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本屋大賞2位、青山美智子の最新作。ココアと抹茶、好きな方から読んでみて。

  • 2021.9.13
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今年4月に発表された2021年本屋大賞で2位を獲得した青山美智子さん。デビュー作『木曜日にはココアを』から4年、このたび待望の続編『月曜日の抹茶カフェ』(ともに宝島社)が刊行された。

物語は、川沿いの桜並木のそばに佇む「マーブル・カフェ」から始まる。ここは知る人ぞ知る小さな喫茶店。

店長は50歳ぐらい。小柄で痩せていて、のほほんとした顔。おでこのほくろにインパクトがある。みんな彼を「マスター」と呼ぶ。

1杯から始まる、12のストーリー

「わたしたちは、知らないうちに誰かを救っている」――。

川沿いを散歩する、卵焼きを作る、ココアを頼む、ネイルを落とし忘れる......。小さな出来事がつながり、最後はひとりの命を救う。

前作『木曜日にはココアを』では、1杯のココアから始まる、東京とシドニーをつなぐ12の心温まるストーリーが展開されていた。

「この縁は、きっと宝物になる」――。

そして本作『月曜日の抹茶カフェ』では、「マーブル・カフェ」が定休日の月曜日に1度だけ「抹茶カフェ」を開くことに。

人は知らず知らずのうちに、誰かの背中を押していることに気づく。1杯の抹茶から始まる、東京と京都をつなぐ12ヵ月の心癒やされるストーリーが展開されている。

本書は12のストーリーからなる連作短編集。

1つのストーリーに登場する主人公以外の人物が次のストーリーで主人公になる形式で、「マーブル・カフェ」から生まれる人々の「縁」を辿っていく。ゆるやかにつながってはいるが、1話完結のため前作・本作のどちらから読んでもいい。

■目次
1 月曜日の抹茶カフェ(睦月・東京)
2 手紙を書くよ(如月・東京)
3 春先のツバメ(弥生・東京)
4 天窓から降る雨(卯月・東京)
5 拍子木を鳴らして(皐月・京都)
6 夏越の祓(水無月・京都)
7 おじさんと短冊(文月・京都)
8 抜け巻探し(葉月・京都)
9 デルタの松の樹の下で(長月・京都)
10 カンガルーが待ってる(神無月・京都)
11 まぼろしのカマキリ(霜月・東京)
12 吉日(師走・東京)

1話あたり長くて20数ページ。ここで終わっちゃうの......と惜しい気もしたが、さらさら流れていくからこそ、描写されない部分を想像する楽しみもあった。

「縁」は種みたいなもの

ここでは、表題作「月曜日の抹茶カフェ(睦月・東京)」を紹介しよう。

1月半ばのある日、私は何かとツイついていなかった。遅い初詣を済ませ、大好きな店で気分を上げようと「マーブル・カフェ」へ向かう。

しかし、その日は月曜日。定休日だった。やっぱりツイていないと思ったが、「マーブル・カフェ」のプレートは「マッチャ・カフェ」に書き換えられ、1日だけの「抹茶カフェ」になっていた。

店に入ると、マスターと和服姿の男性店員がいた。メニューには「濃茶 一二〇〇円 薄茶七〇〇円 どちらも和菓子付き」とある。ずいぶん本格的だ。

濃茶と薄茶の違いはよくわからなかったが、年始の開運祈願ということでちょっと奮発して濃茶を注文した。どんなに美味しいだろうと一口飲んだ瞬間、あまりの強烈なえぐみに「ぶへっ」と変な声が出た。

お茶の選択までツイていないのかと思ったが......。じつは私の身に起こった一見ツイていない出来事の1つ1つが、私をツイている方向に導いているとしたら――。

「人でも物でも、一度でも遭遇したらご縁があったってことだ。縁っていうのはさ、種みたいなもんなんだよ。小さくても地味でも、育っていくとあでやかな花が咲いたりうまい実がなったりするんだ。種のときは想像もつかないような」

人と人の「縁」はマーブル模様のようにつながっていて、どこかの誰かが自分に影響を与えていたり、その逆もあるかもしれない......。そんなスケールの大きな想像が膨らんだ。本書は、カフェでほっとひと息ついて席を立つ瞬間のような気分になれる作品。

■青山美智子さんプロフィール

1970年生まれ。愛知県出身。横浜市在住。大学卒業後、シドニーの日系新聞社で記者として勤務。2年間のオーストラリア生活ののち帰国、上京。出版社で雑誌編集者を経て、執筆活動に入る。第28回パレットノベル大賞(小学館)佳作受賞。デビュー作『木曜日にはココアを』(宝島社)で第1回宮崎本大賞を受賞。同作と2作目『猫のお告げは樹の下で』(宝島社)で未来屋小説大賞入賞。『お探し物は図書室まで』(ポプラ社)で2021年本屋大賞2位を獲得。他の著書に『鎌倉うずまき案内所』『ただいま神様当番』(ともに宝島社)などがある。

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