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『神在月のこども』白井孝奈監督インタビュー

  • 2021.10.3
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『神在月のこども』白井孝奈監督インタビュー

忘れられない記憶の情景を初監督作品で再現

実力派若手女優の蒔田彩珠をはじめ、坂本真綾や入野自由、柴咲コウ、井浦新、神谷明など豪華な声優陣が顔を揃えることでも注目のアニメーション映画『神在月のこども』。本作では、大好きな母を亡くした12歳の少女が、ある使命と葛藤を胸に、神話の地「島根・出雲」を目指して走り出す姿が描かれている。

そんな話題作のアニメーション監督に大抜擢されたのは、アニメーターとして活躍している白井孝奈。『おおかみこどもの雨と雪』『かぐや姫の物語』の作画や『海獣の子供』の作画監督助手を担当するなど、将来が期待されている逸材だ。今回は、制作過程の苦労や喜び、そして初監督作品にかける思いについて語ってもらった。

──本作には原案から参加されたそうですが、どのようにして企画がスタートしたのか教えてください。
白井監督:私が所属しているcretica universalは、以前から映画の広告業務を行っている会社ですが、ただ宣伝するのではなく、映画館や地域と作品をどうやってつなげていくかという取り組みもしてきました。そんな中で芽生えてきたのは、自分たちが生み出す作品でも同じようなことができないだろうかという思い。そこから始まり、私は代表の四戸(俊成)に声をかけてもらって、途中から参加することになりました。
──日本の神々や出雲を題材としたのは、なぜですか?
白井監督:オリンピックや万国博覧会が日本で開催されることが決まったとき、国内外の方々に日本の文化に触れて欲しいと思うようになったからです。ただ、勉強をして知識を入れてもらうのはハードルが高い。そう考えたときに、アニメーションなら、より多くの方に広められるのではないかと考えたんです。そこで今回のような表現方法で、日本の神様というモチーフを題材にすることにしました。舞台を島根にした理由は、弊社の副代表で本作のプロデューサーでもある三島(鉄兵)の出身地ということもあり、思い入れがある場所を盛り込みたいという気持ちが大きかったと思います。
──監督のおばあさまも島根の方だと伺いました。そういったご縁もあったのですか?
白井監督:実は、それはたまたまなんですが、島根は小学校の頃によく遊びに行っていた身近な場所でもあったので、後付けだとしても、自分の思いを乗せられるのはうれしかったですね。とはいえ、大きくなってからは自分のことで忙しくなってしまい、しばらく訪れていなかったので、同じ国なのにどこか気軽には行けない場所のように感じてしまっていたところも。そんな中、今回のロケハンで訪れたとき、思っていた以上にすぐ行けるところなんだなということに改めて気付かされました。
──子どもの頃に見ていた島根の記憶が、映画に反映された部分もあったのでしょうか。
白井監督:私の祖母の実家が島根にありますが、かなり田舎の方だったので、実は松江と出雲には今回初めて行きました。その際、写真だけではわからなかった素晴らしさを肌で感じられたのは大きかったですね。「島根っていいところだと聞くけど、遠いよね」という声を聞くことがよくありますが、意外と行きやすいですし、本当に魅力的なところなので、それを多くの方に知っていただきたいなと。そのためにも、まずはこの作品で行ってみたい場所を探してみたり、バーチャルで味わったりしてもらえるといいなと思っています。
──その中でも、監督が忘れられない景色といえば?
白井監督:それは、出雲大社の近くにある稲佐の浜ですね。私たちが行った日は神迎祭(かみむかえさい)だったんですが、よくあるにぎやかなお祭りを想像して行ったら、なんと提灯や照明は必要最低限。人のためではなく、本当に神様のための儀式なんだと驚きました。こういった日本の文化がいまでも続いているということは、自分の目で見なければわからないことだったと思います。映画の中でも実際に私たちが通った道を描いていますが、そんなふうに肌で感じたことを込めました。

アニメーターから監督へ。スタッフの一体感が生んだ傑作

──白井監督にとっては、本作が初監督作です。完成に至るまでにはご苦労も多かったのではないかと思いますが……。
白井監督:本当に、最初はわからないことだらけでしたね。でも、立ち止まってもいられない状況だったので、その都度周りの助けを借りながら進んでいきました。特に難しかったのは、自分が思いついたことをいかにきちんと周りに言葉で伝えられるか。そして、それをいかにその通りに絵で表現してもらうかということ。自分がアニメーターだったときとは、まったく違う取り組み方だったのですごく大変でした。ただ、そのおかげで仕事の面だけでなく、人間的な面でもいろんな経験を積ませていただくことができたと感じています。
──特に違うところを挙げるとすれば、どんなことですか?
白井監督:求められていることに応えるという仕事の仕方をするアニメーターに比べて、監督の場合は、自分のところに各セクションからいろんなものがたくさん集まってきますからね。そのあたりに苦労しました。
──ちなみに、監督がアニメーターを目指そうと思ったきっかけについてもお聞かせください。
白井監督:小さい頃からディズニーのアニメーションが好きで、憧れていたのが始まりでした。もともと絵を描くのは好きだったんですが、大きな出会いは中学1年生のときに見たディズニーの『アトランティス/失われた帝国』という作品。それに衝撃を受けて、アニメーターを目指そうと決意しました。

