作品が多いのも特徴ですね。『凶気の桜』はセンター街にチーマーが主となった時代を描いていますが、その前後にはガングロギャルやパラパラを踊るギャル男たちの時代もあったりと、新たな文化圏の人が入り込んでは離れ、そのたびに街の印象が変わっているのを感じます。こんなにさまざまなカルチャーを担う人がコロコロと入り乱れて、その時どきのユースカルチャーの象徴となる場所って、他にないと思うんです。例えば、京都には歴史と伝統を背負った個性があるし、新宿も’60年代にはアングラな街のイメージが成立し、そこから現在まで大きく変わらずにいます。これは、他の都市は生活者によってイメージが形作られていく中、渋谷は観光客によって作られてきたから。海外や地方、都内の他の沿線から訪れる、渋谷を観光地としてリスペクトする人たちの欲望が渋谷という街を作ってきたんじゃないかなと思っています。つまり、観光客が求めるものがあるからこそ成立していたため、その人たちが来なくなると、渋谷は空のメディアになってしまうという…。でも、これは決してネガティブな意味ではなくて、渋谷はそうやって街に入ってくるものをどんどん吸収し、新たなカルチャーにしてきたんです。戦後に日本に集まったエンターテインメントのニューウェイブを常に塗り替えながら、最先端のものに更新してきたわけで。そういう入れ替え可能なメディアだからこそ、どんな物語の作品にも取り入れやすいのではないでしょうか」

訪れた人々の記憶がこの街を形作っている。

15年に公開されたヒット作『バケモノの子』はもちろん、今年話題となった『呪術廻戦』や『オッドタクシー』ではコロナ以前の渋谷のにぎわいが描かれているのも特徴で、いま見るとノスタルジーすら感じてしまう。

「『呪術廻戦』で描かれた“渋谷事変”の舞台となる’18年は、オリンピックを控えた東京が再開発を最も頑張っていた時代です。『オッドタクシー』ではハロウィンの仮装やアイドルのライブなど、人が集まって楽しめる時代を描いていて。また、今年の夏にリリースされた『新すばらしきこのせかい』ではスクランブル交差点が舞台の象徴になっています。ゲームの中ではとにかく渋谷にたくさん人がいて、その雑踏の中で物語が展開されていくのですが、これは物理的に人が集まれなくなった渋谷をゲーム空間として体感できるようになっているんじゃないかなと。『バーチャル渋谷』に参加した時にも感じたのですが、渋谷は実際に訪れた人やこの街に憧れる人の“空間記憶”によって成り立っていると思うんです。その記憶の内容は人それぞれ違うけれど、なぜかみんなが渋谷への幻想を共有できてしまう。例えば、僕は『バーチャル渋谷』の世界を歩いていると、いまだに無意識のうちに’90年代に通っていたレコード屋へ行こうとしてしまう(笑)。そういう人々が持つ街への記憶が、渋谷を支えているんじゃないかなと思うんです。それに加えて、渋谷を舞台にした作品がたくさん作られたことによって、他の人が体験した記憶も共有しやすくなりました。そうやって、都市が持っている文化のアーカイブにアクセスしやすいところが、他にはないこの街のパワーだと思います。ただ、今後は観光客だけでなく生活者の文化をもっと取り込んでいく必要もあるのかなとも感じていて。コロナ以降の、人が集まれなくなってしまった渋谷がどのように作品の中で描かれていくのかをとても楽しみにしています」

うかわ・なおひろ 現代美術家、映像作家、VJ。映像やデザイン、文筆業や大学教授など、さまざまな領域で活動。2010年に日本初のライブストリーミングスタジオ兼チャンネル「DOMMUNE」を開局。

1枚目写真:『ラブ&ポップ』 村上龍が1996年に発表した原作小説を、庵野秀明が実写映画化。トパーズの指輪に心惹かれたコギャルが、それを手に入れるために援助交際に走る様子を追う。監督が『新世紀エヴァンゲリオン』を完結させた直後に初めて制作した長編映画としても知られる。©1998ラブ&ポップ製作機構

2枚目写真:『バケモノの子』 2015年に公開された、細田守監督による長編アニメーション。人間界「渋谷」とバケモノ界「渋天街」という2つの世界を交錯させながら、孤独な少年とバケモノの交流や絆を描く。第39回日本アカデミー賞の最優秀アニメーション作品賞を受賞。©2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS

※『anan』2021年11月17日号より。取材、文・大場桃果

(by anan編集部)

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