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韓国カルチャーを牽引するクリエイターたち vol.4|グラフィックデザイナー・SUPERSALAD

  • 2021.10.27
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伝統の基盤の上で、成熟したデジタル環境と“hurry-hurry”文化のもと日々刻々と変化する韓国社会。熱狂のど真ん中にいるアーティストの視点を探る。

頭の中の“探求”から生まれるデザイン
Haeri Chung
(SUPERSALAD)
グラフィックデザイナー

ソウルを拠点に活動するSUPERSALADことチョン・ヘリさん。グラフィック作品はもちろん、インディペンデントのパブリッシャーとして毎年発行するアート本は、日本でも注目を集める。ユニークな名称含め、オリジナリティの根源を訊いた。

—まず“SUPERSALAD”の由来は?

「〝Soup or Salad〟を〝SUPERSALAD〟と聞き間違える西洋のオールドジョークからとったツイッターのアカウント名(@SUPERSALADSTUFF)をそのまま使ってます。みんなが私のことをそう呼んでいたので自然と。カッコ良さとか深い意味を持たせるのが苦手で(笑)。2017年に立ち上げた1人スタジオ兼出版社です。でも、響きがツボなのか海外の人からはいいネーミングだとほめられました」

—絵は子どものころから興味が?

「絵を描くのは好きでした。当時はそれがデザインだとはわからないまま、小学校から中学校までの約7年間、同級生全員に1人1人デザインの違うクリスマスカードを作って送ってました。何百枚にもなったと思いますが、どうやって作っていたのか(笑)」

—グラフィックデザインに興味を持ったきっかけは?

「特にドラマチックな理由はありませんが、幼いころからの家庭環境が大きいと思います。母はピアノを教えていて、祖母は服を、叔父はシルクスクリーンをやっていました。音楽やアート関連の本、楽譜が家にたくさんあったので、音楽をイメージ化する仕事や、アートの展示会ポスターなんかを作ってみるのはどうかなと考えていました」

—美術は大学で勉強を?

「学校は2回行っているんです。最初は化学工学専攻で、卒業後にデザイン専門学校SADIに入り直してコミュニケーションデザインを勉強しました。化学は、実験で思いもしなかった結果が出るとなぜそうなったのか深く考えるのが面白くて。実験でできた化合物の中には視覚的に綺麗なものもあって、それも気に入っていました。その経験がデザインにも反映されていると思います」

—音楽は志さなかったんですか?

「ピアノ専攻を考えた時期もありました。音楽も私にとっては重要な要素です。国籍、ジャンル問わずに何でも聴きます。10年前はツイッターで音楽コミュニティを運営していました。たまに1時間くらいのミックスした曲も公開していますよ」

—得意とするフィールドは?

「一番は印刷物です。でも、デジタルアルバムのアートワークのようにデジタル環境の中で必要とされる作品も多く作っていて、動くポスターも手がけています。ウェブデザインは自信がなかったんですが、最近ちょっと遊び感覚でやってみたりしています。ここ数年はアルバムジャケットデザインに携わることが多いですね」

—ヘリさんご自身は、自分の表現をどうとらえていますか。

「あまり枠にはめたくないなと思ってます。周りからは年齢不詳で無国籍なデザインだと言われていますね。興味の幅は広くて、関心のあることは満足するまで調べようとする探究心が強いほう。デスクに向かうより、考えている時間の方が圧倒的に長いです」

—無国籍とはどういう意味で?

「以前、デザイナーの友人がインスタグラムの投票でデザインを決めようとしたことがあったんです。私が直感的に選んだのはことごとく人気の低いもの。自分でも驚いたんですが、私は大多数が理解しにくいアーティストなのかなと(笑)。少数に向けてのグラフィックだから面白いし、あなたらしいよって言われました。無国籍と思われるのも関連してますよね。でも、デザインがメッセンジャーとなって、その持つべき役割と美しさがピタッとはまった瞬間の喜びは大きいです。親切でわかりやすいものより、何度か目にするうちに『あ、これいいんじゃない?』って思わせるデザインが好きなんです」

—『Books in Animation』では日本のアニメも登場してましたね。

「子どものころから漫画とアニメが好きでした。仲良くしていた友だちの家が日本のアニメだらけで。小さな秋葉原でしたね(笑)。『Books in Animation』はアニメや映画に出てくる本をテーマに作りました。たまに作品内で意味なく登場するシーンが気になって、どんな本なんだろう、実在するのかなという好奇心をデザイナーの視点で落とし込んだもの。本のレビューをグラフィックデザイナーの佐々木俊さんが書いてくれてうれしかったです」

—作品でのハングルのフォントもかっこいいですね。

「ハングルは母音と子音の組み合わせや位置によって大きさやイメージが変わるんです。なので文章や単語になったときにデザインするのが難しいなあと思うことがよくあります。アルファベットと併用することが多くて、調和させるのがいいのか不調和がいいか。悩ましくて避けがちだったんですが、最近はまたあえて使ってますね」

—今後のプロジェクトの構想は?

「ZINEを作りたいです。テーマに沿ったものを定期的に出していきたい。あと、巨大なサイズの本や豆本の制作、異業種アーティストとのコラボレーションも。いつかオランダやイギリス、日本でも活動してみたいですね」

はみだし一問一答

Q 好きな作品やアーティストは?

A 詩人イ・サン、横山裕一の作品(上海のフェアでサインをもらいました)、長谷川白紙の音楽、ジャック・タチの映画、サミュエル・ベケット(劇作家)。韓国同世代アーティストならCO/EX、イム・ヒョジン、ユン・ヒャノ。

Q 好きな韓国料理は?

A いま自分のなかでバズっているのは豆腐ヌードル!ビーガンの友人のおすすめで、バジルペーストで和えたりラグーソースで食べるときも。

SUPERSALAD’s WORK

『Books in Animation』(17, 19)

アニメの中のキャラクターが読んでいる本を、実際に存在する本と一定のルールのもとでマッチングさせたアーカイヴブック。SUPERSALADSTUFFでは毎年、こうした企画出版物を発刊。

ZINE『Odd to Even』2号

グラフィックデザインテキスト集のほかにも鍵っ子さんとのハガキのやりとりをまとめた『SUPERSALADSTUFF AND PENPALS』(18)など、個性あふれる視点の作品が多数。

GINZA2021年9月号掲載

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