──では、監督だからこその喜びといえば、どんなことが挙げられますか?
白井監督:違う部署から上がってきたものをすべて見せていただけたり、いろんな方とコミュニケーションを取ったりできるのは、監督という立場ならではの特権だったと思います。あとは、みなさんが私の求めていることや意図を組んだうえで、思っていた以上のものを仕上げてくださると、全員で一緒に作っている感覚を味わえてうれしかったですね。
──初監督の大変さに加え、今回はコロナ禍での制作に難しさを感じることもあったと思います。
白井監督:直接会うことができない辛さは、どのお仕事をされている方も感じていたことではないでしょうか。ただ、今回は初めからいろんな会社やほかの地域にいる方に作業をお願いしていたこともあり、リモートで進めていくというのが前提にはありました。なので、意識していたのは、いかにデジタル越しに仲良くなれるか。ミーティングの前後に雑談を入れてみたりしながら、離れていても一体感を出せるようにしました。出社できない時期を経験したからこそ、改めて人と仕事できる喜びを感じることができたように思います。
──こういう状況がストーリーに影響した部分はありましたか?
白井監督:コロナの感染が拡大する前に、脚本も絵コンテも完成していたので、この状況が作品の内容に直接影響を与えた部分はありません。ただ、スタッフの間にある「みんなで一緒に前進していこう!」という気持ちはより強くなったかなと。そういう意味では、それぞれの思いが込められた作品になったと思います。

声優初挑戦の蒔田彩珠はじめスタッフ皆が神がかっていた!

──カンナ役には女優・蒔田彩珠さんを起用されましたが、決め手について教えてください。
白井監督:最初に蒔田さんの声を聞いて感じたことは、意志の固さや一本筋の通った強さ。カンナはいろんなことに立ち向かい、戦っていく女の子でもあるので、そういう蒔田さんの声はピッタリだと思ってお願いしました。
──声優初挑戦ではありましたが、そういう不安はなかったと。
白井監督:そうですね。実写の作品で経験が豊富でしたし、演技においてはプロフェッショナルな方なので、きっとやってくださるという信頼感はありました。逆に、蒔田さんのほうが実写とアニメの違いに戸惑われることが多かったかもしれませんが、その都度しっかりと対応してくださったので、カンナは感情が乗ったいい声になったと思っています

──本作では、人間の役は俳優、神様に関わるキャラクターは声優というキャスティングに分かれています。どういった意図があったのでしょうか?
白井監督:実在する生っぽさが欲しい人間の役には実写で活躍されている俳優さん、実際に見ることができない神様たちには説得力のある声を出せる声優さん、というふうに世界を住み分けたかったというのが理由です。もともとはプロデューサーによるアイディアでしたが、両方のリアルを表現できる方に、それぞれお願いしたいと思ってキャスティングしました。
──実際、アフレコの様子はいかがでしたか?
白井監督:コロナ禍ということもあり、全員ひとりずつアフレコしたので、セッションすることはできませんでした。ただ、慣れていらっしゃる方が多かったので、みなさん長年の勘でわかってくださるんですよね。おかげで、とてもスムーズに進めることができました。
──では、制作過程で“アニメの神様”の存在を感じたことはありませんでしたか?
白井監督:アニメの神様がいるというよりも、「みなさんの技術が神がかっている!」とは常に感じていました。線画に色が乗り、美術が加わり、さらに特殊効果や音が入り……といった具合に、それぞれが合わさったときに生じる化学反応はすごかったですね。

監督として私の名前が最後にクレジットされていますが、あくまでもこれは役職の名前でしかありません。各セクションのプロフェッショナルなお仕事が積み重なって完成しているので、みなさんの“神技”がこの映画を作り上げてくださったのだと改めて感じています。
──それでは最後に、観客へのメッセージをお願いします。
白井監督:この作品は神様や日本の風土をモチーフにした作品ではありますが、ひとりの少女が経験する冒険と成長を描いた物語でもあります。カンナが悩みと葛藤を乗り越えて行く過程は、年齢や性別に関係なく響くものがあるはずなので、いろんな方にご覧いただけるとうれしいです。

(text/photo:志村昌美)

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