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正体不明の老女と出会い…米作家が日本語で描く青春小説『ばいばい、バッグレディ』

  • 2021.9.14
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悩める主人公とミステリアスな老女。出会って起きた、感動的な化学変化。マーニー・ジョレンビーさんによる『ばいばい、バッグレディ』。

タイトルにある〈バッグレディ〉とは、父が命の恩人だと言って家に連れてきた正体不明の老女のこと。〈フ〉と呼ばれる彼女を、これまでにも散々詐欺師たちに騙されてきた父に代わって、自分が追い出してやると決意を強くする相川あけび。そのあけびの語りで物語は進む。

「高校2年生くらいって子どもではないけれど、子どものように感受性が強く世界の理不尽を決して受け入れない年齢ですよね。私の人生においても重要な年頃でした。私自身も大人びたというか、大人を気取っていた高校生でしたが(笑)、日本の神戸女学院で教えていた頃の女子高生たちが、あけびという人物のインスピレーションになってくれました」

〈ごちゃごちゃと刺繍がついた長いストールを首に巻いていて、袋をいっぱい抱えて〉いる、個性的すぎる見た目のフ。そのストールに、ユニークな秘密がある。あけびはそれを知って苦悩し、成長もするのだ。

「息子が中学生のとき、生徒によるアートショーが行われ、ある少女が描いた絵に目が留まりました。平面充填というテクニックを使った絵で、ミシンから出ている布が紙いっぱいに広がっていたそれが、ストールのイメージに重なっています」

あけびや親友のアムール、あけびの両親やフ、周辺の人々など関係を通して描かれるのは、子どもの未来と大人の責任についてだ。それぞれが問題に直面し、ジレンマに揺れる。

「この世には子どもや若い人の情熱と未熟さを利用し、誤った信念を教え込んだりする大人がいます。自分が相手にどんな影響を与えているか、相手にとって健全な関係なのか、慎重に考える責任が大人にはあると私は思っています。若く真っすぐなあけびにそれを学ぶチャンスを与えたくて、こういう展開にしました」

現在はアメリカ在住のマーニー・ジョレンビーさんが、日本語で書いた本作。日常的に日本語を多く使う環境だというが、城狐社鼠(じょうこしゃそ)や慧可断臂(えかだんぴ)など、日本人でも難易度の高い熟語まで作中に飛び出すのは驚異的。

「小説の中で言いたいことを表す熟語を探してから、熟語とプロットが合うように調整したり。熟語が話により深い意味を導き出してくれるような感覚がありました」

作品世界もレトリックも個性たっぷり。後味のいい青春小説だ。

『ばいばい、バッグレディ』 売れない文筆家の父と暮らし、自分を残して出奔した台湾の人気女優である母を許せないあけび。親子関係や大切な友だちの悩みは晴れるか。早川書房 2530円

マーニー・ジョレンビー アメリカ合衆国ミネソタ州生まれ。2003年、ウィスコンシン州立大学で日本文学博士号を取得。あまんきみこ氏、城戸典子氏らに師事。現在は、ミネソタ大学で日本語講師をしながら小説を執筆。©カート・ジョレンビー

※『anan』2021年9月15日号より。写真・中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)

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