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漫画家・熊倉 献の大切なもの「黒いジャケット」

  • 2021.10.12
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クローゼットにひそむ、どうしても手放せないものはありますか?かけがえのない“記憶”が刻まれた物語を紹介します。

何を着ていいかわからない
そんな迷いを消してくれた定番服

気負った服や高価なものを身につけていると落ち着かない。

そう話す漫画家の熊倉献さんはこの日、シャラシャラゆれるロングスカートにスニーカーというチャーミングな恰好で現れた。

「たとえば霜柱があったら、いつでも踏めるようにしておきたい。でもおしゃれな靴だと躊躇しちゃう。そういう感じがちょっと苦手です」

10年以上着続けているのは10代の終わりにフリマで買ったピーコート。確か100円だった。

「それまでは原色緑のパーカとか薄青紫の奇抜な服とか、何を着ればいいのかわからなくて何年も迷走していたんです。そんな時にこれを見て、もしかしてこういう落ち着いたのがいいのかな、と。理由はわからないのですがふと思い、以来、迷うことがなくなりました」

ちなみに、漫画の下描きやネームに使うシャープペンシルも10年以上の愛用品。

「洋服と同様、迷走していたのですが、あれこれ試した後、偶然手に入れた無印良品のシャーペンがピタッときたんです。何も意識しなくていい。描くことに集中できる。私にとって替えがきかないものだから、なくすとダメージが大きい。見失わないようカスタマイズしています」

迷走の果てに定番になったのは、たぶん、自分のキャラクターと乖離しないもの。

「漫画でも、着る物や持ち物がその人の世界観を表すのかなと思っていて、靴下の丈とか色をすごく気にしてます。今だったらおしゃれな子はふくらはぎ下ぐらいの丈で、いわゆるイケてない子は白のハイソックスで……というような。制服やスカート丈が同じ女の子2人でも、並んで下校する足元には違いがある。その描写によってクラスでの存在のしかたみたいなものまでが、なんとなく伝わるといいなあって」

身につけるものの面白さはそこにあるのかも。

GINZA2021年6月号掲載

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