1. トップ
  2. ライフスタイル
  3. 創業20年の人気ラーメン店が打ち破った「男性客8割」の業界スタンダード 最大の原動力は「謙虚さ」だった【連載】ラーメンは読み物。(5)

創業20年の人気ラーメン店が打ち破った「男性客8割」の業界スタンダード 最大の原動力は「謙虚さ」だった【連載】ラーメンは読み物。(5)

  • 2021.11.10
  • 936 views

雨後のタケノコのごとく生まれ、そして消えてゆく都内のラーメン店。そんな激しい競争を勝ち抜いた名店を支える知られざる「エネルギー」「人間力」をフードライターの小野員裕さんが描きます。

門前仲町に2001年10月オープン

門前仲町駅の北側、葛西橋通り沿いに行列の絶えないラーメン屋「こうかいぼう」(江東区深川)があります。2001(平成13)年10月オープンから今年でちょうど20年。かいわい随一の人気店として、ラーメンファンに愛されています。

お店を営むのはご主人の田口宏之さん・三奈さんご夫婦。ふたりは同じ大学で知り合い後輩先輩の間柄です。宏之さんは前職で介護施設で介護食にかかわり、三奈さんは旅行代理店に勤務していました。

宏之さんの地元は横浜で、中国料理「奇珍」や家系ラーメンの本家本元「吉村家」に子どもの頃、よく通ったそうです。当時からラーメンが大好きで、大人になってからもさまざまなラーメン屋を食べ歩き、なかでも

・銀座「はしご」・浜田山「たんたん亭」・目黒「かづ屋」・永福町「大勝軒」

に魅了されました。

やがて「ラーメン屋を開業したい」という思いが芽生え、脱サラ後、高校時代の友人のラーメン屋で働き始めました。そこでしばらくオペレーションやラーメン作りの工程を勉強。その後、前職で積み重ねてきた食の知識や、数多くのラーメン屋を食べ歩いた経験を生かして、独学で現在のラーメンを完成。門前仲町にこうかいぼうをオープンしました。

「こうかいぼう」のラーメン(画像:小野員裕)

店名の由来はご夫婦ふたりの名前、宏之(ひろゆき)と三奈(みな)をモチーフに

「広く皆さまに望まれるお店にしたい」

という思いから、これを音読みに変え、言葉の響きの心地よさから「こうかいぼう(広皆望)」にしました。

メンマは塩抜きから行う徹底ぶり

スープ作りは豚のゲンコツと背骨、鶏の胴ガラと丸鷄とモミジ。ここに香味野菜を加えて12時間ほど煮込みます。それぞれのガラは時間差で投入。その際に出るアクとガラの脂は全て取り除きます。翌日、小分けした動物系スープに昆布、煮干し3種類、サバ節、宗田節を加えて完成です。

麺は、盛り付けたときのビジュアルを考慮してストレートに。麺の太さは試行錯誤の末、スープとのバランスのいい太麺をチョイスしました。

「こうかいぼう」の外観(画像:小野員裕)

人気のメンマは塩蔵短冊の状態で仕入れ、塩抜きを2日間。カットしたらスープで煮込み、味付けをします。多くのラーメン専門店のメンマは、最初から塩抜きされたものが多いため、このメンマには味わいも歯ざわりも及びません。

塩蔵短冊メンマは手間がかかりますが、食感が明らかに素晴らしく、また味わいも格別です。

鼻先をかすめる乾物の風味

やや白濁した茶色のスープは熱々です。スープはわずかに乳化しており、少々のトロミがあります。ガラの脂が取り除かれているため、見た目より軽やかです。

煮干しなどの魚の乾物の風味がフワっと鼻先をかすめ、サッパリとしながらも力強いうま味は実に心地よいです。塩気は若干控えめに仕上げてあり、食べ進むと深いうま味がジワジワと口中に広がり、肉厚な肩ロースのチャーシューはほどよく柔らさ。メンマの歯ざわりも含め、どれをとってもスキがありません。

ツルツルとしたストレートの太麺はいい具合にスープへ絡み、食欲は加速。いつの間にか最後の一滴までスープを飲み干してしまう、そんな底力が潜んでいます。麺は並で150g、大盛りで225g(プラス100円)です。

「こうかいぼう」のつけ麺(画像:小野員裕)

また、つけ麺はラーメンスープとさほど変わりませんが、麺を浸すのでスープはやや濃い目に調整しています。麺を若干長めにゆでているため、麺はラーメンよりさらに滑らかで、途中でお酢を入れると味変して、またおいしくなります。

接客技術も秀逸

ラーメンの味の素晴らしさもさることながら、宏之さん・三奈さんご夫婦のホスピタリティの高さには誰もが感心します。まず目を見張るのが、客への気遣い、接客の丁寧さ。私(小野員裕、フードライター)がこの店を知り合いや友人に紹介したとき、

「ラーメンもうまかったけど、感じがとても良かった」「奥さんの接客がホントに素晴らしい」

と、誰もが口をそろえて語ります。

どの飲食店も同じですが、店内の空間で気持ちよく過ごせることもひとつの味で、おいしさとして加味されます。宏之さんいわく、

「高齢の方から赤ちゃんまで、幅広い層のお客さまに普段使いしていただけるお店をいつも考えながら仕事をしています。お客さまがお帰りになるとき『また来るねっ!』と思ってもらえるお店を心がけているんです」

とのこと。

「こうかいぼう」の内観(画像:小野員裕)

ラーメン屋の多くは男性客が8割を占めますが、こうかいぼうの客層はバラエティーに富んでいます。家族連れやカップル、女性のひとり客が特に目立つのは、宏之さんが語る接客のモットーゆえなのでしょう。

「お客さまのことを第一に考え、地に足をしっかり着けて、夫婦仲良く健康で誠実にやっていけたらいいな、と思っています」

と宏之さん。

ラーメン業界は、数年で開店・閉店が繰り返される新陳代謝の激しい業界です。今年で創業から20年、「こうかいぼう」が長きにわたり人気を継続させているのは、ラーメンのおいしさはもちろんのこと、丁寧な接客にあるのではないでしょうか。今後30~40年と、ご夫婦仲良くラーメンファンを魅了し続けてもらいたいと思います。

小野員裕(フードライター、カレー研究家)

元記事で読む
の記事をもっとみる