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「コロナ疲れで飲み会に行ってしまう」そんな家族を引き留める"ある秘策"

  • 2021.9.27
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新型コロナウイルス感染症が広がり始めてから1年半以上になり、「対策疲れ」に陥る人もいます。なぜ対策疲れが起こってしまうのか、どうすれば乗り越えられるのか、精神科医の井上智介さんが解説します――。

居酒屋で乾杯するグループ
※写真はイメージです
気のゆるみの原因は「正常性バイアス」

新型コロナウイルス感染症の長期化が感染疲れを生み出し、気のゆるみにつながっています。

この背景にあるのが「正常性バイアス」です。正常性バイアスとは、緊急事態や異常事態が起きても、都合の悪い情報を無視したり、事態を過小評価したりして「自分は大丈夫」と考えてしまう心理を指します。

もともと人間には、ある程度までのリスクに対しては過剰な反応をしないしくみが備わっています。ささいなリスクに反応していたら、それだけで疲れてしまって、行動できなくなってしまいます。正常性バイアスは、ある意味自分の心を守ってくれる反応であって、決しておかしなことではありません。「リスクに対する反応の精神的な余白」とも言われています。

よく例に出されるのが、火災報知機のベルです。建物の火災報知器が鳴ったからといって、みんながすぐに避難するかいえば、そんなことはないでしょう。「きっと何かの間違いだ」「本物の火事ではないだろう」と考えて仕事を続ける人はいます。これが正常性バイアスです。

このバイアスが、今のコロナ禍にも影響しているのは間違いありません。

確かに多くの人が、コロナ禍が収束しない現状を不安に思っているでしょう。しかしその一方で、目の前で誰かが新型コロナに感染して苦しんでいるところに遭遇したことがなかったりすると、「やっぱり大丈夫なのかな」と楽観視してしまう。そして感染対策への関心が薄くなり、気のゆるみが出てしまうのです。

真面目な人ほど、「ゆるんでいる自分が許せない」と言いますが、自分を責める必要はありません。「正常化バイアス」は人間の心のしくみのひとつであって、仕方がないこと。ただ、コロナ禍のような状況では、こうした心理が働きやすいということは、知っておくとよいと思います。

自分のためではなく、誰かのため

とはいえ、正常化バイアスのせいで気持ちがゆるみ、感染対策がおろそかになると、ますます感染が広がり、収束が遠のいてしまいます。それは誰も望んでいないはずです。

ここを乗り越えるには、考え方を少し変える必要があります。それは感染対策を「自分のため」ではなく「大事な誰かのため」と考えること。自分のためと思うと「多分大丈夫だろう」と正常性バイアスが働きやすくなりますが、他人のためだと思えば「やれることはやらないと」と思いやすくなります。家族や恋人、友人など、大切な人の命を守るという動機づけのほうが、大きな力になりやすいのです。

気のゆるみを実感している人は、1日10秒でもいいので、「もし自分の大切な人が、感染して症状が悪化しているのに入院できず困っているとしたら」と、具体的に想像してみる。そうすると、「やはり対策しなくては」と思えるはずです。

断る「言い訳」になるルールを作る

しかし、もういよいよ感染対策がいやになって、マスクもせずに遊びに行ってしまう人も現実にはいます。「俺が我慢しているんだから、お前も我慢しろ」という同調圧力の中で、マスクもせずに遊びに行くというのは、ある種、空気を読まない人、というか、それが自分らしさだと思っている人でしょうね。

ただ、家族にそういう人がいると、ちょっと困りものです。

たとえば先日は、「20代の息子が『自粛はもう疲れた』と友達と飲みに行ってしまい、家族としては感染されても困るし、どうしたものか」という相談がありました。

確かに遊びたい盛りの20代の若者に、この状況はとてつもない閉塞感があるだろうし、それを親から止められると、ますます窮屈に感じて反発したくなるでしょう。

ただやはり、家族で何かしらのルールはあってもいいと思います。たとえば「緊急事態宣言中は友達と外食しない」「夜は20時までに帰る」などです。「もし感染したら、あなただけではなく、あなたの大切な友達にも迷惑をかけてしまうことになる」などと、丁寧に説明します。

親が提案し、話し合ってルールを決めれば、子どもは友達に「言い訳」がしやすくなるでしょう。子どもには子どものコミュニティがあるので、ほかの友達みんなが「一緒に飲みに行こう」と言っているところで、自分だけ違う行動はとりにくいかもしれません。しかし、こうしたルールがあれば、「いや、俺は別にいいんだけど、親が厳しく言ってくるからしょうがないんだよ」と言い訳ができ、友達との関係を気まずくさせずに断りやすくなります。親としては、そういった「逃げ道」を意識して作るのも良いと思います。

「達成感」でコロナ疲れを乗り越える

それでは、対策疲れを乗り越えるにはどうすればよいのでしょうか。

これはやはり、ストレス解消しかありません。

おすすめは、何か新しいことを始めることです。今までの生活になかった新しいことを始めることは、よい刺激となってストレス解消につながります。コロナ禍だと、できることは限られるように思えるかもしれませんが、実はいろいろ考えられます。

僕の患者さんの中にも、ガーデニングやミニ盆栽、オンラインのヨガや英会話、楽器のレッスンなどを始めた人がいます。

ポイントは「達成感」です。勝ち負けや点数だけでなく、「できなかったことができるようになる」という感覚が大事です。

コロナ禍の難しさの一つは、見通しが立ちにくいところにあります。いつまで続くかわからず、期限が見えない不安もあります。自分の力ではコントロールができない無力感もある。しかし、何か新しいことを始めて「できるようになる」という達成感を持てれば、そうした無力感を多少なりとも払拭ふっしょくできますし、「次は花が咲くのが楽しみ」「次は○○ができるように頑張ろう」と、次のステップが楽しみになります。

ゴールの見えないコロナ禍ですが、自分で小さなゴールを作っていくことで、何とか乗り切っていただきたいと思います。

トマトの苗を植える女性
※写真はイメージです

構成=池田 純子

井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医
島根大学医学部を卒業後、様々な病院で内科・外科・救急科・皮膚科など、多岐の分野にわたるプライマリケアを学び、2年間の臨床研修を修了。その後は、産業医・精神科医・健診医の3つの役割を中心に活動している。産業医として毎月約30社を訪問。精神科医・健診医としての経験も活かし、健康障害や労災を未然に防ぐべく活動している。また、精神科医として大阪府内のクリニックにも勤務

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