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家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.38 真夜中のキッチン

  • 2021.10.1
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クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。26歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は vol.37 日記とレシート

vol.38 真夜中のキッチン

ため息をついてソファに体ごと沈み込む。腰で座っているというより、首で座っている、に近い状態で規則正しく上がったり下がったりしている自分の胸をじっと見つめる。長い長い1日だった。ダウンライトが放つ淡いオレンジ色の光にまでも疲れを感じはじめ、ゆっくり目を閉じる。目を閉じても顔全体が光を感知し脳に伝達してしまうので、見てないのに、ぼんやりずっと眩しい。私を照らすダウンライトと、ダウンライトに照らされる私。

リビングの入り口にある操作パネルまで歩いて行って、光の加減を調節すれば済む話なのに、どうしても立ち上がりたくない。じっとしていると取り留めのない考えが次々に浮かび、その間中眩しさも感じていて、気が立って来る。何もかもが憂鬱になりはじめたので、諦めて目を開け、キャロットケーキを焼くことにした。

キッチンの明かりを付け、手を洗い、エプロンをする。クッキングスケールを取り出しオートミールを120g計りブレンダーでオーツ粉に。オーブンを170℃で余熱している間に、泥のついた人参を水でしっかりと洗い、黙々と擦り下ろしていく。根菜類は泥付きがあると、どうしてかそちらを選んでしまう。味がぎゅっと詰まっている気がするのだ。レアっぽい仕上がりが好きなので、大きめの人参を2本。手を動かし無心で作業していると、気持ちが落ち着いてくる。餃子を包むことでストレスを発散しているという友達を真似た時期もあったけれど、どうにも形にばらつきが出てしまって…生来大雑把な星に生まれついてる私には、ひたすら刻んだり、擦ったり、剥いたりする作業の方が気が楽なのだ。

ステンレスボウルに粉砕したオーツ粉と擦り下ろした人参、食感を出す為のオートミールを追加で30g、ベーキングパウダー、ココナッツオイル、卵、シナモン、塩、バニラエッセンス、隠し味にラム酒。生地の様子を見ながら豆乳か水を入れ、滑らかになったら型に流し込む。最後にナッツを適当に散らしオーブンで50分。砂糖を入れないのは、食べる時キャロットケーキの上にギリシャヨーグルトをのせ、蜂蜜をかけるから。フロスティングも大好きなのだけど、ホームメイドだと美味しくローカロリーにする工夫が出来るから良い。甘い香りがキッチンに立ち込めはじめた深夜。カフェインレスのコーヒーをマグからひと口飲んでおかしくなる。自然に上がった口角。何だか煮詰まっている歌詞も書けそうな気持ちになってくる。よし。エプロンを外して、今度は食卓にノートとパソコンを広げた。

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