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【西村宏堂のOut of the Box!#15】メイクは誰のもの? どんな人も自分らしさを楽しんでいい──メイクアップアーティストの私が思い描く世界

  • 2021.10.29
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国内外で活躍するメイクアップアーティストにして僧侶、LGBTQ活動家でもある。そんな多様な顔を持つ西村宏堂さんによる連載コラム。タイトルの“Out of the Box”には「常識や枠にとらわれない」という意味があります。セカンドシーズンは、宏堂さんがハッとする気づきを得た出会いや体験、名言などを紹介しながら、“見えない箱から自分自身を解き放つ”ための問いをみなさんに投げかけます。あなたなら、何と答えますか?

季節はすっかり秋。だんだん寒くなってきて、私はどこか寂しく感じていました。
人生も季節と同じように、暖かくなったり、寒くなったりすることがあると感じませんか?

そんな中、ビッグニュースがありました。米『TIME』誌が選ぶ、これからのリーダーを担うであろう人のリストに私も選出されました。

私は引き続き、みんなの心が温かくなるようなメッセージを発信し続けていこうと思っています。

セカンドシーズンから、毎回ひとつの問いをみなさんに投げかけています。
それは、私たちが当たり前だと思っていることを問い直し、価値観をアップデートするためのクエスチョン。

読者のみなさんだけでなく、私自身への問いでもあります。
よろしければ、あなたもぜひいっしょに考えてみてください。

そして、あなたの考えを文末のコメント欄で共有していただけたらうれしいです。
引き続き、できるかぎりお返事もしていきますので、時々チェックしてみてくださいね。

今回の問いはこちらです。

Q. メイクは誰のもの? どんな人も自分らしさを楽しんでいい──そんな寛容な社会はどうしたらつくれるでしょうか?

最近、私はひとつ、大きな挑戦をしました。

今夏から1年間、メイクアップアーティストブランド「シュウ ウエムラ」のグローバルキャンペーンに起用されたのです。
今回のキャンペーンへの参加は、自分らしくいることについて幾度もうつむく経験をしてきた私から社会への“挑戦状”でもあると思っています。

「シュウ ウエムラ」のグローバルキャンペーンに起用され、メイクされる側も体験(宏堂さん提供)

自分らしくいるって難しい──うつむいた日々の記憶

私はディズニープリンセスや美しいもの、オシャレが大好きな子どもでした。
でも、無邪気な幼少期を過ぎて、この社会で性的マイノリティの人たちがどんな扱いを受けるかを知るにつれ、だんだんと自分らしくいることがつらく、難しいものになっていきました。

高校時代のある日、勇気を出してデパートの化粧品売場に足を運んだことがあります。
「彼女さんにですか? それともお母様に?」(まさか自分用じゃないでしょう?)──店員さんの言葉とその背後にあるメッセージは、当時の私をうつむかせるには十分なものでした。

「私は歓迎されていない。化粧品売場は女性だけに許された領域なんだ」
「自分用です、と買ったところで、どんな目で見られるんだろう」
「自分が好きな装いをして生きていくなんて、無理なんじゃない?」
頭の中にそんな声が響き、足がすくんでしまったのです。

朝日新聞telling,(テリング)

「化粧は女性だけのもの」じゃない──そう思えたアメリカでの出来事

時が経ち、アメリカへ渡った私に、それまでの価値観を変える出来事が訪れます。

ボストンにあるデパートの化粧品売場に立っていたのは、驚くほどキレイな肌の男性店員。目をみはるほど美しく、神々しくさえ見えました。話しかける勇気が出ず、一緒にいた友人にたずねると、「あの人はファンデーションをつけてる。パウダーも重ねているんじゃないかな」と教えてくれました。

さらに、別の日に出会ったのが、男性フィギュアスケーターを起用した化粧品広告。その美しく自信に満ちた表情に、大きな衝撃を受けたことを覚えています。

勇気をもらった私は、はじめてのメイクに挑戦。
「えっ! 目の大きさも顔の印象も全然違う!」──それは、人生が大きく変わるんじゃないかと感じたほどの驚きでした。

その日からメイクをはじめた私は、やがて「いろいろな人にメイクをしてあげたい」と思うようになり、メイクアップアーティストへの道を歩み出したのでした。

朝日新聞telling,(テリング)

