1. トップ
  2. ライフスタイル
  3. 家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.41秋の日の雨の朝

家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.41秋の日の雨の朝

  • 2021.11.12
  • 588 views

クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。26歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回はvol.40エッセイのはじまり

vol.41秋の日の雨の朝

ゆっくり瞼を開け、ベッドの中でしばらくじっとしていた。母親のお腹の中にいる時のような格好で眠っていたせいか、下になっていた右の肩が少し痺れてる。まだはっきりしない意識を耳に集め外の様子を窺う。細い、細い雨の音。体全部が耳になったみたい。マンション前の道路は車が一台通るのがやっと。濡れたその道を車が減速しながら走っていくタイヤの音をベッドの中でじっと聞いているのが好き。私は安心したような気持ちで鼻から大きく息を吸い羽毛布団を体ごと抱き込んだ。麻のシーツに顔を埋めその肌触りを頬で確かめながら、友人宅の猫が飼い主の足元で体をしきりに摺り寄せていた光景を思い出した。雨の日の朝の、束の間のまどろみ。

寝具と寝室のカーテンは淡いベージュを基調として選んだ。今の家に越して来た時に遮光タイプの物から程よく陽の光が差し込む物に買い換えたのだ。レコーディングや制作が続くと生活リズムが不規則になりがちで。家族がいるスタッフさんが、どれだけ前の日の夜が遅くても娘と同じ時間に起きる、と言っていて。起床時間を決めておくと、その日は多少キツくても翌日からまた元のリズムに戻りやすくなるよ、と。実践するなら自分を変えるより、環境を変えた方が早いかも、と寝室のカーテンをリネンにしたら気持ち良く目が覚めるようになった。天気が良い日は、窓の外の木々が太陽に照らされ、白い壁やカーテンの上で影絵のように揺れている。それでも疲れが溜まってくると、今日くらいもう少し…と二度寝を試みたりするのだけど、向かいの家から聞こえて来る「いってらっしゃい!」の声や、ゴミ収集車がバックする音を明るい寝室のベッドの上で聞いていると、世界から置いていかれているような心細さを感じ始め、起きよ…となるのだった。だけど雨の日の朝だけは特別で。どうしてだか自分を少しだけ甘やかせる、許すことができる。ついさっきまでいた無防備な眠りの世界にもう一度出かけることができる。秋の日の雨の朝が、だから私はとても好きだ。

元記事で読む
の記事をもっとみる