1. トップ
  2. 小栗旬『日本沈没ー希望のひとー』2話。目的のためには手段を選ばない男、天海はダークヒーロー

小栗旬『日本沈没ー希望のひとー』2話。目的のためには手段を選ばない男、天海はダークヒーロー

  • 2021.10.24
  • 1530 views

小栗旬主演のTBS系日曜劇場『日本沈没ー希望のひとー』。原作は1974年に刊行された小松左京の小説「日本沈没」。2023年の東京を舞台に、沈没という見えない危機が迫るなかで「見出していく希望」をテーマに描かれます。田所博士(香川照之)の予想は的中し、関東沈没の前兆が起きます。一方天海(小栗旬)は、根も葉もない癒着記事が出て、謹慎処分に。追い込まれた田所と天海、国民を救う一手を打てるのか……!?

『日本沈没ー希望のひとー』第2話は視聴率15.7%で2週連続15%超え、前評判通りに話題を集めている。なお、ネットの見逃し配信は、日曜劇場史上最高の再生回数になっているそうだ。

単純な疑問なのだが、このドラマを観ている人は、最終的に日本は沈没すると思いながら観ているのだろうか。それともどうなるかわからないと思いながら観ているのだろうか。小松左京の原作『日本沈没』ではタイトル通りに沈没するため、僕は同じような展開になると思い込んでいた。

だが、今作は脚本も時代も登場人物もほぼ別物、よくよく考えると沈没するとは限らない。というか、沈没するのかどうかハラハラしながら観た方が圧倒的に面白いことに気づいた。

常盤も沈没を恐れている

1話のラストで、田所博士(香川照之)の予言通りに日之島が沈んだ。ショッキングなシーンに未来推進会議のメンバーは騒然とするが、2話では意外にも引きずっていなかった。日之島は沈んだが関東が沈没するわけがない、と考えているようだ。

実際に日之島が沈んでるのに悠長過ぎるだろ! そう思ってしまったが、考え直すとそれは僕が「日本はこの後沈没する」(とは限らないが)という情報を握っているからだ。もし、自分が未来推進会議のメンバーと同じ立場だとしたら、信じないような気がしないでもない。

人間は都合の悪い情報を遠ざけるように出来ているので、信じない方向でみずから脳をコントロールするだろう。「世良教授(國村隼)がありえないって言ってるし……」とすがりつくのだ。

しかし、脳のどこかに日之島が沈んだ光景がこびりついてる。後に常盤(松山ケンイチ)が天海(小栗旬)に声を荒げるシーンがあったが、心のどこかで沈没に怯えているからに見えた。天海のためを思ってというのはもちろんだが、真っ向から沈没説と向き合える強さに思うことがあったのかもしれない。

やっぱり登場人物と同じく、「沈没するの?どっちなの?」という目線で観た方が全ての展開がハラハラするような気がする。

ヒーローでなく、ダークヒーロー!

週刊誌に環境ビジネス詐欺疑惑の企業「Dプランズ」と環境庁の癒着の黒幕が天海だという根も葉もない記事が出てしまう。日本沈没説のために奔走する天海は、ハメられたのだ。謹慎処分となり、未来推進会議からも外されかけてしまう。しかも、別居中の妻・香織(比嘉愛末)には離婚したいと告げられ、まさに踏んだり蹴ったりだ。

しかし、我が道を行く田所博士はそんな天海を気遣うわけもない。海上保安庁が出したデータが改ざんされたと断定し、本物のデータを入手しろと天海に命令をくだす。天海がピンチだなんて知ったこっちゃないのだ。

追い込まれた天海は、“目的のためには手段を選ばない男”の真骨頂を見せる。ただのヒーローではなく、ダークヒーローなのだ。自分の立場を復活させるために、「首都機能の分散についての構想」という書類を持って東山総理(仲村トオル)に突撃。首都機能を東山の出身地である札幌に分散させる提案をして、取り入ることに成功した。

常盤相手に「地元札幌とは言い出しにくいでしょうから、私がその流れを作らせてもらいますとの手紙を添えさせてもらった」と誇らしげに語る姿が頼もしい。こうして天海は未来推進会議での立場を復活させた。

さらに天海は、癒着疑惑で自分をハメた上司・藤岡局長(小林隆)を半ば脅し、生島自動車の生島会長(風間杜夫)に近づく。ここからは小細工なしの真っ向勝負だ。

「私ではなく、関東圏に住む国民の命乞いにきました」

政治的な判断ではなく、誠意を持って説得することで、生島から海上保安庁が出した元のデータを入手した(おそらく国交相経由で)。繊細さと豪快さを併せ持つ交渉技術は、いかにも日曜劇場という感じで爽快だ。

世良教授がよくよく考えると不憫でならない

世良教授は安藤(高橋努)を使ってデータを改ざんしていた。沈没の可能性を知りながら、握りつぶしていたのだ。1話で安藤が体調を崩したのも海底調査を中止させるための仮病だった。国家レベルなのにやることがコスい。

世良いわく関東沈没の可能性は1割とのこと。何千万人の命が失われる可能性が1割もあるのに、それを隠蔽した世良は文句なしの最低男に見える。しかし、それも僕が沈没を前提に観ているからなのかもしれない。世良の言い分はこうだ。

「私の立場で認めてしまえば、話がひとり歩きし、国民を不安に陥れてしまう。世界からも日本の信用を失うのだ」

つまり、わずか1割の可能性でも、世良が認めれば10割の可能性で国民が精神的苦痛を味わうことになり、経済的にも致命的なダメージ受けることになるのだ。そうなれば企業なんて簡単に潰れる。職を失う人も出る、命を失う人だって少なくない。

そうなると、1割の可能性を握りつぶすことが「日本のため」という世良の意見はわからなくない。最後に世良は田所博士への嫉妬を吐き出し、保身も丸出しだったので小物感が倍増してしまった。が、ただの悪ではなかった。世良は1人でとてつもなく大きな問題と戦っていたのだ。真実が必ずしも正しいとは限らないのだ。

勧善懲悪と見せかけて、天海にとってスッキリしづらい結末はちょっと意外だった。活躍すればするほど、天海の精神的ダメージは蓄積されていく。放送前にインタビューさせていただいた際に小栗旬は、撮影の感想として「しんどかった」と数度言っていた。ドラマが始まった今、その気持ち伝わってくる気がする。天海は、演じる小栗が気が滅入るほど大きな問題に立ち向かっていたのだ。

今夜放送の第3話では、田所の分析が疑われつつもいよいよ沈没が真実味を増すという展開に。一気に緊張感も増し、ストーリーは様変わりしそうだ。

■さわだのプロフィール
企画、動画制作、ブサヘア、ライターなど活動はいろいろ。 趣味はいろいろあるけれど、子育てが一番面白い。

■たけだあやのプロフィール
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。

元記事で読む
の記事をもっとみる