「てっきり女の人かと思っていました」──その言葉の背後にあるもの

今回のキャンペーン広告で、少しショックな出来事がありました。

店頭の広告映像を前に、店員さんに話しかけたところ、「え! てっきりキレイな女の人かと思っていました」という答えが返ってきたのです。おそらく、その言葉の背後にあるのは「化粧は女性のもの」だから「メイクモデルは当然女性だ」という先入観でしょう。

今の私自身はもう、好きなメイクで胸を張って外に出られます。それはアメリカでプロとして何年も練習や経験を積んできた自信があるから。もし自分の腕に自信がなければ、はたして堂々とメイクを楽しめたでしょうか?

このエピソードを本社にお伝えしたところ、すぐにアクションがありました。
「ミーティングや教育研修の機会を増やして、『こういう方がいるんですよ』とチームに伝えていきます。そうすれば、もっと多様なお客様に『私もメイクしていいんだ、楽しんでいいんだ』と思っていただける接し方ができるでしょうから」──と。
その言葉に感動したと同時に、現場の変化のきっかけとなれたことをうれしく思いました。

「シュウ ウエムラ」の店頭で(宏堂さん提供)

メイクはもっと自由でいい!──ニューヨークの画材店で得た気づき

ある日、老若男女がやってくるニューヨークの画材店でハッとしたことがあります。

色も素材もさまざまな画材を、あらゆるお客さんが好き好きに選んでいる──その楽しそうな姿を眺めていて、こう思ったのです。「メイクも、ここにある画材みたいなもの。技術の上手下手やその人の年齢や属性に関わらず、本当は誰だって自由に楽しんでいいはずなんだ」って。

歴史をひもとけば、人は性別を問わず、化粧をまとってきました。日本の場合、「化粧は女のもの」とされたのは「富国強兵」が叫ばれた明治以降のことだそうです。

一方、女性がメイクを強制されるような風潮にも疑問を覚えます。相手へのマナーとしての身だしなみや清潔感は大切だけれども、女性だけが義務としての化粧を求められるのは、フェアといえるのでしょうか? メイクはしたくないと思う女性もいるでしょう。

ただ、私は「メイクをまといたい」と思うすべての人が、胸を張ってメイクを楽しめるようになることを心から願っています。誰にだってメイクを楽しむ権利があるのだから。

そして、どんなメイクをするかについても、店員さんや他人ではなく、まず「こういう表現がしてみたいな」という自分の心の声を、ぜひ大事にしてほしいと思います。トレンドや世間の価値観にあなたの主導権を奪われてはもったいないでしょう?

「シュウ ウエムラ」撮影時のビハインドザシーン(宏堂さん提供)

何より、みんなが「この世界にはいろいろな人がいるんだ」と知り、「彼らも自分も自由でいいんだ」と思えるようになれば、より多くの人が自分らしくいることを恐れずにすむ世界になるはず。そう、色とりどりの笑顔に満ちた、あのニューヨークの画材店のようにね。

さて、メイクをすることについて、あなた自身はどんな考えや想いを抱いていますか?
そして、どんな人も自分らしさを楽しんでいい──そんな寛容な社会はどうしたらつくれるでしょうか?

■西村宏堂のプロフィール
1989年東京生まれ。米パーソンズ美術大学卒。メイクアップアーティストにして僧侶、LGBTQ活動家。日本語、英語、スペイン語を操り、ミス・ユニバース世界大会などでメイクを手がける。国連、イェール大学など講演多数。NHK、CNN、BBCなど国内外のメディアに取り上げられ、Netflixの番組「Queer Eye」にも出演。2021年にTIME誌「Next Generation Leaders」に選出された。著書に『正々堂々』、2022年には英語、独語で"This Monk Wears Heels"を出版。

■原田潤のプロフィール
合同会社アーキペラゴ代表。グラフィック&WEBデザイン、文章、写真、旅する本屋など、様々な手段で価値あるコトを伝える媒介者として活動しています。外界の刺激を受け取りすぎるといわれるHSPですが、自分の特性を生かして社会と関わっていければと。慶應義塾大学法学部、桑沢デザイン研究所卒。東京生まれのミレニアル世代。好物は本と旅と自転車、風の匂い。

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